寄生虫
数日後。
昼休みを挟み、五限の体育。
天宮真鶸が欠けたことにより、バスケのメンバーチェンジが行われた。
実力と人数を考慮し、戦力を均等分配する形だ。
最低限試合が成り立つように、という体育教師の配慮が伺える。
しかし条件は完全に対等という訳にはいかず、二チームが人数を欠けた状況になっている。
天宮真鶸と花染千雅子の存在は、心にポッカリと穴が空いたような虚しさを伴って去来する。
前者は戻る目安が付いているが、後者は音信不通。
「―――早くしないと居場所なくなっちゃうよ」
誰に聞かせるでもなく、内心を独り言ちる。
もっとも、切っ掛けを作った私本人が、それを言うのは筋違いなのかもしれない。
彼女は今どこで何をしているのだろう、貧相ながら想像を働かせることしか出来ない。
そして、同じグループになったのが・・・。
「気になってたんだけどー、小美野さん何部?」
笑顔で小首を傾げ、隣に座す両国由夢であった。
彼女はここ数日、何故か頻繁に話しかけてくれる。もしかしたら、私が落ち込んでいることに気が付いて、心配してくれているのかもしれない。
先程の件に加えて、新たに発生した問題―――あの病院から電話は今も影を引きずっている。
それにしても、修学旅行以降やたらと距離が近くなっている気がするのは気のせいだろうか。
「科学部だよ」
とはいえ、真鶸ちゃんがいないなら部活に行く必要もない。
放課後に何をしようか、しばし途方に暮れる。
・・どうやら思った以上に、私の生活は彼女に依存していたらしい。
そもそもあの居場所を作ったのだって―――。
「じゃあお邪魔してもいい?」
「え?」
「ほら・・まだ部活決めてなくって、見学させてよ」
両国さんは肌こそ白いが、見るからにスポーツ系女子。
何でわざわざ、科学部に興味を持ったのやら・・・。
しかし、強いて断る理由もなかった。
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「修学旅行でねー。面白いもの、見ちゃったんだー」
両国さんは化学室へ入るなり、開口一番に直球をぶつけてきた。
後ろで両手を組み、わざとらしく足を上げて歩く。
物珍しそうに、整頓されたビーカー類を矯めつ眇めつしている。
「へー何を?」
「―――――特殊能力者――――――」
振り向き、とびきりの笑顔を咲かせた。
大輪の花という形容が正しい、人の目を楽しませるソレは残酷なまでの喜びに満ち溢れてた。
恐らく穢れなき無邪気さに疑いはない。
子どもが笑顔で、アリの巣を水攻めする様子が脳裏に浮かぶ。
無邪気ゆえの残酷さ。
アリには拒否権も抵抗する力もない、ただ為すが儘に溺れ死ぬ。生物としての格が違えば、命の価値すら路傍のゴミ以下にまで失墜する。
そこに倫理や常識が介在する余地はない、何せ対等ではないのだから。
アリの目線で見上げれば、人は巨人にも変貌せしめる。その絶望感、恐れは如何程であろうか。
今の私は、米粒一つにも満たないアリだった。
口が乾いて、唾が上手く出てこない。
何気なく、意識することなどない生理現象が停止する。
―――思考も停止する。
ミラレタ?
わざわざ人気のない場所で嘘を吐くメリットは?
なぜ、どうして、疑問だけがグルグルと渦巻く。
「詩風君と和月君だけ?」
それは、
「小美野さんと天宮さんは?」
当然の疑問、
「スカイタワーで何があったの?」
矢継ぎ早に投げかけられる疑問の数々。
つまり、落下の瞬間。
あの場に、両国由夢がいた。
一部始終の目撃者が――――いた。
走馬灯のように、スカイタワーの出来事がフラッシュバックする。
「ああ、そうなんだ」
まさか顔に出ていた、のか?
「黙っていて欲しいよね」
静かに、頷く。
「うん、いいよー」
本当か・・!よか―――。
「なら今夜付き合ってよ・・・面白いものを見せてあげる」
再びの、凶悪なまでに可愛らしい笑顔だった。
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レウコクロリディウム―――――両国由夢。
対象のカタツムリに寄生し、操作して鳥に食わせる。
鳥の体内で繁殖、糞として落下して活動範囲を広げていく。
その残虐な手口で有名な、ある種の寄生虫である。
――――嗚呼、刻一刻と根は深まるばかり。
彼女の名前を考えるのに一週間掛かったのは秘密です。
音の漢字化、響きが気に入っています




