stepping her figure is looked like a rabbit
【詩風愛汰side】
「「あのっ」」
同時のタイミング、二人の声が重なる。
「ど、どうしたのかな!?」
「何ですか!?」
ああ、絶望的に噛み合わない・・・!
彼女は沈黙に耐え兼ねたのだろうか。長い白髪の中に顔を埋めてしまい、表情は伺い知れない。
その姿は、透き通ったウェディングドレスのベールを連想させる。
触れれば壊れそうな繊細な一糸々々が、少女の体を優しく包み込んでいる。
――触れたい。
無意識の内に手が伸びて・・・しかしその寸前でハッと我に返った。
無垢なる白糸を汚すことに、その儚さに躊躇いを覚えたのだ。
この白銀を一度目にしてしまえば、万人が飽きることなく目を奪われるのではないだろうか。
僕なんか眼球潰れる勢いである。
そして、せっかく話しかけてくれたのに、機会を逸してしまった。
一度途切れた会話を繫ぎ直すのは至難の業、どうしたものか。
そもそもの話、先日の一幕を経てから会話が億劫になり、しばらく来訪を抑えていたことが原因と言える。
とはいえ、現状に甘える訳にもいくまい。
そういった決意を持って、この世界にやって来たはずなのだが・・・・。
顔を合わせた瞬間が、冒頭のやり取りである。
気まずい、もうすっごい気まずい。
思い返せば、感情のままに怒鳴り散らして、彼女を全力で突き飛ばした。
切羽詰まっていたとはいえ、生涯一の大失態。
それもこんな綺麗な子に対して、だ。
話を聞いて全体を俯瞰してみれば、全てが理解できる。
加えて僕らを助ける、明確なまでの理由が提示されてしまった。
理由、もしくは証拠と言い換えてもいいソレ。
「ごめんなさ・・・痛い!?」
腰を折り頭を下げると、頭部に何かが当たる。
目だけを動かして、その正体を確認する。
息を飲んだ――。
吐息さえ届く距離に、驚くほど小さな顔。
ちょうど合わせ鏡のように、お互いが同時に頭を下げた状況。
「え・・・ぶつかった?だ、大丈夫?私そういうの知らなくて」
二つの宝石のような碧眼に、詩風愛汰が映し出された。
声を大にしてもう一度言おう!吐息さえ届く距離に・・・・。
あ、息が届いた、カシス風。
「ごめんなさい許してくださいわざとじゃないんですでも嫌な訳じゃなくてですね―――!!」
言い訳のような何事かを叫び、一歩後ろに瞬間移動。
「あ、だから離れたら」
静止の声は既に遅く・・・。
ドボーンと、豪快な音を立てて入水した。
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「だから謝らなくていいの、説明不足の私が・・・ぷっ」
「・・・・」
濡れ雑巾のような僕を見て、彼女は破顔する。
まぁいいけど。
むしろ話題になるし?問題ないし?
実際意地を抜きにしても、彼女の笑顔を見れて満足。
うん、かわいい。
「だから、そんな雨の中段ボールに捨てられた子犬みたいな・・・ぷっ」
「僕どんな顔してるんです?」
そんなみすぼらしい恰好・・してるね。
ワイシャツも髪もずぶ濡れ、ポタポタと水が落ちてくる。
「もう・・。敬語は要らないって、分かったでしょう?」
「いやでも結び付かないというか、最初の印象が大きいというか」
「あれは隠す必要があったから」
なるほど。最大の敵は特殊能力肯定派代表、代永伊鶴。
前回のスカイタワーは、両陣営の戦力を削る時間稼ぎ。
では次はどう攻撃する――?
この可憐な神様は、どこまでを見通しているのか。
「・・それで、さっき見せてもらったけど、面白い使い方してるのね」
「瞬間移動が、面白い、ですか?」
最近覚えた、短距離ゼロ秒移動のことだろうか。
僕の能力は、未来に移動するものと認識している。ただし現代に戻る際に、ズレが生じる。場所だったり時間だったり、それが瞬間移動のように見えるだけ。
なお、未来にいられる時間は無制限。
何時までもいられるし、限りなくゼロ秒に近づけることも可能。
「君は変に小器用な所があるからね、感覚派と呼べばいいのか。
いずれにせよ、それが問題だったの。
問題を、新しい答えに変えてしまったのが原因よ。
血流を意識したことはない?
誰かに能力の使い方を聞いたことは?」
「・・・?ない、です」
「なるほど、だから気が付かなかったのね。
考えたことはない?瞬間移動の際に、ここへ飛ばされる理由」
「空間移動によって、時間がねじ曲げられている、とか」
「なにそれ、ファンタジーなのね」
え、僕。高校生にもなって夢見がちな少年なの?
それが許されるのは小学生まででは――――。
いやそう言えばいつか・・・前にも言われたか?
「事実はもっと単純、混ざっているの。
むしろ、よくもまぁそんな使い方が出来るものね。ビックリしちゃった、混ぜるな危険」
「僕の能力は洗剤なんですかね」
「瞬間移動の対象が自分に限られるのも、それが原因よ」
前髪を縫うようにして、少女の小さな手が額に当てられる。
ヒンヤリと冷えた感触。
接点は一部分だけなのに、心臓が激しく反応する。
手に汗が溢れ、顔が紅に染まる。
この振動が、どうか伝わりませんように――――。
「さあ閉じたよ、使ってみて。
座標は……上空でいいよ」
額の感触を強く意識し、瞼を閉じる。
行き先を思い描き、暗い自分だけの世界を変革する。
この能力は想像力が肝要、ゆえに視界を閉じて集中しなければ使えない。
ならば、持ち前の想像力が最大の武器。
より強く早く思考すれば、無限にどこまでだって行ける。
――――血の逆流が、電撃的速度で全身を迸った。
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見渡す限りに雲海。
海に反射する光だろうか、眩しさに対して薄目を開けて俯瞰する。
いや、ここは空じゃない。
もはやその範疇には収まらない高度、宇宙と空の狭間。
人間が生存できるギリギリの境界線に、足を踏み込んでいる。
高さの感覚が麻痺して、落下しているはずなのに、浮いているような錯覚。
「ほら出来たでしょう、この感覚を忘れないでね」
今までは、体内を蹂躙される感触だった・・・。
それは明確な違い、血中から何かが抜き取られるような―――?
「付いてきて?」
彼女の足先を中心にして、空中に光の波紋が広がっていく。
そこを足場にして飛び跳ねた。重力を無視したように、穏やかな跳躍。
彼女が元気に飛び跳ねる姿は、まるでウサギのようだった。
「ねぇ、ピョン子って呼んでいいかな!」
「私神様って言ったよね!?」
駄目かー。
白くて似ていると思ったんだけど・・。
思わず肩を落とす。
そうすると、ちょうど地球の全貌が見えて。
見えて、しまう。
―――待て。待ってくれ、何だこれは。
これが地球・・・?




