不確かな背中
「――ここは?」
車を降りれば、体育館ほどの広さの空間。そこは駐車場というよりも、不思議と博物館のような印象を覚えた。
気になったのは妙な統一感。集まった車は大体であるが、三種類に分けられる。
私達が乗ってきたような装甲車、黒塗りのリムジン、一般的中型車。
それらが種類ごとに、三つの集団が作られているのだ。
違和感はそれだけに留まらない。辺りには発券機の類が見当たらないし、人気もない。
そして重要なことに、出口がどこか分からない。
というのも、後部座席から外部の景色は遮断されていたのだ。
乗車してから5分も経っていないので、都市部の近辺だということは推測できるが・・・。
どこを眺めても閉鎖的で、頑丈な壁に覆われているのが分かる。
息を吸えば地下独特の、空気の圧迫感が感じられる。どこかくぐもった、風の動きがない鈍重な空気である。榎並曰く、
「特殊能力肯定派、京都支部です。能力者の保護、研究、治療施設でもあります」
そして、どこからか現れた防菌服を纏う者たちが、手早く天宮真鶸と和月凪柊を運び出していく。
当然彼らに付いて行こうとすると、「小美野さんと詩風さんはこちらです」と榎並に止められる。
外の惨状を考えれば、近くの病院は大混雑に違いない。最優先で治療してもらえるのは有難いが、どうにも不安が残る。
しかし今は託す他あるまい。彼らの力を借りると、決めてしまったのだから。
断腸の思いで、二人を見送った。
榎並に先導されて、白く長い通路をただ歩く。無機質な景色の連続により、もはや方向感覚は当てにならない。
ここは居住区だろうか、個室の扉が点在している。
「ああ――。別に監禁してる訳じゃねぇ、人間社会は異物を排除するように出来てる。中には、今いる能力者が原因だ、なんて噂も流れてる」
「まぁ能力者が残っている限り、世界はソレを忘れられないでしょうね。だから彼らは、ソレが許せない。能力を捨てることが、人類の進む道だと考えているんです。本当に愚かね――――」
大型トラックの運転手が思い出される。憎しみの籠った言葉ばかりが頭に残っているが、よくよく記憶を探れば――。
男の顔は恐怖で染まっていた。
能力者が何をしたかではなく、その存在が世界の進歩を遅らせる癌である、という考え。
・・知らない。
知ったことか。他人の勝手な考えを押し付けられても、私達だって生きてるんだ。
なにより友達を傷つけられたんだ、許せない。
―――あれ、もしかして私って。
「言わば、そんな世界に適応できない能力者の保護施設。ここにいる者は本人の了承を得た、能力研究の為の協力者です。従って、彼らには破格の対応で優遇しています」
「具体的に何を協力するんですか?」
興味が湧いた。報酬如何によっては・・・。
「まず身辺調査、身体検査などを通して、体と心の隅々まで明らかにして頂きます。特に能力が発生した時期、場所の詳細は念入りに調べますね。加えてその能力の開発と、原因を解明して一般への普遍化を目指します」
「その、対価は――――?」
「望みのままに」
「――――――」
脳で言葉を咀嚼する間、目を閉じ肺の中の息を吐き切る。
悪い話ではない。世界の為という大義名分があるし、デメリットは私の自由が失われるだけ。
・・・なら。
うたの病気も、治せるんですか?
その音とも言葉とも言い切れない、ささやかな息が空気を濡らした瞬間だった。
「それでもアイドホールが、紫花を襲ったことは事実です。そんな危険な奴がいる場所、行く訳ないでしょう。・・・だろ?」
詩風愛汰が、私の前に割って入る。
「―――そう、だね」
あの場にいた襲撃者は二人。
ナイフの男と、銃の男。
これだけの情報で、どうしてアイドホールがいたと分かるんだ?
銃の男は車内にいた為に全貌が掴めないというのに、どうして自信満々に断言できる。
そして詩風愛汰は当事者でない以上、銃の男の声も聴いていない。
・・・守ってくれる男の子の背中に、既に頼もしさはなく。
背後から見つめる視線に、秒ごとに不信感が増していくことを彼は気づかずにいた。




