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黒き萌芽

地震を連想させる描写があります。

ご注意下さい。

 止まった世界。

 荒い息遣いだけが聞こえる。心臓が忙しなく、血液を送り続けている。

 ――生きてる。


 高度130メートルから落ちて、無傷。

 否、それ以前の負傷はあるが生存している奇跡。

 私の背は地面に接着、二人は浮いた状態で停止していた。

 握られた手から、激しい血液の脈動を感じられる。

 命の音が、早い。


 ドポッ、温かい液体が降りかかった。・・・雨?

 セーター越しに、真っ白なワイシャツが赤に塗られていく。

「わっ!?」

 同時に、二人分の体重が圧し掛かる。

 その衝撃は50センチの高さから落ちた程度の、ささやかなもの。


「だいじょ・・」

「お、ゲボッ。ゴホッ、ォオオ、オオオオオオオオオ―――」

 どぱどぱ、血が口から溢れる。

 瞬く間にコンクリートは、血の海に沈んでいた。

 脛と太ももに、生温かい液体が絡み付く。

「え」

「ガ、は・・。ああ、ああああ――」


 何故、どうして。

 やっと無事だと、安心したばかりではないか。


「だ、誰か!?助け、救急車呼んで下さい!」

 けれども、その声に耳を傾ける者はいない。そして、彼らに注意を向ける者もいない。

 なぜなら――。


 スカイタワー京都から、超重量の鉄塊が落下。

 コンクリートが割れ、地獄の門が開いたような地鳴りがする。


 ・・立っていられなかった。

 跪き、再び血の海に沈む。


 鉄塊の断面から、捩じ切れたワイヤーメッシュが伸びていた。

 日中で人通りの多い駅前は、混沌と化す。

 それは恐慌状態。人が人を踏みつけて、我先にと生存を勝ち取る地上の地獄。


 今まで、それらの悲鳴が聞こえなかったのが不思議でならない。

 それだけ狼狽していたのだろうか。

 しかし能力を気にする者がいない、という意味では幸運だったのかもしれない。


「落ちるぞぉぉぉぉ!!!」

 誰かの声がして、地震が起きた。

 先程とは比べ物にならない激しい縦揺れに襲われ、体が跳ねる。

「も・・やだ・・」

 スカイタワー京都は全長の7割を持って、市内を押し潰した。


 やがて和月凪柊(わづきなぎと)の体が、細かな痙攣を始める。

「あ、だめ。死んじゃ・・」

 血に染まった手で背中を擦る。

 天宮真鶸(あまみやまひわ)も、血の中で死んだように眠る。

「もう・・わかんない・・」


 一旦落ち着いた駅前に、新たな悲鳴が聞こえた。人の群れが割れて、車が現れる。

「・・救急車?」

 否、それは大型トラック。


 衝突すれば、人間がミンチになるだろう重量。それが、フルスロットルで進む。

 どこに・・私達に・・?


「はは」

 もう体に力は入らず、避ける気力もない。

 ――何より、二人を抱える力なんて、私にはない。


 ブレーキはかからない。全速力で、潰しに来る。視界を埋め尽くす、大型トラック。

 圧倒的な力が目前に―――。

「ああ、しんだ」


 ――風が耳をくすぐった。顔の真横を腕が通り抜ける。

「え?」

 目と鼻の先にはトラック。ぶつかるまで、4センチもない距離。

 それが、動かない。いつまで経っても静止している。

 音もない、停止。


「・・何、してるの!?」

 和月凪柊の体を揺する。オーバーフロー、明らかに能力を使い過ぎている。

「駄目だって言ったのに、やめてよ・・」

「真鶸。連れて、行け・・・」

「何、言ってんの・・?」


「死ね!死ねよ化け物!!存在が世界の癌なんだよ!お前らがいるから世界が進展しないんだよ!!消えてくれよ!?」

 運転手からの罵声。

 男は執拗に、繰り返し繰り返し、ペダルを踏み続けている。

 激しい憎しみを込めた視線が突き刺さる。

 生まれて初めて浴びるそれは、恐らく殺意と呼ばれるそれ。


「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて」

「早く・・・」

「死ね」


 怖くて動けなかった。耳を押さえ、蝸牛のように丸く蹲る。

 私が悪い?わるい?

 何をしたの?どうか教えてください、神様・・。


 その時、人の気配が増えた。襟を掴まれ、体が浮いた。

「え・・あっ!」

 地に叩きつけられて、痛みが走る。

 人間が落ちる鈍い音、それがもう一度響く。天宮真鶸が私の傍に投げられた。


「・・俺はいい。手、離すと・・」

「なら触ったまま動かせばいいんだろ!?」

 ズルズル引きずって、トラックの側面に移動。

 そして、力を失った手がズリ落ちる。車には縦に真っ直ぐ、血の跡が残された。


 同時に、トラックが急発進。

 しかし、そのまま走り去ってくれるはずもなく――。

 ドリフトして、再び突撃してくる。

 地は摩擦熱で湯気が出て、黒いタイヤ跡が残る勢い。


「僕が運転席に飛ぶ」

「タイムラグあんだろ!やっぱり俺が・・げぼっ!!」

「見ろ、無理じゃないか!」

 言い合う間にも、トラックは接近していて――。

「・・駄目だよ」

 無意識に足が動いて、二人の前に立つ。

「「ば・・」」


 発動してよ、お願い。

 だって無敵なんでしょ?

 なら、あんなトラックになんて負けない。

 消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろ!

 世界が私を否定するというなら、私もまた全てを否定しよう。


 ドクン―――血液が脈動、自然の流れに逆らった()()が存在を声高に主張して、


 同時、飛来する。

 極大の質量が視界に割り込み、埋め尽くす。

 地面のコンクリートを巻き込み、盛大に火花を散らし、プリンのように易々と抉り進み―――衝突。

 

 グシャリ、鉄塊が滅茶苦茶に潰れる轟音。

 横から力を加えられたトラックは、進行方向を強制的に外されて、堪らずに横転。


 ―――止まらない。

 まだ・・まだ止まらない、どこまでも押し進む。


 半ばで折れたスカイタワー、その根元にまで到着―――爆発。

 揺れる、その影響で瓦礫がボロボロと零れる。


 凍てつく冷気により、全身にゾワリとした鳥肌が広がっていく。

 その原因は、或いは恐怖・・・。

「なにが・・」

 トラックは、透明な美しい杭に串刺しにされていた。

 あの速度の重量を、吹き飛ばした・・?

 それに、何だあの大きさ。


 汚れのないパンプスが、煩雑とした地面を叩く。

「初めまして。特殊能力肯定派、代表付き第一秘書、榎並(えなみ)と申します。代永様の命により、あなた方を――」

 髪の長い、眼鏡を掛けた女性。果たして、彼女は敵か味方か。

 切れ長の瞳と、目が合う。


「救いに来ました」


これで今日は終わりです。

お疲れ様でしたー!

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