救われている世界
熱い・・。頭がぼやける。
さっさと体を洗って風呂に飛び込んだ為、長湯になってしまった。
お陰で体が火照って仕方ない。多分顔も赤くなっているのではないか。
髪がまだ濡れているのが、せめてもの救い。
歩く振動によって、顔にぺちぺち当たって涼しい。
「え!?」
「?」
凪柊が、驚いたような格好で停止している。
「あ。見と・・・」
「カロリーメイカー二つ!」
「へーい!!」
凪柊と真鶸ちゃんが、手を打ち合わせる。
パチン、小気味よい音。
「あぶね・・。じゃあ」
そう言い残して、浴場へと走り去る。
「案外、違うのかもね~!」
よく分からないが、商談成功によりご機嫌な彼女であった。
階段を下り、一階へ。暑いので、売店で何か買おうという考えだ。
ホテル入口の端で、男性が椅子に座って本を読んでいる。
「あれ小川先生?」
脱走者が出ないように見張っているのだろうか。まぁ凄く本に集中してたけど。
「ずっといるんですか?」
「ん?ああ、交代でな」
「大変ですねー!」
「だろ?親御さんから預かっているからな」
危険な真似はさせられない、ということか。
「まぁお前らは大丈夫そうだけどな?」
頑張って下さい、と告げて購買へ。
そこには生徒だろうか、若い顔がちらほらと見つかる。
私が選択するのは雪雪ダルマ。二つの小さな大福が入っていて可愛い。
加えて、フォークも付いているので手が汚れない。気軽に食べられるのが魅力的な一品。
真鶸ちゃんが選んだのは、ゴリゴリさん。かつては痩せていた少年も、今やゴリマッチョへと成長した。
氷菓子という括りを破壊する大ボリューム、カロリーを誇る。
「2000円になります」
「はい!」
「アイスの価格ではないよね?」
部屋に戻る途中で、
「あれ、愛汰?」
「ん、ああ・・・」
「元気ないねー!」
声は小さく、顔色も悪い。調子が悪いのだろうか。
というか――。
「痩せた?」
彼は風呂上がりで、Tシャツに短パンというラフな格好。
そのTシャツから覗ける首元には、鎖骨が浮いている。
「もっと食べなよ!男らしく」
「真鶸にだけは言われたくないな!!いろいろ心外だよ!」
ここしばらく、部活にも顔を出していなかったし。なにか予定があったのだろうか。
「ともかく、早く寝たほうがいい。明日は、忙しくなるから」
階下へ降りる姿を見送る。
暗闇に沈む姿は、彼の未来を予兆させるようだった。
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13年前。
特殊能力が消えた結果、世界中で異変が起こった。
最初は混乱が巻き起こる。
今まではあって当然だった、体の機能が奪われたのだ。それは腕をもがれた痛みと同義。
現代人から文明の利器を無くすことが出来ないように、能力も心の主柱であった。
それがデメリット。人類の可能性は、確実に狭まった。
だが、寿命は延びた。
平均死亡年齢が、20年も増大したのだ。なんと驚くべきことに、70歳に至る者も確認されている。
今までは60年も生きれば、大往生と言われていたのに・・・。
特に若者の数値は顕著。
若気の至りで、能力を使う愚か者がいなくなったのだ。
彼らが成長すれば、80、90歳まで生きると予測されている。もしかしたら、100年すら超えてしまうかも――。
いや、流石にそんな世界はあり得ないか。
人間の原初の思想は、生きること。
生まれ落ちたばかりの赤ん坊すら、泣き叫び、生きたいと主張する。
それが全て。
主義主張なんてものは、後付けのパーツに過ぎない。
命があれば何でも出来る。
何が特殊能力肯定派、何が人生の密度。下らない、そんなものに価値はない。
能力は、煙草や酒と同じ。劇薬のようなもの。
使えば使うほど全能感に支配されて、止められなくなる。
つまり、世界は救われている。
能力は、人間の発展に不要な存在だ。これ以上、誰も不当に死なせない。
もう彼女のような、悲劇は繰り返さない。
「必ず世界を守ります」
「ではボス。本当に宜しいのでしょうかぁ?」
「やって下さい。原因は気になるが、奴は放置できません」
このままでは、否定派の根幹が揺らぎ兼ねない。むしろ狙うなら、ここしかない。
可愛そうではあるが、犠牲も止む無し。
「本当にルールを破るのか?」
「花染さん、馴れ合いは不要です。相手が油断しているなら好都合でしょう」
「だが世論は確定し、疑いは確信へ変わる。冤罪と言い逃れは出来なくなるぞ」
「それでも。世界の敵となろうとも、世界を守る為に必要なのです」
「・・・なら、いい」
手元のカップを口に運び、啜る。
口に広がる苦みが心地よい。何が起きようとも、間違いでさえも飲み干して見せよう。
能力のある世界を救おうとする者
能力のない世界を守ろうとする者




