完璧への羨望
夕食が終わり、一旦部屋に戻る。
だが落ち着く暇はなく、お風呂の時間が差し迫っていた。
これもクラスごとに時間が定められていて、間に合わなければ部屋備え付けのユニットバスを使う他ない。
そうなったら最後、地獄である。
まず浴室とトイレが一緒にされている為、狭くて使い辛い。
さらに浴槽内で体を洗わないと、周囲がびしょびしょに濡れる。
もはや非の打ち所しかないのでは、ユニットバス?
打ち放題のバッティングセンターなの?
というわけで、是非とも浴場に行きたいところ。
着替えとタオルを用意して、準備完了。
時間は限られているので、先を見据えて行動していく必要がある。
「それで二人は、和月君と詩風君どっちが好きなの?」
でた。修学旅行あるある!
そんな目を輝かせた、同室の女の子からの質問に対して――。
「「ないなー」」
どうでもよさそうな声が被る。
申し訳ないが、浮ついた話とは無縁なのだ。
「えー。いつも一緒なのに?」
「「ないなー」」
・・・改めて考えても、ないなー。
ないわ、うん。
「なーんだ。つまんないな。じゃあ二人は、お互いが好き?」
ん?
「好きだよ!」
んん?
後ろから抱きしめられる。
「おおー」
「で、小美野ちゃんは?」
「あ、はい。好き・・です、はい」
・・・んんん?
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女湯の脱衣室には女教師が待機している。
ぴぴぴ、アラーム音が響いた。
「はい時間ねー。ほら出て出て」
こうして時間ごとにローテーションして、生徒を入れ替える仕組み。
入浴時間は15分だけ。
なにせ数が多いのだ。一般利用客を考慮すれば当然の判断だった。
周りが急いで着替える中、私は動けない。
ようやく、今になって気付いたのだ。服を脱げば、アレが見られてしまう。
・・・・・。
時間が無いことは分かっている。
分かっているのだが、服を脱ぐことに抵抗があった。
どうしても、腕が止まってしまう。急かす心とは裏腹に、体が動かない。
「――――」
それは肌を晒すことではなく、傷跡を晒すことへの羞恥心。
見られたく、ない。嫌だ。
考えないようにしていた、ツケが回ってきた。
「入らないの?」
両国さんの悪気ない一言が、心を刺す。
まるで見透かして、計ったようなタイミング。
「何してるの、早くしなさい?」
続けて先生の声が加勢する。
私はこんなに憶病な人間だったか?人目を気にして躊躇う、弱い心が憎たらしい。
ドクン、ドクン、ドクン――。
やけに心臓の鼓動がうるさい。
どうして、こんな時に限って存在を主張してくるのか・・。
その音は、私を急かすように速度を増していく。
ドクンドクンドクン――。
もう、どうでもいい。
どうせ、私は清廉潔白という訳でもない。
完璧には、なれないんだから。
「ぇ」
勢い良く服を脱ぎ捨てる。
現れたのは、茶色い瘡蓋。白い体の表面に、硬い異物がある。
白の中の茶。
その存在には、否が応でも目線が惹きつけられる。
「・・ッ!」
無遠慮な視線を、肌で感じる。
ただ見られているだけなのに、そこには物理的な圧力があった。
「・・いいの?」
「いいよ!!」
手やタオルで隠したりせず、堂々と歩く。気にしていない自分を装って、進む。
気にして・・すごく気にしてるけど!
それでも、真鶸ちゃんがいてくれれば、それでいい。
「あ小美野ちゃん。お腹、どうしたの・・・?」
「転んだ!!」
「あ、うん・・」
もはや意地である。
気にしない気にしない。気にしない!
荒々しく体を洗う。自然と手に力が入るのを実感する。
汚れを落とすように、傷も落とせればいいのに。
益体もない考えばかりが思い浮かぶ。
分かっている。これは一瞬の気休めで、私は何も割り切れていない。
そう、何も――。
「紫花はすごいね。成長してるよ」
後ろから、頭を触られる感触。彼女はそのまま隣に座る。
「「……」」
お互いに無言。タオルが体を擦る音だけが聞こえる。
違うよ。この気持ちは、そんな大層なものではない。
きっと依存にも似た感情。
でも、そうありたいと、思ったから。
否定はしなかった。
未だ訪れぬ彗星に願う。
どうか強く、完璧になれますように――。




