食欲増加
大食堂には、大きな丸テーブルが複数置かれている。
既に大半のテーブルでは、それを囲むように生徒が座っているようだ。
皆に習い、席に腰を下ろす。
同じテーブルにいるのは私と天宮真鶸、詩風愛汰。
出席番号はアイウエオ順。
小美野、天宮、詩風と、苗字が近いので一緒なのだ。
つまり、彼はボッチである。
「あれれ、和月くんは?」
「ホント、いないねー!」
わざと聞こえるような声、ニマニマ笑いが漏れる。
「こっちだよ、うっせぇな!?」
ああ、楽しいなぁ・・。
様々な料理が配置されたテーブルは回転式。それを回転させて、自分の皿へと料理を選ぶバイキング形式。
「いやっったぁぁぁぁぁ!!!!」
真鶸ちゃんが怖い。
一人だけ、明らかにテンションが異常な人がいる。
ちょっと離れようかな・・。
食事前のミーティングが始まる。先生方が、明日の注意事項を説明する。
修学旅行は明日からが本番だから、学校を代表しているという自覚を持って、調子に乗らず、気を付けて、時間を守って、礼儀正しく、迷惑を掛けないように、学校を代表しているという自覚を持って――。
・・同じような話してない?
たかが都立高校にプライドなんか無いっつーの!
まぁ言うことなんて、それ程ないのだろう。先生としても、嫌でも何か言わなければならないのだから大変だ。
同じ話のループを繰り返すこと4度。
似たようで、少し違う話が終わりを告げる。
「いっただきまーす!」
号令が掛かると同時に、私達の丸テーブルが回転した。
ギュオッ、という風音がする。
同じ席に座る人たちは、ただただ呆然と見つめている。
テーブルを、ではなく。天宮真鶸の動きを注視する。
テーブルが回る勢いは、未だ衰えを見せない。まさに高速回転、皿から零れないギリギリを攻めた速度。
そして、彼女の手が目まぐるしく動く。
皿と皿の間を、幾度も往復する。
圧巻、だった。
皿には次々と料理が盛られていく。
そうして全種類の料理が満遍なく皿を埋め尽くした頃、テーブルも止まる。
「いただきまーす!!」
もう満面の笑みだった。
「ヤバい。食い尽される・・・!」
少し席の離れた、愛汰の声。
真鶸ちゃんが皿の料理を食べ終わる前に行動しなくては、何も食べられなくなる――。
それは予感。
いずれ必ず訪れるだろう確信であった。
そして、争奪戦が始まる。
男女問わず、皆が一心不乱に料理を皿へ運んだ。
取り合えず確保しなくては、手遅れになる。手元にさえあれば、ゆっくり食べられるのだから。
そんな目論見は――。
「あいつもう食い終わるぞ!?」
淡く、潰える。
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「ふぅ。ごちそうさまでした!」
ご満悦な真鶸ちゃんに対して、同じテーブルに座る面々は死屍累々。
しかし料理の乗った皿は、どれも綺麗に空だった。
普通は料理が足りない、という状況を避ける為に多めに用意される。
食べ切れなくて勿体ない、と考えてしまうが、それはお店の配慮によるものだ。
「それがどーいうこと!?」
全然食べられなかったよ!早すぎでしょ!
見えません、皿が。
あの高速回転が、合計で13周もしたんですが・・。
「真鶸、お腹空いてたんだな・・」
修学旅行だから余計にそうなるのか。
「でも、愛汰も割と食べてたよね。もっと小食じゃなかった?」
「あー・・。忙しいから、ね」
そういうものか。まぁ男の子ならしょうがない。
・・真鶸ちゃんはおかしいけど。
時間が経ち、周囲の食事ペースが落ちてきた頃。
改めて周囲を見渡す。
普段制服を纏う生徒たちは、私服姿。
いつもと違う姿だからか、別人のようにも見える。
外側と内側。
虚栄心と内心。
複雑に絡み合うそれを、理解しようとするのは傲慢だろうか。
誰であっても計り知れないものは、ある。
他人にも。もしかしたら、自分にも――。
今まで共に育ってきた幼馴染達。
体も心も近くにあったことに、噓偽りはない。
しかして、人は変わる。
彼ら彼女らの内心は如何に――。




