考え方
特殊能力が消えたのは、私の物心がつく前。
だから私たちの世代は、基本的には特殊能力を知らない。
言葉通りの意味で世界が変わった為、過去の世界を現実と受け止められないのだ。
この問題は深刻で、ジェネレーションギャップを埋める必要があるらしい。そのために、初回の授業では説明が行われた。
教室の窓から外を眺めつつ、入学間もない授業を思い出す。
こればっかりは他人事ではなく、私に関わる話。
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それは13年前、君たちが3歳の頃だろうか。
その日の始まりは、普段となにも変わらないものだった。問題は夜、1日の終わりにやってきた。
突如として空に彗星が現れたんだ。事前に観測されていなかったものが、突然そこにあった。
やがて彗星は何事もなかったかのように、地球を離れていった。
この日に起こった特別なことと言えば、この一件のみ。因果関係は不明だが、この日を境に特殊能力を使える人間はほぼいなくなった。
それまでは君たちから見ればファンタジーの世界だったんだよ。特殊能力という力が、誰しもに備わっていた。
能力は命を消費して現象を起こす。使えば使うほど、強く早く成長していく夢の力。
それに伴い寿命はどんどん削れて行くんだがな。
能力が発動するのは、約5歳からで個人差はあった。それを肯定するか否定するかが人生最初で最大の選択。
世にファーストディシジョンと呼ばれている。
人生において何に重きを置くのか。密度か長さか――。
この人類共通の命題は、世界に2つの勢力を生んだ。
特殊能力肯定派と特殊能力否定派。この派閥は政界にも強く結び付いていた。
といっても対等な関係ではなかったんだけどな。
当時の世論では能力は否定されていたし、人を殺せる力を誰もが持っていれば危険すぎる。外国における、銃の所持率と同じ理屈だな。
そんな無法地帯にしないためにルールが作られた。
少なくとも日本では、私有地以外での能力の使用は禁止されていた。まぁ海外では違った国もあったようだけど。
そして肯定派と否定派、どちらが支持されているのかを知る為に、毎年国民調査が行われている。これは今でも続けられているのでご存知だろう。
13年前は、2:8で否定派の圧勝だった。
ところが今は、9:1で肯定派が逆転している。
大切なものはなくさなければ分からない、とはよく言ったものだな。
人間の主義主張がころころ変わるんだから・・。
小川先生の話の最後。若干言葉を濁した、痛烈な皮肉が記憶に焼き付いている。