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今はまだ、根は浅く

 数日後、朝。凪柊(なぎと)と待ち合わせて登校する。

 先日の一件から、襲撃を警戒した為だ。


 その際、学生として頭を悩ませる問題が発生した。

 ブレザーの腹部に、縦向きの切り傷。

 これでは、外からワイシャツが丸見えだ。

 毎日着るのに、どうしたら・・・。

 まぁ90年代ファッションです、と言い張れば・・・絶対怒られます!


 加えて、屋上から落ちた影響も大きい。

 切り傷に擦り傷。

 新品同然だったのに、もうボロボロである。

 買い替えか修理か、どちらになるか・・。

 まだ高校が始まって2か月だというのに、だ。


 しかし不幸中の幸いと言ったところか。

 今週から6月に入ったので、ちょうど衣替えの季節である。

 なので、ブレザーの問題は後回しにしよう。


 今は夏服。長袖ワイシャツの上にセーターを着るスタイル。

 スカートの生地も薄くなっていて、過ごしやすい。


 制服の変化は、視覚で感じられる季節の変化。

 欠けたものがあっても、時は依然として流れ続ける。


 --------------------


「あ、今日転校生いるからな」

「は?」

 教室中の疑問の声。

 そんな反応を無視して、小川先生はドアを開く。

 果たして男か女か、空気は静まり返る。

 上履きが、床を踏む甲高い音がする。

 まず見えたのは、足。


 白の長いソックスに包まれ、動きに合わせてスカートが揺れる。

 やがて全身が露わに。転校生は、女の子。

 髪は私と同じくらいの短さで、活発そうな顔をしている。

 そして堂々と教壇に上がり――。


「こんにちは!両国由夢(りょうごくゆうむ)です」


 不思議と、目が合った気がした。

 教室から拍手が生まれる。

「後ろに席用意したから、そこな」

 先生が指さす先は、教室の最後尾。右から二番目の席。


「まぁ分からないことがあれば、皆で教えてやってくれ。

 こうして新しい仲間も加わったが、浮かれ過ぎるなよ?もうそろそろ、修学旅行の季節だからな」


 そうしてホームルームが終わると、両国さんの周りに一気に人が集まる。

 待ちかねていたのか、皆やや興奮気味である。


「どうして今の時期に転校なの?」

「父の仕事の都合かなぁ」

「どこから来たん?」

「T県だよー」


「えー!」

「遠いねー」

 驚きの声が多い。

 せっかく入学した高校を抜けて、別の学校に編入する。

 頑張って勉強しただろうに、それが水の泡。

 そんな状況ならば、元気がなくて当然だろう。

 しかし――。


 彼女は初対面にも関わらず、大変友好的な態度。

 よく笑い、よく喋る。

 およそ、誰もが好印象を覚えるだろう。

 まるでそこが当然の居場所であるかのように、クラスに馴染んでいた。


 でも、花染(はなぞめ)さんは?

 不器用で、友達も少なくて。真面目で、一緒にご飯を食べた女の子。

 大人しい性格も含めて、両国さんとは正反対だった。

 でも、それでも。

 みんなは、彼女のことを忘れてしまったのか・・・?


 両国さんが受け入れられるのは、素晴らしいことだ。歓迎すべき隣人。

 だが、花染さんの代わりにしているんじゃないか?

 自殺未遂の噂は、学校中に伝わっている。

 臭い物に蓋をするように、無かったことになるのではないか。

 …。

 こんな事を考えてしまう私は、すごく性格が悪い。


「ちょっとごめんね?」

 両国さんはそう言って人波を分け、別の机に座る。

 そこは私の隣の席。

 花染さんの居場所に、座る。


「あなたの名前はなんて言うの?」

 内から滲み出る不快感に、()()()()()()()

 あるのは、純粋な好感のみ。

 あれ、なんで。

 どうなっているんだ?


小美野(こみの)紫花(しか)・・」

 彼女は笑顔で手を伸ばす。

 私も手が自然に動き、握手。


「仲良くしてね?」


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