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浅くとも、深き傷

 夜、天宮家にて。


 ・・・・・。


 天宮真鶸(まひわ)の部屋には、2人の少女。

 普段なら、姦しい音に満たされる部屋。

 それがどうしたことか、今は重苦しい空気に包まれている。


 そんな中、私はブレザーを脱ぎ、ワイシャツの裾を持ち上げている。

「っ~!」

 傷口に消毒が染みる。

 目を瞑り、痛みを堪える。

 ジクジクと、傷はその存在を主張していた。

 そして垂れた消毒液が、ティッシュで優しく拭われる。


「…傷、浅いよ」

「…うん」


 残されたナイフの跡は僅かなもの。

 それでも私にとっては、重大な問題だった。

 鏡を見ると、おへその左上に赤い傷が確認できる。

 目が覚めるような赤。


 それが絆創膏で隠される。

 それでも断じて、傷が消えた訳ではなく――。


「明日、病院行く?」

「…いいよ。大したことないから」


 そうは言ったが、絆創膏の上を擦ってしまう。

 どうにも気になる。


 いくら無敵でも、完全な認識外からの攻撃には対応できない。

 いや、そもそもなぜ発動したのか。

 今はクールタイム中のはず。

 以前化学室で使ってから、四日しか経っていないのだ。


 発動時間と、クールタイムの減少。

 なにがきっかけで…?

 次から次へと疑問が沸いてくる。


 しかしそれらの考え事よりも―。

「でも女の子なのに、傷が…」

 その事実が、重くのしかかる。


 たったこれだけのことで、自分が醜くなったように感じる。

 圧倒的な劣等感。この傷が、煩わしい。

 唇を、強く噛み締める。


「だ、大丈夫!こんなの…」


 彼女が、傷に手を伸ばす。

 その指先は勢いよく近づき、止まった。

 触れることを戸惑うように、ただ空をかく。


「傷、残るかな…」

 そして手は力を失い、ゆっくりと落ちる。

 まるで首肯して、頷くように。


「ごめん。あたしが反応出来れば、守れた」

「そんな泣きそうな声で、言わないでよ…?」


 顔を伏せる彼女の体を抱く。

「真鶸は、悪くない」


 強いて言うなら、位置が悪かった。

 私は車道側にいて、彼女から見れば影になっていた。

 これでは、何が起きたのか把握した頃には手遅れだ。

 事実私だって何も反応出来なかった。

 そのことで、彼女を責められようはずもない。


 抱き合ったまま、背中をゆっくりと叩く。ぽん、ぽんと。

「その後、動いてくれたでしょ?嬉しかった」

「次は、守るよ」

 体を強く、抱き返される。

「私だって守る」


 自分が傷モノになったことも忘れる。

 それが吹き飛ぶほどに、心が熱い。


 私はきっと大丈夫。彼女が傍にいてくれれば…。

 抱き合ったまま、静かに。

 2人して泣いた。


 ーーーーーーー


「あなたは…紫花(しか)の味方じゃないんですか?」

「君こそ、彼女の味方ではないのか?」

 押し問答が続く。


「なぜ味方を裏切っている?」

「…それが、未来の為だからです」

「私もそうだ」

 噛み合わない。決定的に違っている。


 溜息を一つ。

「秘密にしようか。お互いに隠す脛があるんだ」

 代永(よなが)は、話を終わらせにかかる。


「あなたの、目的は何なんですか――!」

 感情の籠もらない瞳で、相反することを告げる。

「私は必ず、世界を救う」


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