内情
車内には、男の罵声が響く。
「クソがっっ!あんな小娘に…!」
後部座席にて尊大に足を組むのは、くせ毛のある金髪の男性。
年は40代後半であろうか、顔にはしわが表れている。
目つきは鋭く、歯ぎしりが聞こえる。
苛立ちを込め、口から勢い良く煙が吐き出される。
車内に煙草の香りが漂うのは、彼に由来する。
「お前が!タラタラしてるせいだろうが!」
助手席を、後ろから思い切り蹴飛ばす。
「す、すみません!」
怯えた声が返ってくる。余計にむしゃくしゃしてくる。
「使っちまったもんは返ってこねぇんだぞ、ああ!?」
すみませんすみません、謝罪の言葉を繰り返す。
馬鹿みたい同じことしか言わねぇ。
腹の虫が治まらない。
「こんな無能連れてくるんじゃなかったぜ、なぁ?」
しかしストレスを解消するには、もってこいのサンドバッグ。
この世界には、もはやこいつらのようなゴミしか残っていない。
そう思っていたところで、あの情報――。
まさか、当たりだとは…。
しかも、四体。
競争相手もいる、なかなか楽しめそうなゲーム。
正直言って興奮している。
だが問題が1つ、ゲームの提案者が気に食わない。
それにしても、なんだ?
自分を含めて、仲間を売るなんて…。
あのガキ、何を企んでいる。
「到着です。
アイドホール・プロクタ様」
「ああ」
ここ数日のスケジュールが一変したのも、奴のせい。
すなわち否定派連中との会談。
なんでこんな面倒な真似をしなければならないのか。
全てはタイミングが悪すぎた。
やろうと思えば、対策も練れたが…。
できるだけ、温存しておく必要がある。
ここは都内某所。会場に入るなり、女に声をかけられる。恐らく待ち伏せ。
「貴様勝手な真似を!あと三日後の予定だろう!?」
早々に、嫌な女と出くわした。
同僚の榎並。
まさか、もう情報が入っているとは――。
無視してやりたいところだが、これはいいストレスの捌け口になる。
「はっ、今日できることを今日やって何が悪い?
それにナイフで刺したが止まった。良かったな、無事だよ」
嘲笑う。
「代永様の許可も得ずに何を偉そうに!!」
叫ぶ女の肩に、手が置かれる。
血管が浮き出た、老人の手。
「構わない。必要だと思ったなら、するといい」
声の主は70代の男性。
代永伊鶴。
こいつが肯定派において、現状のトップ。
形式上とは言え、娘が襲われているのに平静を保っている異常者。
所詮は道具に過ぎない、か。
組織にも隠していたことから、情でも移ったかと勘繰ったが・・・。
どうやら不発に終わったらしい。
ならば、目的はなんだ?
なぜ保護だけして、何もしなかった?
「代永様、本当によろしいのですか?」
俺に対する態度とは打って変わり、女々しい声。
愛や恋ではない。そんなきれいなものではなく、もっと黒く、深い感情。狂信的、と言っても過言ではあるまい。
「ああ、どうせ無理だろう?」
…こいつ!
憎しみを込めて睨みつける。
「それに、君は野蛮なようでいて、冷静な判断力もある。
ならば、実際に会わせる方が早い。あの娘は、可能性があると思わないか?」
「…ええ。至り得る可能性は、ある」
悔しいが、それに関しては納得した。
まさか、この世界で。
肯定派の悲願が叶う、可能性が残っているとは-。
「では次は相手の番。なにをするのか、見物させてもらおうか」
全てを見透かしたように、言う。
これだから嫌なんだ。
俺以外に、そんな態度の奴がいるのは。
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円卓の片側には、既に男が2人座っている。
そして上座には一人のガキ。まだ高校生になって間もないような少年。
席に着くなり、向かい側から話しかけられる。
「ナイフで少女を襲うとは…。
なんとも野蛮なことですねぇ。本当に能力を肯定しているのですか?」
小垣という痩せすぎの男が、馬鹿にするように言う。
まるで少女を案じるような声色。
「効率を考えれば当然だ。何が悪い」
「それで貴重なモルモットを殺してどうするのか、と言っているのです」
この通り、この男が考えているのは能力のことだけ。
少女のことなど頭にはない。ここには、どいつもこいつも異常者ばかりが揃う。
「死んだら外れだろう。実際殺そうと思って行ったのに、能力を使いやがった。
それに、前回同意したはずだ」
「検証する、その日にちが変わっているが?」
話に加わるのは、新たな男の声。
先ほどの男が軽薄ならば、この男からは冷血な印象を受ける。
目線が交錯。睨みつけ合う。
「早い方がいいだろうが。それに生きてる」
「それは結果論に過ぎん」
ああ、面倒くせぇ。
この男、花染明雅も否定派の幹部。
奴らのトップは、まだ姿を表さないでいる。
「それで、娘は元気か?」
「貴様・・・」
思わず頬が緩む。奴の娘は自殺未遂の上、不登校中。
これ以上の弱みはなかろう。
そして何より――。
「おいガキ、てめぇ騙したな?」
上座にて、沈黙を保つ少年に声をかける。
懐に手を入れて、準備は完了。
返答次第では、いつでも殺せる。
「いいえ。騙してなどいません。
僕が伝えたのは、その時における最新の情報」
透かした返答。
表情1つ変えねぇ。あの男と似ていて、気色悪い。
「つまり詩風愛汰。能力は進化している、と?」
噂をすれば、だ。代永が話を進める。
「ええ。最初は1週間に一度、5秒間。
今は4日に一度、4秒間」
「おい待て。3日縮まって、1秒減った?それを弱体化と呼ぶのか?」
話と違う。倍率が嚙み合っていない。
「あなたなら、目の前で確認したはずでしょう」
「それがなぜかと、聞いている」
イライラする。暖簾に腕押しのような感覚。
「ほぉ。それはどこまで行くんでしょうねぇ…」
小垣が嫌な笑みを浮かべる。
「いずれにせよ。あなた方に肯否の違いがあれど、特殊能力を再生したい、という意見に相違ない。ならば、話し合いで解決できるはず」
「ええもちろん。
それに、対象がいなくては否定できませんからねぇ…」
奴らは特殊能力を否定するが、消えて欲しいとは思っていない。
社会において、必要悪は許容せざるを得ない。
世間では否定派が特殊能力を消した、という噂が流れている。だが、それは的を外している。
むしろ、その風聞の悪さの被害者とも呼べる。
否定という名前に反して、慎重な対応。奴らにも、特殊能力は必要ということだ。
つまり能力が消えたことによって、両組織が被害を被っている。
本当に、誰がやったのか。
「そして人質はジョーカーだということを、お忘れなく――」
お互いが、すでに監視網を作っているのだ。
どちらか一方がジョーカーを切れば、相手も同様に切ってくる。
これでは、どこまでいっても条件が変わらない。そうして身動きがとれなくなるのは、目に見えている。
ガキのくせに、よく考えてある。
「それで、次はそちらの番だ。なにをする?」
順番で行動を起こすルール。俺たちは、小美野紫花を調べた。
「では私どもは…」
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「そう出るか」
「ああ。まずは根を張る。話はそこからだ」
ちっ!音を立てて、わざと相手に聞こえるように舌打ちする。
これでは、完全に後手だ。
「我々は最優先事項を選んだだけ、何も問題はない」
そんなフォロー、されたくもない。
「では、承認ということで」
ガキの言葉で、会談は閉められる。
「次回は三日後になります。
どこで、どちらが、誰を取るか。それを決めましょう」
そして、一瞬で姿が消える。
お互いが一度の接触を行い、その後奪い合う。
それがこのゲームの流れ。
確信できる。
次の議題は、荒れる。




