血の雫
翌日、学校帰りのこと。
今日も二人で部活を終える。すでに夕日は沈んでおり、夕方でも段々と暗くなって来ているのが実感できる。
「今回のは、なんか、大人の映画、だったね・・」
切れ切れの言葉には、どうにも力がない。
「なんか、ハッキリしない終わり方だし・・」
詳細は倫理的な問題が付き纏うが、一言で語るならドロドロの恋愛ものである。
色々と攻めた内容で、その、肌色成分多寡だった。
これ以上は私には言えない。
もう、恥ずかしかった・・・。
「なんであの女の子はフラフラするのかなー!」
思い人と恋人に揺れ動く、微妙な女心が描かれていた。
結局はどっちつかずの立場のせいで、全員が不幸になる。
「ほんと、恋人君がかわいそうだった!」
せっかく恋人になれたのに、彼女の心は気もそぞろ。
それは怒る。怒らなきゃいけない。
「女優の人は可愛いんだけどねぇ。なんか、勿体ないなー!」
役者は豪華なのだが、ストーリーが受け付けなかった。
レビューを調べると、大人になれば共感できる、という意見が多かった。
私も大人になれば、そう思える日が来るんだろうか。
「ねぇ。どうすれば幸せになれたんだと思う?」
主に、あの女の子が悪いのだが。
「決まってるよ!自分に嘘を吐くから、ああなったんだよ!」
「じゃあ、どっちを選ぶべきだった?私は恋人だと思う」
思い人には恩があり、恋人には愛されていた。
理想か現実か。
私は恋人に一票。
あれだけ必死に愛して、心配もしてくれるのだ。
理想の彼氏だろう。
「いや、あんな酷いことをするなんてあり得ない!」
まぁ、あのヒステリーな性格はどうかと思うけど。
愛情の裏返し、といった所か。
「でもそれは女の子が悪いから」
どちらか一つに絞っていれば、ああはならなかった。
まさに自業自得である。
「じゃあ思い人がいいの?」
「違うよ!あいつとも相互依存であって、恋じゃない」
??
ならどうすれば良かったというのか。
目線を向け、答えを促す。
「誰も選ばないのが正解」
「それ、映画の内容そのままじゃ?」
「違うよ!選ぼうとすること自体が、間違い!」
どういうこと・・・?
感想を交えつつ、学校を出る。
映画に疲れたこともあり、自転車を押しながら歩く。
進行方向の道路脇には、黒塗りの車が止まっていた。
「だって正解はなかったんだから」
その後の説明は、聞くことができなかった。
車の横を通り過ぎた時、ドアが開く。
勢いよく、待ち構えていたかのように。
出てきたスーツ姿の男の手には、何か光る物が見えて――。
それがお腹に当たる。
グサッと。
肉を割いて、体内に侵入してくる。
冷たい刃が、温かい肉を内側から蹂躙するのは時間の問題。
――血が加速した。
「!?」
捩じ込まれたのはナイフ。
その切っ先は数ミリ侵入した時点で、止まる。
不思議と血は出て行かない。同様に痛みもない。
4秒間だけは――。
何も考えられない。非日常に置き去りにされる。
思考が空白に染まる。
ただ白く、無心。
故に、死をもたらすだろう凶行に対して、余りにも無抵抗。
男は苛立ったように、ナイフに体重を込める。
傷口こそ広がらないが、その力によって体が押し倒される。
「検証完了。戻れ」
車から、新たな男の声。
チッ、という舌打ちをして男は車に戻り――。
「逃がすわけ、ない!」
ドアに手を掛けた男に向けて、小柄な体が飛び掛かる。
その圧倒的スピードには、誰も対応できるはずが――。
窓から手が・・・伸びていた。
真鶸ちゃんのスピードに合わせて、黒い武器が向けられる。
「っ!!」
即座に体を回転、銃口から逃れる。
それは賢明な判断であり、同時に車から離れることを意味していた。
ドアが閉まる。
勢いよくアクセルがかかり、車はすぐに視界から消えた。
ナンバープレートは、当然のように外れている。
目前で繰り広げられた攻防に、呆然とする。
4秒はとうに経過していた。
ボト。
制服に空いた穴から、血が垂れる。
一滴の雫は、黒いコンクリートをささやかに彩っていた。




