弱体化
退院してから四日、最後に能力を使ってから一週間が経った。
昼休みに、化学室で集合する。
なにやら、実験をするとのことだが・・。
「無敵の間、衝撃が消えるのか調べたいんだ」
「衝撃?」
「そう。当たった時無敵でも、その衝撃で怪我をするかもしれないだろ?」
なるほど。
屋上の一件がそうだった。
「で、どーやって実験すんの?」
凪柊が疑問を口にする。
「殴る!!」
「はい?」
え、今殴るって・・・。
「4秒時点で、思い切り殴れば怪我しないだろ」
こいつなに言ってるんじゃぁぁぁ!
「なるほど!」
そこ!意外そうな顔で手を叩くな!
「私!女の子っ!か弱いよ!」
両手を広げて全力でアピールする。
「う~ん。でも確認した方がいいかな」
真鶸ちゃん!なんで合理的判断しちゃうの!?
感情で否定しようよ!!
「それで、紫花は誰に殴られたい?」
なんつー質問!ビックリした!
「私マゾじゃない!いや!!」
頭を抱えて、机の下に潜る。
地震の訓練みたいな恰好である。
凪柊に背中を叩かれる。
「頼むって。みんなお前を心配してるんだよ」
「・・・心配して、思い切り殴るの?」
すごく矛盾していないか?
「心配して殴るよ」
「・・・なら、分かった」
歯切れ悪く、嫌々頷く。
「そこまで言うなら、凪柊がやってよね」
「お、おう。まじ?」
せっかくだ。最後まで責任を取ってもらおう。
「じゃあ、いくぞ?」
手を上に振りかざして、準備を確認される。
「こいっ」
せっかくだ、無敵の力、見せてやろうじゃないか!
そしてチョップが落ちてくる。
0秒
ボスッという音。
「痛いか?」
1秒
「ううん」
額に異変はない、元のままだ。
2秒
「じゃあ本気で!」
己を奮い立たせる為の、好戦的な声。
3秒
力を貯めている。
さっきのチョップは、無敵の発動を確かめる為。
今度のは、衝撃を確かめる為。
即ち、全力で殴ってくる。
しかし彼の顔には、まだ葛藤が残る。
構えた拳も震えている。
私も反射的に目を瞑る。
痛みがなくても、怖いものは怖いのだ。
やがて迷いを断ち切り、空を切る音がした。
4秒
パァッン!!
その瞬間、激しい音がした。
続くは二つの音。
それは椅子の倒れる音と、吹き飛んだ人間が倒れる音。
静寂に包まれる化学室。
「え?」
5秒
蹲る。動けない。
手足が震える。なにより――。
ほっぺが、死ぬほど痛い。
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。
思考は、痛いに埋め尽くされる。
頬を手で押さえるが、何の気休めにもならない。
それでも、ただそうすることしか出来ない。
なぜ痛い?
「あ・・だ」
「大丈夫!?」
真鶸ちゃんに抱き起されるが、振り払う。
やめて、今は。
痛み以外に思考を回せない。
涙が零れる。
頬が熱い、涙も熱い。
逃げ場がなく、どうしようもなく熱い。
「ほっぺ。赤・・」
真鶸ちゃんの呟きも、耳に入らない。
視界が涙で崩れる中、凪柊と目が合った。
「おま、顔」
怯え、困惑が混ざった顔。
そっちこそ、なんて顔してるんだ。
真鶸ちゃんが鏡を見せてくれる。
そこに映るは、涙でぐしゃぐしゃな顔。
そして左頬だけが異常に赤かった。
肌が白い分、余計に目立って見える。
彼の足が震えて、倒れた。
地面の頼りなさを自覚する。世界はいつだって不安定で、容易く崩れる。
きっと普段は気付かないだけ。
「おれはなにを、なんのために・・」
しかし私の心にあるのは、全く別の事――。
「短く、なってる?」




