生と死は鏡合わせ
目を覚ますと、そこは白い世界でした。
そんな書き出しをすれば、まるで絵本の世界に迷い込んでしまったよう。
だが落ち着いてみれば、見覚えのある光景。
細部こそ違うが、似た空気。静かで、機械音だけが響いている。
ここは病院だろう。
毎週通っているから、嫌でも気が付く。
・・私は、落ちた。
その事実が体を凍えさせる。
初めて・・だった。
命の危機を感じたのは、初めての経験だった。
一歩間違えれば、死んでいた。
この世界はきっと、生と死の合わせ鏡。
その境界線は、私が思っているよりもずっと近い。
なんだ・・これ。
こんな気持ち、おかしい。
怖い。怖くて、怖い。
死がこんな身近にあるなんて知らなかった。
知りたくもなかった。
全身に鳥肌が立つ。
今までいた安全地帯から、突き落とされたような感覚。
世界は何も変わっていないというのに。
みんなは、こんな世界で生きているのか?
私みたいに特殊能力を持たないで?
それでどうして毎日笑って過ごせる・・!?
私は弱い。
きっと世界で誰よりも脆い。
なぜなら、私は対等な立場にいないから。
世界中の人が必死に生きる中、ズルをしているから。
能力に胡坐をかいて、一人だけのうのうと生きているから。
改めて、自分の異常性を理解した。
「・・死にたくない」
「大丈夫だ、君は死なない」
ドアが開く音に、体が過剰に反応する。
ビクッと、竦んでしまう。
その声の正体は――。
「久しぶりだね、紫花」
「お義父、さん?」
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「突然連絡が来て驚いたよ」
「ごめんなさい・・」
迷惑をかけてしまった。
今ここにいるのも、治療の手続きの為だろう。
「仕事が忙しいのに、わざわざ来てもらって・・・」
「娘が怪我をしたんだ、当然だろう?」
笑顔で答えてくれる。
「生活費もお世話になっているのに、治療費まで掛かってしまいました・・」
「それも当然のこと、だよ」
ただでさえ、うたの入院費用は馬鹿にならないのだ。
「君たちの面倒を見るのは、世界の為に必要なんだ。無論私の為にも、ね。」
そう言って、私の頭を撫で始める。
「なんて言ったって、君は貴重な存在なんだから」
お義父さんは74歳の男性。
白髪になっているが、毛量は多い。
年の割には理知的な顔立ちをしている。
どちらかと言えば、父というよりも祖父と呼んだほうが良い年齢差。
私の能力を知っていて、だからこその関係性。
肯定派の重鎮であるが、私の秘密を共有して、守ってくれる恩人だ。
「ああ、体に異常はなかったそうだよ」
・・よかった。ほっとする。
「一応私からも各種機関に、大事にならないよう掛け合う。事情は聞いているし、仕方ないとも思う。だが、今後はさらに慎重になりなさい」
「はい、ありがとうございました!」
頭を下げる。
今の私があるのは、お義父さんのお陰だ。
「今回は、少し風向きが違うな・・」
お義父さんは夜空を見上げて、そう呟いた。
――それにしても。
落ちた時、無理解の中。
どうにも能力を使った記憶がないのだが・・。
無意識でも、可能なんだろうか。




