停止
【和月凪柊side】
「紫花ぁぁぁぁぁぁぁ!」
落ちた。屋上から――。
死。一つの単語が頭に浮かぶ。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
心配になり様子を見に来たら、この状況。
もっと早く来ていれば・・・。
大事な人が傷つくのを、眺めることしかできない。
しかも、みすみす目の前で。それが嫌だったから、俺は。
伸ばした右手は、花染の片足を掴んでいる。
少女の体重とはいえ、一人の人間だ。それを片手だけで支えることは出来ない。
普通なら。
「触れられれば、止められた・・」
俺の能力は、こんなことの為にあるんじゃないだろう?
血の流れが、早い。体の奥から、大事なものがどんどん抜けていく感覚。
早くしないと、やばい。
「あ、小美野、さん?」
下から声がする。
花染を引き上げたいが、俺だけの力で足りるかどうか・・。
それに、すぐにでも下に行きたいが、生憎。
手が離せない。
左手でポケットから、スマホを探り当てる。
愛汰か真鶸か――。
プルルルル・・。
ああもう!長い!
「はいっ!」
「紫花が屋上から落ちた!すぐに下へ!」
「・・へ?」
もどかしいが、言葉を尽くす時間も勿体ない。
「下!行け!」
「・・・了解!」
判断が早い。
瞬間移動は人目に付くから使えないし、真鶸の方が足が速い。
人選に間違いはない、はず。
次、愛汰!
プル・・。
「何すればいい?」
「屋上来い!」
すぐさま切れる。
教室で真鶸の様子を見たからか、話が通りやすくて助かる。
下には、紫花が倒れている。
遠目では無事に見えるが・・。血は流れていない。能力を使った、と考えたい。
いずれにせよ、ここからでは分からない。
その時、背後に気配が生まれた。
「おまたせ」
「頼む、手伝ってくれ」
花染は、呆然と下を見つめている。
愛汰が右足を掴む。俺は左足。
「じゃあ、解くぞ?」
「ああ」
事前に、腰に力を入れる。
「「っっ!」」
重力がようやく仕事を思い出したように、作用を再開する。
重い・・!
「あああああああ!」
叫んで力を出す。
男二人掛かりで、なんとか引っ張り上げる。
「あっ!」
花染の体が乱暴に投げ出される。
引っ張るのに精一杯だったので、許してほしい。
しかし、疲れた・・・。
体はもちろん、能力の反動が大きい。
息をつき、座り込む。
花染は女の子座りで、へたり込んでいる。
少しして、息を整えて、
「もう、死なないか?」
返答次第では、抑え込む必要がある。
「・・はい」
事情は分からないが、一先ず動く気配はない。
安心せず、不信な動作がないか警戒を続ける。
「さっきのことは・・」
「言いません。誰にも」
・・信用していいのか?
彼女の家は――。
「おい!!何してるんだ!」
先生らがやってきた。後は流れに身を任す他なさそうだ。
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事情を説明した後、保健室へ移動。
紫花はベッドに横たわっていた。
制服はボロボロ、体には擦り傷がある。目に見える怪我はそれだけだった。
呼吸も安定しているようで、安心する。
やがて救急車が学校に入って来て、紫花は病院に運ばれて行った。
体内の精密検査をするためだ。
もしかしたら――。
いや、普通なら後遺症が残ってもおかしくないのだ。
命があることすら、奇跡。
「ねぇ。小美野さんに殆ど傷がなかったんだけど・・。何か心当たりはある?」
保健室の女教師からの質問。
当然行きつく疑問。
「体が回転して、たまたま受け身になったんじゃないですか?」
そんな・・苦し紛れの返答しか出来ない。
「・・そう。そういうことも、あるのかしら・・」
そして再び職員室で事情を聴かれること、2時間。
もちろん特殊能力のことは伏せて伝える。
その間、花染は複数人の教師に囲まれて監視されていた。
しばらくして、俺たちは解放される。
花染は、親が迎えに来るまで勾留されるそうだ。
彼女は終始、放心状態だった。




