宣言~filmI~
ホームルーム終わりに、花染さんに声をかけられる。
「放課後、一人で屋上に来てください」
驚きと警戒から、声が出せなかった。
そんな私には構わず、彼女はさっさと移動してしまう。
断ることもできなかった。
人気のない場所で、一対一。
安全を取るならば、無視してしまえばいい。
だが今日の花染さんの様子はおかしかった。
先生に指名されても、虚ろな返事。表情も起伏がない。
無下にするのは、躊躇われた。
だから、このことをみんなに伝えておく。何かあれば対応してもらえるように。
かくして、私は階段を上る。
校舎は五階建て、その上には行ったことがない。
というか、普通なら施錠されているんじゃないか?
長い階段を上り終える。
一抹の不安を抱えつつ、ドアを押す。
ギィィ・・・。
鈍い音を立てて、開く。
――運命の扉は、ここに開かれた。
「うっ」
光が・・強い。
手で影を作り、目元を守る。
どうやら、床が白いせいで光が反射しているようだ。
入り口から離れたところに、人影を見つける。
彼女の後ろのフェンスは修理中らしく、周りには立ち入り禁止の赤いコーンが置かれている。
フェンスには、大きな穴が開いていた。
その境界線を、乗り越える。
花染さんの長い髪の毛が、風に晒されてたなびいている。
風が強い。
前髪が崩れないように押さえて、彼女の元へ向かう。
「どうやって開けたの?」
「・・優等生をしていると、先生から頼まれごとが多いんです。鍵を持って来て、というのもありますね」
そこから抜き取るのは簡単、ということか。
・・・・・。
「話ってなに?」
「決まってます。なんで、私を避けるんですか?」
それは・・・言えない。
「私が何かしたんですか?教えてください!」
「・・して、ないよ」
「なら何で!?それに見せつけるような真似まで・・・!」
「見せつけ?なんのこと?」
息を鋭く吞む。
ダムが決壊する。
「私のことは避けるのに、天宮さんとは仲が良いじゃないですかっ!それを、わざわざ私の近くでっ!!」
「それは昔からの付き合いで・・」
「見せつけてるんですよ!!小美野さんの一番の友達って誰なんですか!?」
「真鶸ちゃん・・だよ」
嘘は、つけなかった。
これ以上彼女に不誠実であるのは、耐えられなかった。
「そう・・ですか。そうですよね。私は何をしても一番になれない」
「そんなこと」
「勉強でも、小美野さんの友達としても、一番にはなれない」
なら・・、と足を後ろに動かす。
その先のフェンスには穴が開いていて――。
「バカッ!」
手を掴む。必死に引っ張るが、激しい抵抗。
「離してっ!ください!」
「やだ!」
力は完全な拮抗状態。
お互いに非力ではあるが、私は運動部だった。
体格では負けていても、力では負けられない。
少しずつ。着実に。
こちらへ近づいてくる。
これなら・・!
「嫌いなっ!くせに!みんな私を嫌いになる、くせに!!」
彼女は泣いていた。
事ここに至り、ようやく敬語が崩れる。
あるいは、初めての感情の吐露。
「嫌いじゃ、ない!!」
「うそ!ならなんで!?」
言えば・・。でもそれは。
私だけの問題じゃなくて・・。
「ほら!理由なんてないんだ!」
相手に力が戻り、形勢は逆転する。
ズルズル、引きずられる。
このままじゃ、落ちる!
もう・・・。後のことなんて、知らない。
「私が!!特殊能力者だからっ!!!」
秘密の暴露、大声は学校中を駆け巡る。
その浅慮な考えが何をもたらすかも知らずに、叫ぶ。
「ぇ?」
その瞬間、彼女の力が抜けた。
拮抗していた力が解き放たれる。
花染さんは床に投げ出されて、私は――。
私は空にいた。
「あれ」
全身の力を振り絞った、瀬戸際のやり取りだ。
足を踏ん張る余裕なんて、あるはずがない。
丁度入れ替えのように、立ち位置が逆転した。
「―――――――!」
叫び声が聞こえる。
何を言っているのかは聞き取れない。
全ての感覚が遅いのだ。
視界がスローモーションで流れる。
それは映画のコマ送りのようで――。
奥から凪柊が走ってくる。
暗転。
花染さんが身を乗り出して、私に手を伸ばす。
暗転。
体を伸ばし過ぎて、態勢が崩れる。
暗転。
彼女も、落ちる。
暗転。
凪柊の手が、花染さんの足に触れて――。
壁が見える。
窓が見える。
教室に人が見える。
壁が見える。
窓が見える。
教室に人はいない。
壁が見える。
窓が見える。
教室の掃除風景が見える。
壁が見える。
窓が見える。
教室の部活風景が見える。
壁が見える。
窓が見える。
教室の日常が見える。
最後にはコンクリートが見えた。
暗転――する。
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「これでようやく、準備完了ね」
誰もいない世界で、少女は一人嗤っていた。
一番書きたかったシーンです。
遂に到達!
ここからが、本番となります!




