ズレ
月曜、昼。
後日天宮真鶸と話し合い、花染千雅子とは普段通りの関係を装うことに。
今のところはボロを出していないはず。証拠がないならば、わざわざ変化を起こすべきではないという判断。
・・のだが、今日は部室で作戦会議をする必要がある。
「ごめん花染さん!今日ミーティングなんだ」
平然と嘘をついてみせる。
「あ。そう、なんですね・・」
「うん!ごめんね!」
花染さんは、手に持った弁当を所在なさげにしていた。
申し訳ないが、話を聞かれるわけにはいかない。
「全然大丈夫ですよっ。いってらっしゃい!」
その空元気も、どこか痛々しい。こうして私は、一人の女の子を傷つけている。
さらには健気な優しさも、利用する。
「ごめん」
教室を出る。
改めて、自分の性格の悪さが嫌になる。
少し条件が変わっただけでこのざま。いかに上辺だけの人付き合いをしているかが分かる。
友達なら、信用するべきなのか?
でも・・。
「今はしょうがないよ!」
「・・うん」
そもそも私の能力を知っているのはごく少数。真鶸ちゃん、凪柊、愛汰と父母、義父さんだけ。
そう、うたにも言っていない。
妹を信用していない、というわけでは断じてない。
だが知っていることが危険に繋がる。できるだけ人数は少ない方がいいのだ。
ではなぜ、幼馴染たちが知っているのか。
凪柊と愛汰は、出会った関係でバレた。流石にどうしようもなかった。
真鶸ちゃんは、小学校五年の修学旅行でバレた。これは彼女の身体能力に付き合おうとした私も悪い。
無論、誘ってきた彼女が一番悪いんだけど!
いずれの人物も信用が置けるので、そこから漏れることはないだろう。
父母に関しては・・まぁ大丈夫だ。
では、私が目立った行動をしたか。
これも否。他人にバレるような使い方はしていない。
そもそも、私の能力は受動的なものだ。
バレるような使い方なんて、滅多にないだろう。
それは凪柊も同じ。
問題は愛汰だ。どうやら、彼も能力が使えるようになったらしい。
それら問題のすり合わせとして、昼休みに化学室で集まるのだ。
高橋先生には事前に言ってあるので、化学室の使用に問題はない。
そうして席に着くなり、愛汰が口を開く。
「じゃあ、一回見せるよ」
「いいのか?使うってことは・・」
命を、削る。
少なくとも、私はそれを織り込み済みで使っている。
女子にとって、傷は厳禁なのだ。
「いや、それでも、だよ」
それでも知っておいて欲しい、と。
愛汰が目を閉じる。
次の瞬間、彼の姿が消えた。
「本当に消えた・・」
目の前にいたはずの姿はなく、椅子があるだけ。
では彼はどこに?
辺りを見渡すも、人影はない。まるで世界からいなくなってしまったよう。
・・あれ。本当にいないぞ。
「どこに行ったんだ?あいつ」
「いやぁ・・」
能力を見せてから説明する気だったみたいだし、どうしようもない。
「その特殊能力って暴走とかしないよね!?」
「うーん。私と凪柊にはなかったけど」
凪柊を見つめるも、肩を竦めるだけ。
あれ、割と一大事なのでは・・。
その時、影が差した。
「え?」
顔を上げる。さっきまで何もなかった机の上に、愛汰の姿があった。
「どう?」
「おー!」
「瞬間移動だ!」
フィクションの世界では、およそ鉄板といえる能力。
例えば遅刻しそうな時、トイレに急ぐ時。この能力があれば、と誰しも考えるのではないか。
かく言う私も、よく遅刻するので毎日のように思っています。
それにしてもすごい!映画の世界だ!
「あれ、ちょっと感動してきた・・」
「感涙するほど!?俺らも同じだろ?」
「全然っ!違-う!!」
瞬間移動は、世界的に有名なのだ。ともすると人類の夢。
近年の作品では、地球を守るヒーロー映画が印象深い。
なにより、私と凪柊の能力とは違って、派手で分かりやすい。
無敵なんかよりは、よっぽど使いやすいはず。
「確かにすごい!・・だけど現れるの遅くなかった?」
そういえば、真鶸ちゃんの言う通りだ。
姿が消えて、机に現れるまでに時間が空いていた。
どこか遠くに行って、戻ってきたとか?
「・・それが知ってほしいことなんだ」
バツの悪そうな顔。
「行き先を強く意識して、能力を発動させる。そして現れると、なぜか時間のズレが生じるんだ」
「「「ええぇ・・・」」」
瞬間移動するのに、時間がかかってしまう、ということか。
え、それは瞬間移動なの・・。
「それは何秒くらいなんだ?」
場所や、距離によって変動するのか否か。
さっきの数メートルの移動に、10秒はかかった。
正直、普通に動いた方が早いくらい。
であれば、使い物にならない可能性があるのだ。
「それは大丈夫!どこに移動しても、ズレは10秒で固定だったよ」
こちらに時計を見せてくる。
なるほど、瞬間移動には10秒のタイムラグが伴うのか。
「じゃあ近い距離は無駄、遠ければ遠いほどお得だね!」
ものすごく便利に思えたが、一長一短だ。
そもそも、いくら便利でも普段使いはできない。
どの能力も命を削っている。
それだけは忘れてはいけない。
「分かってるだろうけど。無駄遣い、しないようにね?」
「・・ああ、分かってはいるよ」
便利であればあるほど、使いたくなるのが人の心だ。
彼は、私なんかより真面目だ。だが友達として、一度は言っておく必要があった。
まぁ彼なら大丈夫だろう。
「あーあ!これであたしだけボッチかー」
「ない物ねだりだろ」
確かに、ないに越したことはない。
そういえば、瞬間移動のタイムラグの間、彼の意識はどこにあるのか。
一瞬浮かんだ疑問は、すぐに泡のように消えていった。
誰しもが、嘘をつく。




