発現
【和月凪柊side】
保山駅に戻り、今はバスで帰っている。
今日は遠出する予定だったので、学校には自転車で来ていない。駅に自転車を止めてもいいが、帰りの疲労を考えてバスを選んだ。
今は九時近い。とっくに学校は閉まっている時間だ。
バスから最初に降りたのは、紫花と天宮。天宮の家は、俺たちの中で一番学校に近い。
本来紫花は俺と同じ停留所なのだが、どうやら今日はお泊りするらしい。
なので、今バスにいるのは俺と愛汰だけだ。他に乗客はいない。
そして先ほど約束した音楽を聴いている。一つのイヤホンを左右で分けている状態だ。
「彗星、ね」
病室で彗星の写真を見た時を思い出す。
それぞれの感想が飛び交っていたが、どれも俺の意見とは違う。
・・恐ろしく見えたのだ。
確かに美しい。だがその実、彗星はその身を削りつつ進む。宇宙空間に漂うデブリにぶつかったり、太陽に氷を溶かされたり、という具合に。
俺たちが美しいと感じるのは、その削られた命なのだ。
そうまでして突き進んで、何が得られるんだろう。命を捨ててでも成し遂げたいことなんて、あるのだろうか。
少なくとも、俺にはない。
だから恐ろしくて、少し憧れているのかもしれない。
「くぁっ」
欠伸が漏れる。ん、疲れた。
「寝る、起こして」
「はいはい」
呆れたような声が返ってくる。
もし特殊能力が、世界に戻ったとして。どんな能力も大なり小なり命を削る。
治療系の能力があって、他人の為に使える。
そんな人間いるんだろうか・・。
いたとしても莫大な金がかかる。現実的に考えて無理だ、治せるはずがない。
あいつは分かってるのか?
・・これはきっと眠気のせい。
ああ、だめだ。考えまいとしていた思考が溢れだす。
絶対にありえないことだが、もし俺の能力がそんなものだったら・・?
俺はきっと、それをできない。
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「ん・・」
バスの揺れで目が覚める。
ああ、まだ眠い。隣に寄り掛かろう・・。
「いつっ!」
倒れた体は空を切り、そのまま椅子にぶつかった。
「つうぅ~~」
痛い。あれ、愛汰は?
寝ぼけ眼で辺りを見渡す。自分以外に乗客はいない。
であれば、
「あいつ帰ったのか?」
しかしバスの外を見るに、彼の降りる停留所はまだ先だ。
なら、何でいない?
「あああぁぁぁああああ!」
「は!?」
その瞬間、何かに押しつぶされる。な、なんだ?
そのままの勢いで、椅子の下に転がり落ちる。
「くっそ!なんでさっきからこんな」
痛む体を擦りつつ、椅子の上を確認する。
そこには、愛汰が逆さまになっていた。
高校生男子といえば、体は十分に成長している。およそ五十キロの物体が落ちてきたことと同義だ。
意味が分からない。踏んだり蹴ったりだ。
「おい、愛汰!」
怒りの声をぶつけるも、彼は呆然と右手を見つめていた。
なんだ?濡れている?
「なぁ凪柊」
ゆっくりとした言葉。しかしてさっきの呆然とした様子ではなく、確かな熱がある。
それは始めての感情。
「一目惚れ、したことある?」
・・・・。
なんだこれ。




