Zeisser
912号室は合同部屋だ。
同居人は二人、年齢が近しい少女達である。
辺りを見回す限り、どうやら彼女らは留守の様子。
病室の奥、逆光により窓際のベッドに一つの影が掛かる。
彼女は瞼を閉じ、両手を耳に当てていた。
そこには音が一切なく、静かで空虚な空間が広がっている。
彼女が、小美野うた。
もこもこパジャマが似合う、13歳の女の子だ。
髪は肩に掛かる長さ、前髪は一直線に切り揃えている。
周りからは容姿が似ていると言われることが多い。
一歩踏み出し、無色の世界に靴音が付加される。
「――――ん?」
彼女はイヤホンを外してこちらを認識、ようやく目が合う
ベッドの脇には音楽プレイヤーが転がっていた。
「あれ今日は一人?」
「ううん4人」
よん?と首をかしげる。
「そ、愛汰呼んできたから!」
「え!」
驚く彼女を置いて、外の幼馴染達に呼びかける。
「入っていいよ」
天宮真鶸は勢いよく、小美野うたに抱き着く。
「癒し・・・・」
「あー。よしよし」
彼女困った顔で抱きしめ、背中を軽く叩く。
この二人は、年齢に三歳の差があるが、今も対等な友達関係を築いている。
因みに、この大袈裟な反応は毎週の如く繰り返されている。
毎週会ってるでしょ、君ら・・・。
「ほら愛汰が待ってるから」
「えーー」
催促をして、嫌々離れる。まだ手は繋いでいるけど。
天宮真鶸は、妹の事になると聞き分けがなくなる。
そして詩風愛汰と目が合い―――、
「初めまして!姉がお世話になっております!」
うただった。言葉と共に綺麗なお辞儀をして見せる。基本的に、この子は物怖じしない。
対人経験で言えば私の方が多いのだが、こういうところでは負けている。大したものだ。
「あ、初めまして!いつもお世話してます、詩風愛汰です!」
うん?聞き間違いかな。
愛汰ってば、ホントに緊張しいなんだから。
「ですよねぇ。紫花ねぇはドジだからよろしくお願いします」
うたが手を出す。
「いえいえ、こちらこそ」
握手を交わす二人。
「うん、おかしいね!」
その時愛汰の体がビクッと震えた。・・静電気かな?
ベッドに近づいた為、愛汰も音楽プレイヤーに気が付いたようだ。
「音楽好きなの?」
「はい!この曲、知ってます?」
音楽プレイヤーを、小さな付属スピーカーに繋ぐ。
流れてきたのは、日本人女性の声。ロック調で、疾走感のある曲。
これは私も馴染み深い。
「ごめん、わかんない。でも・・いいね」
目を閉じて曲に聞き入っている。
「俺のスマホに入ってるから、あとで聞かしてやるよ」
「お、ありがとう」
「あたし達も、うたに教えられてハマったんだ!」
私も一人で勉強している時には聞いている。気分が上がって、集中出来るのだ。
(どんどん布教できてる・・)
小声でうたに話しかけられる。
趣味が理解されるのは喜ばしいものだ。
友達と付き合っていると、相手の影響で趣味が伝染することもある。
「なんていうアーティストなの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
嬉しそうな顔で、馴染み深い名を告げる。
「Zeisser」




