エネルギー失調症
温かい思い出トークを経て、病院に到着。
ここは彩甲斐病院。
山という立地上、都会の病院よりもだいぶ大きい。周りに建物もなく、単純に取れるスペースが多いのだ。
それに自然に囲まれた環境、というのが魅力的だ。特に長期的な治療が必要な患者には、このような環境が適している。
病院に入って、まずは総合受付センターに向かう。
ここでは面会希望の手続きをする。面会記録用紙に記入したら、面会者カードを渡される。これが面会の為の、許可証の役割を果たす。
だから病棟に入ったら、常に首からカードを下げていなければならない。
受付にいるお姉さんは知っている人だ。笑った時のえくぼがチャーミングな渡辺さん。
「こんにちはー」
「あ、いらっしゃい」
手慣れた様子で、用紙を渡される。書く内容はいつも通り。いや、人数は違うか。
これは代表者が書けば問題ない。
「今日は多いのね」
「はい、作戦会議なんです」
なんとしてでも成功させなければ。
「はい、静かにね」
「ありがとうございます」
カードを四枚受け取る。
そういえば、今まで何度受け取ったのだろう。
「はい。外したら警備員さんに止められるからね」
注意と共に、カードを配る。
「なぜ俺を見て言う・・。」
警備員さんにカードを見せて、無事ゲートを通過。ここからは病棟エリアだ。エレベーターに乗り、九階を目指す。
「というか、外出って出来るの?」
「体調が安定してれば、普通に外出許可はでるよ」
「あ、なるほど」
・・どうしよう。伝えるべきか。
真鶸ちゃんに肩を叩かれる。
「言っといた方がいいよ!うたちゃんの為にも」
それは・・。そうか。二度手間になってしまうか。
病気のことは、あまり話したくなかったが。
これは私が始めたことだ。
「うたの病気はね。タンパク質エネルギー失調状態、だと考えられているの」
「栄養不足ってこと?」
「そう。でも違う。」
何といえばいいのか。言葉に詰まる。
うたの症状は説明が難しい。
必要な治療をしても治らず、カロリーをいくら摂取してもすぐに消えてしまう。
可能性としては、カロリーがそのまま排出されている、というもの。
しかし排出物の量は一般的な数値。摂取した分にしては少なすぎる。
次に排出物の栄養素を調べると、これまた標準値。
どれも一般的な少女の値しか示さないのだ。
担当医の話では、消費カロリーは人一倍に収まらない。普通に生きるだけで、人十倍のカロリーを消費するという。
なので、常に点滴で栄養を補っている状況だ。それがなければ、すぐに倒れてしまう。
ゆえに奇病。現時点で治療法は見つかっていない。
ある程度、内容をかい摘んで説明する。確かなことは、誰にも分かっていないのだ。
「それ外出無理じゃん・・」
「いや、逆に点滴さえ繋がっていれば健康体なの」
健康診断では異常は見つかっていないし。むしろ身体能力は高水準である。
通常のエネルギー失調症ならこうはいかない。不思議だ。
「だから体調が安定してて、点滴もって準備すれば大丈夫」
「実際、この前三人で散歩したんだよ!」
病院の外を一五分ほど歩いただけだが、確かな前進だ。
この外出許可がいい例で、最近治療の方向性が変わってきている。
つまり治すのではなく、病気と上手く付き合っていく。
だから、今回の彗星観測が良い目標になってくれれば・・。
それに世界に特殊能力が戻れば、不治の病だって治るかもしれない。
「着いたね!」
9階に到着、912号室はエレベーターを出て右手にある。ここは白い壁、白いドアが広がる世界。侵しがたく、触れることを躊躇わせる。
そんなもの、いらない。
こんな所に一生閉じ込めるわけにはいかない。だから絶対に連れ出す。
ノックをして。
今、ドアに手をかける。




