六歳
今日は土曜日。世に言う祝日だが、残念なことに学校がある。
この辺りに、元進学の名残りが見受けられる。正直、学生からすれば迷惑極まりない制度だ。
まぁ午前中のみの授業なので、渋々我慢している。
授業は、英語数学体育化学だった。
特に印象に残っているのは英語だ。今日やった範囲で、違う単語なのに似た意味を持つものが出てきた。まったく、本当に紛らわしい。こんなのただの暗記ではないか。
真鶸ちゃんに聞いてみると。
「そう暗記!そういうものだと考えた方がいいよ!慣れれば法則が見えてくるから」
と言われてしまった。暗記が一番苦手なんだけどなぁ。
放課後のことを考えていると、一日の授業はあっという間に終わっていた。そして土曜日の掃除は簡易的なもので、箒でサッと掃いて回収して終わり。
というわけで学校を出て、今は最寄り駅の保山駅で電車を待っている。
「その病院って遠いの?」
「電車で五駅、バスで三十分くらいかな」
「そっか!愛汰は初めて行くんだっけ!」
ちなみに私と真鶸ちゃんは、一週間に一度は会いに行っている。
言い方は悪くなってしまうが、他人なのによく付き合ってくれるなと思う。
無論、姉としてはうれしい限りだ。あと凪柊の奴はたまについてくる。
「あれ、お前緊張してんの?」
「・・初めて会うんだよ!そりゃ緊張するって・・」
愛汰には無理を言ってしまった。彼からすれば友達の妹。まぁ他人だろう。
でも、みんなで彗星観測をしたい。そっちの方が楽しいし、うたにとって良き目標になるのではないか。
そんな理由で、愛汰には頼み込んで来てもらった。
だがそんなことをした所で、何も変わらないかもしれない。確証なんて何もない。
でも何か、事態が大きく動くような。そんな漠然とした焦燥感に、私は突き動かされている。
電車に揺られること五駅。着いた場所は、保山市よりもさらに田舎町。
ここからバスで、山間部にある病院を目指す。目的地へのバスは三十分に一回のペースで来る。
あと二十分くらいか・・。
「結局何もお土産ないけどいいの?」
「大丈夫、来てくれるだけで喜ぶから。それに、浪人ゲーム持ってきたし」
浪人ゲームとは、ボードゲームである。ルールは、それぞれ順番にサイコロを振って進むだけ。
浪人人生を疑似体験できるのが魅力だ。
「そんなんでいいんだ」
そんなものだ。毎週行くのだから、大したものなんて買っていられない。
それにあまり物欲的な子でもない。こういう下らないものの方が喜ぶ。
「ホントにそう。病院にいると、毎日代わり映えがしないんだよ・・」
真鶸ちゃんにしては、元気のない声。少し驚いてしまう。
彼女は身じろぎをして、言葉を続ける。
「だから、会うだけでも嬉しいの。それだけのことで救われるんだよ!この!」
気恥ずかしいのか、愛汰の腕を殴っている。
「いたいわかったわかった」
声はいつもの調子に戻っている。やはり、彼女からしたら他人事ではないのだろう。
バスに乗ると、車内は四割ほど埋まっている。手土産を持っている人が多く、年齢はバラバラだ。恐らく私たちと同じ目的。
集まって座るなら、最後尾が楽そうだ。
「先いけよ」
「ん?うん」
凪柊の横を通り、窓側の席に座る。
並びは私、真鶸ちゃん、愛汰、凪柊の順番だ。
愛汰と凪柊は駅弁の話をしている。
こうして病院に通っていると、昔のことを思い出す。そういえば、あれはいつの日のことだったか。
「私たちが会ったのいつだっけ?」
「六歳だよ!忘れたの!?」
ちょっと泣きそうな表情で、私のほっぺを摘まんでくる。
「いひゃ!ほほええふって」
初めて会ったのは、うたのお見舞いに行ったときだっけ。
たしか小学校一年のはず。
「れもあんにゃひひほうあはおひへひゃおあむ!?」
「うるさい。喋ったら許さないから」
こわっ!口を抑えられてしまって、頷く他ない。
普段温厚な人ほど、怒ると怖いっていうけど・・。でもその雰囲気は、出会った頃そっくりで。
少し懐かしかった。




