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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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ガールズトーク乱入お断り

「結局のところ、何着ても目立つんだから。あきらめればいいのに」


 着替えた私を見て、美威がそう感想を述べた。

 露出度低めの美威の着てるドレスと交換しろ、という意見は聞き入れてもらえたんだけど。

 身長が合わないからか、なんだか窮屈に感じる。


「美威、このドレス……ウエストがゆるくって、胸がキツい」

「失礼ねっ!! だから最初っから合わないって言ったでしょ?!」

「そもそもなんでこんなもの着ないと食事出来ないんだ? めんどくさすぎだぞ」

「まあ確かに、毎日だとちょっと肩も凝るわよね……」


 そう言って少し考えると、美威は何か思い出したように船内地図を取り出した。


「あ、これこれ」


 私が地図をのぞき込むと、10デッキにあるプールを指さした。


「このプール横のダイニング、夜は軽装でも行けるレストランになるんだって」

「何? なんでそれを早く言わないんだよ」

「だって、高級レストランの方が絶対美味しいものが食べられるでしょ?」

「普通に美味(うま)けりゃいい。今日はそっちに行くぞ」

「うーん……料理はカジュアルなものになりそうだけど、たまにはいいか」


 そんな訳で、私達は着飾るのをやめて、プールのある10デッキに向かった。



 外のデッキへ続く扉を出た瞬間、私は「おっ」と呟いて辺りを見回した。

 早朝の人の少ない時間に泳ぐことにしているので、ここには毎日来ている。

 日中は青空と海を眺めながら食事を楽しむ、解放的なデッキ席だったはずだ。

 今もその配置は変わらないけれど、お洒落にライトアップされていて、昼間とは大分変わったムーディーな雰囲気を醸し出していた。


(夜のこれはこれでアリだな)


 水が青になったり、緑になったり、色んな色に照らされていて綺麗だ。

 城の庭園や大きな町の噴水広場を思い出させる。


 私達はビュッフェ形式のダイニングバーに入って、席を取った。

 カジュアルな出で立ちの人ばかりで、ちょっとほっとする。

 料理も品数が豊富で、美味い。

 

「そういえば、出会わないわね、運命の人」


 美威の呟きに、なんの心構えもなかった私は思わず吹き出した。


「ちょっ、飛那ちゃん大丈夫? 何やってんの??」

「お前が、変なこと言うからだろ……!」


 ゲホゲホ、と咳き込んで水を飲むと私は口を拭いた。

 どっかの馬鹿なコソ泥のことを思い出すじゃないか。気分が悪い。


「ああ、運命の人かぁ。どこかにイケメンで、お金持ちで、私が毎日ゴロゴロしてても文句言わない人いないかしら……」

「現実を見ろ、現実を」


 そんな都合のいい男がいるか。少なくとも私が嫁を募集するなら、毎日ゴロゴロしているだけの不良物件なんてお断りだ。


「何よ、じゃあ飛那ちゃんはどんな人がいいの?」

「……考えたこともない」

「それじゃ今考えて。飛那ちゃんの好きなタイプ」


 グラスを片手に、美威がびしっと私を指さした。

 それ、答えなきゃダメなのか?

 私は首をひねる。


「そうだなぁ……」


 弱いヤツが除外されることだけは確かなんだけど。


「私だったら、父様や師匠みたいに剣の腕が立つ人で……あ、強くても筋肉達磨(きんにくだるま)は嫌だぞ」

「ふむふむ」

「それで、兄様みたいに、優しくて思いやりのある人、がいいかな……?」

「おお、意外と普通ね」


 ん……? ちょっと待て。

 なんか今、誰かの顔が浮かんだんだけど……

 私は南の国で出会ったお人好しな騎士のことを思い出して、口をつぐんだ。


 もしかしてあいつ、今言った条件に当てはまってないか?


「……いや、ないだろ」

「え?」

「っ私の好きなタイプとか、どうでもいいわ!」

「ええ? なんで急に怒るわけ?」


 なんかよく分からないけど、ちょっと動揺している自分がいた。

 これは気のせいだと声を大にして言いたい。


「運命だかなんだか知らんが、そーゆー背筋がかゆくなる話はもういい!」

「何よそれ。飛那ちゃんの馬鹿ー」

「そうそう、そうだよ。大事な話じゃないかー」


 ……ん?


 横から割り込んできた声に、私と美威は顔を上げた。


「やっほー、お友達とお食事? ひなちゃん?」


 出た、コソ泥。

 私達の座るテーブルの横に、先日ここで会った泥棒が手をヒラヒラさせて立っていた。


「飛那ちゃん、すっごい眉間にシワ寄ってるわよ。美しくないからやめて。この人知り合い?」

「知り合った覚えもなければ知り合いたくもない。失せろ」

「えー、傷つくなあ……」

「そう言いながら、イスを持ってくるな!」


 コソ泥は私と美威の隣にちゃっかりイスを置いて、笑顔で座り込んだ。

 そのまま美威に向けて握手のポーズで手を差し出す。


「はじめまして、マルコです。お友達までこんなに可愛いなんて、目の保養になるなぁ」


 美威は、コソ泥の手をほんのちょっとだけ取って握手した。


「私は美威です。そんな、可愛いだなんて。本当のこと言ってもお世辞にはならないんですよー」

「うわぁ、お友達まで塩対応なんだぁ」


 そんなことを言いつつ笑い合う二人を、私はなんとも言えない気分で眺めた。

 なんだ、この状況。


「それで、マルコさん?」

「マルコでいいよー」

「飛那ちゃんと、どういうお知り合い?」

「よくぞ聞いてくれました! 実は……」

「おい、美威! こいつと会話するな!」

「そんなぁ、ひなちゃん。俺、悲しい……」

「ひなちゃん呼ぶな! 私は飛那姫だ!」

「あ、やっと名前教えてくれた」


 ああ、イライラする。

 このペースが乱れる感じ!


「お前……今度は海に投げ込むぞ?」

「あ、すみません。それちょっと洒落にならないんで、勘弁してください」


 凄む私と引いてるコソ泥を見て、美威が首をかしげた。


「今度は、って?」

「ああ、俺、つい2日前にプールに投げ込まれてー」

「……一般民に何やってんの? 飛那ちゃん……」

「私は悪くない! あとこいつは一般民じゃないからな!」


 泥棒を投げて何が悪い。

 あんな目に遭ってもまだ近づいてくる、こいつの神経の方がどうかしていると思う。


「飛那姫ちゃん、見た目全然力なさそうなのに。よく男の俺をあんなに簡単に投げられたよね」

「あ、この子外見で判断しちゃダメですよ。中身は歩く凶器だから」

「そうなの? へえぇ~」

「だから美威、会話するなって……」


 人の話を聞けと言いたい。

 泥棒だぞ? こいつは。


「飛那姫ちゃんの言うとおり、俺職業が盗賊だから一般民ではないんだよね」

「えっ、私達お金持ってないからね?」

「いやいや、俺女の子からは盗らないから安心して」


 私はガタンと椅子を鳴らして席を立った。

 逃げるみたいでシャクだけど、このままこのテーブルに座っていること自体がストレスだ。


「美威、部屋戻るぞ」

「え? もう?」

「帰って部屋で飲み直せばいいだろ。こいつと会話してたくない」

「……随分と嫌われてるけど、飛那ちゃんに何したの?」


 美威がコソ泥に尋ねる。

 聞かなくていい、そんなこと。


「いやあ、何したんだろうね? 嫌われるようなことした覚えないんだけどなあ」


 お前の存在自体に嫌悪感を覚えると言いたい。


 私は美威の腕を引っ張って立たせると、そのまま帰り道を歩き始めた。

 コソ泥は、ニコニコしながら後についてきた。


「付いてくるなっ」

「いや、俺もそろそろ部屋に戻ろうかと思って。帰り道こっちだもんね?」


 笑顔のコソ泥は悪びれる様子もなく、動く床の方を指さす。

 多分、どこまでも付いてくるつもりだろう。

 部屋番号までバレると、余計に鬱陶しいことになりそうだ。


「……美威、バルコニー開けてきたよな?」

「え? 何急に。多分……開けてきちゃったと思うけど」

「部屋の位置、船の先端の方だったよな?」

「……うん。そうね」


 私達の部屋はこの10デッキのすぐ下の階だ。

 船の先頭にある右側の部屋だってことくらいは、方向音痴の私でも覚えている。


「ちょっと、掴まってろ」


 言うなり、私は美威を横抱きに抱え上げてデッキ席の向こう、海の方を見た。


「え。飛那ちゃんまさか……」

「そのまさかだ」


 地面を蹴って一旦デッキ席の手すりに足をかけると、私はそのまま海の方へ飛び出した。

 空中に出た後、美威が何事か叫んだけど気にしない。

 落下するのも一瞬だ。すぐ下に張り出されたバルコニーの柵部分に着地して、自分たちの部屋を探す。

 2つ隣に見慣れた荷物を発見して、私はもう一回そっちに飛んだ。


「……やれやれだ」


 すぐに開いているバルコニーから、部屋の中に入る。

 これでどこの階か、どこの部屋かは分からなかっただろう。


「もーっ! いきなりびっくりするじゃないの!!」


 下ろした美威がぎゃんぎゃん怒る。


「コソ泥に部屋の場所が割れなかったからいいだろ?」

「泥棒でも、そこまで悪い人には見えなかったけどなぁ……なんでそんなに嫌ってるのよ?」

「……聞くな」


 出し抜かれてコソ泥は悔しがっているだろうと、私はちょっといい気味だった。


 会話をしている私達の上、デッキ席の手すりに寄りかかって。

 いたずらっぽい青い目をしたコソ泥がニコニコ笑ってるだなんて、思ってもみなかった。


「……やだなぁ。もう魔力の匂いバッチリ覚えちゃったから、どこに行っても見つけられるのに」


 ましてやその後毎日のように、船の中でコソ泥に会うことになるなんて、本当に、思ってもみなかった。



女子会は男子禁制。


次回は、寄港地に立ち寄ります。

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