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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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女神を見つけた日

 この世界には狩人(ハンター)と呼ばれる職業がある。


 狩人は特別に魔力や能力を持ち合わせていなくても、「何かを集める」ことが出来れば職業として成立する。


 集めるものは何でもいい。

 それが多くの人にとって価値のあるものであれば「商品」になるのだ。

 宝石、貴重な食材、未知の生き物、そういったものを探し求めて狩人は世界各地の秘境に足を踏み入れる。


 俺も、そんな狩人の一人だ。


 ……というのは対外的に、見せかけの話だけど。

 本当のことを言ってしまえば、俺は代々盗賊稼業をやっている盗賊団のボス……の、一人息子なのだ。

 もちろん、秘境に行って何かを集めるとかはしちゃあいない。


「マルコ! てめえまた転がってゲームばっかりしてやがんのか!! この馬鹿息子が!!」


 突然帰ってきた親父がそう叫んだのは、つい先日のことだ。

 いつもアジトでゴロゴロしている俺に、とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。

 持っていた最新式陣取りゲームの操舵機(コントローラー)を取り上げられ、本体を拳でぶち壊された上に、俺本人までがっつり殴られた。

 ちなみに対戦相手の友達は、俺をおいて全員脱兎のごとく逃げたことは言うまでもない。


 そして何故だか、俺はそのまま「武者修行にでも出てこい!」と家を追い出された。


 なんだ? 武者修行って?

 俺は盗賊だろ? 意味分からん。


 家を継ぐため精進するとか修行だとか、心底面倒臭い。

 一文無しで放り出されたからってのもあったけど、俺は仕方なく真面目に盗賊の腕でも磨いてやるかと、世界で最も豪華と言われる巨大客船に潜り込んだ。


 金ってのはあるところにはあるんだなぁ、と思う。

 港町でも大分稼がせてもらったので、今、金には不自由していない。

 ああ、稼ぐと言っても闇雲に稼いでいるわけじゃないってことだけは付け加えておく。

 俺にもターゲットを選ぶプライドくらいはある。

 私腹を肥やした金持ちから少しくらいくすねたって良心は痛まないが、貧乏人からは取らない。

 あと、可愛い女の子からも。


 いかにも成金、て顔したヤツが俺の主なターゲット。

 この船の中には、そんな奴らが溢れていた。


 とにかく親父には「一人前になるまで帰ってくるな!」と言われたが、一人前って何をもって「一人前」なんだ?

 俺だってもう18歳だ。

 いっぱしに仕事だって出来るし、魔力は並だけど短剣だって扱えるし、あの親父は一体何が不満だって言うんだ?


 俺の髪は金髪で目立つから盗賊には向かないと言われたこともあるが、この金髪も青い目も、好き好んで持って生まれてきたわけじゃない。

 目立つことを恐れてばっかりで、盗賊がやってられるかってんだ。


 俺だってもう十分一人で稼いでいける。

 だから仕事がない日に少しくらいゲームしてゴロゴロしてたってかまわないじゃないか。

 理不尽だ。


 そんな感じで家を追い出された俺は、いつか親父に目にもの見せてやろうと、無計画ながら心に誓っていた。


 ロビーの椅子に座って、本を読む振りをしながら周りを見ていると、いかにも金持ちって感じの、目の濁った太ったおっさんが目の前を通過していった。

 ターゲットを選ぶのに、周囲の観察は必須だ。

 乗船したばかりで浮き足立っているカモ達が多い今は、狙い目だろう。


(あいつにするか……)


 おれは次のターゲットをあの太ったおっさんに決めた。

 なに、簡単な仕事だ。

 ちょっと横を通り過ぎるときに、ポケットを探るだけでいい。

 ただでさえ、船の廊下は狭くてすれ違うのにも自然と接近するから、仕事がしやすい。


 すっと席を立った俺は、おっさんの後から少し離れて歩き始めた。

 おっさんはレストランを横切って歩いて行った。

 そのまま後を付けていると、おっさんは前から歩いてきた品の良さそうな老婦人とかち合った。

 道を譲ってやればいいのに、横にどいたのは老婦人の方だった。

 年寄りとはいえ、女性に対して失礼じゃないだろうか。


 俺はその態度にちょっとイラッとして、その場で少しぶつかり気味におっさんを追い越した。


「ああ、すみません」


 笑顔で軽く会釈している間に、ポケットから抜き取った財布を後ろ手に確認する。

 札束の中から5枚ほどを抜いて、もう一度おっさんにぶつかって財布を戻す。


「なんだ君は、進むのか進まないのか、どっちなんだ?」


 おっさんは道を塞がれた形になって憤慨したが、俺が謝って横にどくと文句を言いながら大股で歩いて行ってしまった。


 一丁上がりっと。


 テーブルの間に避けていた老婦人は、向こうへ行きたそうにしながら俺がどくのを待っているようだった。


「これは失礼マダム」


 俺は会釈して丁寧に詫びた。

 エスコートして道の真ん中へ送り出す。

 どんなに子供でも、お年寄りでも女性は女性。

 男は女に優しくなければいけない。

 これが俺のポリシーだ。


 品の良い老婦人は笑顔で去って行った。

 うん、ちょっといいことした気分だな。

 錯覚だけど。


 その時俺は、後ろから誰かの視線を感じた。

 こういう職業だと、自然人の視線を察することにも鋭くなるものだ。

 首を回して、レストランの向こうを見る。

 カフェの窓際に立っている、一人の女性が俺のことをじっと見ていた。


 いつもなら、こんな時に相手を直視するなんて事はしない。

 ただその時の俺は、吸い寄せられるように見ずにはいられなかった。

 不覚にも直接そちらを見てしまったせいで、目が合う。

 瞬間、俺は雷に打たれたような、強烈な衝撃を受けた。


 ……ヤバい。

 これはドストライクだ……!!


 俺が常日頃思い描いていたような、理想の女性がそこに立っていた。

 ラフな服装ながら、頭の天辺から足の爪先まで非の打ち所のないスタイル。

 明るい薄茶の髪に、瞳。通った鼻筋と形の良いふっくらした唇から目が離せなくなる。


 これは夢かもしれない。

 こんなに完璧な造形の女性が、未だかつて存在しただろうか。


 すごく長い間その女性を見つめていた気がするが、本当は時間にして一瞬だったろうと思う。


 あの女性(ひと)はどうして俺を見てるんだ?

 まさか、俺のことが……

 そう思った瞬間、女性はコーヒーのペーパーカップをゴミ箱に投げ込んで、俺のことなんか見ていなかったと言うように、その場から去って行ってしまった。


 雷に打たれた(いや、実際には打たれていないが)衝撃で、俺は呆然とそこに立ち尽くしていた。

 俺の全身は熱を持って、長く風呂にでも浸かった後のようだった。


 これはあれだ。

 きっと「運命の出会い」ってやつに違いない。

 俺の心は、すっかり舞い上がっていた。


マルコ・エアーズ(18)

南の盗賊団の一人息子登場です。

お馬鹿な子ですが生温かい目でみてやってください。


次回は、飛那姫サイドから見たマルコに出会う話。

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