世界を見に行こう(回顧録)
差し出した私の手を、君の小さな手が掴んだ。
高い高いあの木のてっぺんに。
登りたくても登れなかったところに。
君はいとも簡単に引っ張り上げてくれた。
風に揺られる枝は少し怖かったけれど。
広がる景色は輝いて見えて。
下からは見えなかったものが、はじめて見えた。
「すごい」を繰り返す私に、君は笑って言った。
もっとすごいものを、見に行こう。
もっと色んなものを、見に行こう。
もっと遠くまで、見に行こう。
二人で。
それは幼い日の君との約束。
旅のはじまりの日の、大切な記憶。
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強がりばかりで生きてきた。
本当は心細くて泣きたかった。
もう動けないと歩みを止めた時に。
あたたかい風に運ばれて、君の声が聞こえた。
一緒に行こうよと、君は笑った。
その笑顔もいつか消えてしまいそうで、怖かった。
大切なものを作るのには、臆病になっていた。
そんな私を君は殻から引っ張り出した。
世界の入口がそこにあった。
どこへでも行けそうな気がした。
心から、笑い合えそうな気がした。
君となら。
今度こそ、守るのだと。
何があっても、守ろうと。
ひっそり強く、願う手を握りしめた。
それは幼い日の私の誓い。
旅のはじまりの日の、大切な記憶。
本筋のストーリーからやや外れますが、どこかに載せたかったので。
「詩」ではありません。多分。
10歳の美威と、飛那姫がした約束の話。
次回は、豪華客船に乗船するため、港町に行きます。