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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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次の目的地へ

「それで? 結局、角1本だけ持って帰ってきたわけ?」


 私が手渡した土竜の角を布袋から取り出しながら、美威が言った。

 討伐対象とは言え、しゃべってた生き物から角を取るのはちょっと気が引けた。

 それでもなんかの材料になるかと思って、一番小さい角を土産に持ってきてやったのに。

 なんでそんなに不満そうなんだ。


「時間なかったし、すげー皮膚硬かったんだぞ。その程度でも持って帰ってきただけエライって言えよ」

「あ~エライわ。エライエライ。せめてこれがもっと大きい角だったら高く売れたかもね。はぁ……なんでこんなに小さいのよ」


 そんなこと言われてもな。

 帰りは少ない魔力で怪我人運んだり、馬車呼んで来るまで炎天下で待ったり、こっちだって色々大変だったんだぞ?


「で、土竜は強かった? 傭兵だけで退治できそうなレベルだったの?」


 城から出て行った討伐隊が、傭兵しかいなかったのを見ていた美威が、そう尋ねる。


「あー、それなんだけど……」


 私は城に騙されてて生け贄にされるところだったことと、火竜ほどではなかったにせよ、やっぱり竜は強かったということを話して聞かせた。


「それって、自分ところの兵は減らしたくないけど、傭兵は死んでもいい的な扱いね……」

「まあ、傭兵なんて城からすれば使い捨てだからな。土竜を倒せたら倒せたでいいし、食われたら食われたでもいいやってことだったみたいだぞ」

「えげつないことするわねぇ……飛那ちゃんいなかったら、みんな死んでたわね」

「そうかもな……ああ、でも、それなりに強い傭兵もいたよ」

「へえ?」

「元々どっかの城の騎士なんだけど、路銀がなくなったんで城で働かせてもらったとか言ってたな。黒魔法使えないヤツだったけど、竜相手にマトモに立ち回ってたよ」

「ふーん……飛那ちゃんが、他人のことを強いだなんて……珍しいわね」

「そうか?」


 私は過大評価も過小評価もしない主義だ。

 弱いヤツは弱いし、強いヤツは強いって評価してるつもりだけど。


「ま、私の方が100倍強いけどね」

「飛那ちゃんより強い剣士がいたら、それはもう神様だと思う」

「あ、そう言えば」


 アレクのことを思い出して、私はショートパンツのポケットからごそごそと1枚の大きなハンカチを取り出した。

 薄い黄色の、さざ波模様みたいなのが入った、やけに手触りのいいハンカチ。

 洞窟から出たらあまりに暑かったので、外してポケットにねじこんだったんだ。


「……返すの忘れてた」

「あら? それって……西華蘭織(せいからんおり)じゃない?」

「なんだそれ?」

「西の方の特産品じゃない。世界三大織物の。知らないの?」

「布には興味ないからなぁ……」


 美威は本ばっかり読んでるからか、頭の中に入ってる知識量がおかしいと思うことがある。

 こうやってたまに出てくるマニアックな話にはついていけない。

 でも、西の方の特産品てことは、あいつは西の人間なのかな。


「これ、グレードがあって、いいやつはすっごい高いのよ」

「ふーん」

「売ってもいい??」


 キラキラした目で尋ねられて、私は少し考えた。

 いつもなら高い布とか、どうでもいいんだけど。

 なんでかな?

 別にいいよって、手放す気にならないのは。


「いや……とりあえず持っておく。借りたもんだし」

「ええ? だって次いつ会えるかなんて分からないでしょ? もう一生会わないかもしれないのに、いつ返すつもりなのよ??」

「それはそうなんだけど……」


 美威はブツブツ言ってたけど、私はハンカチをたたみ直して荷物に入れた。

 小さなつながりを、こんな風に保ったままでいようとするなんて、確かに私らしくない。


(根拠はないけど、また会える気がするんだよな……)


 そう、口には出さないで呟いた。


「それはそうと、この町、他に仕事なさそうだな。どっか別に行くアテあるのか?」

「そうねぇ……宿の人に聞いたら、もうちょっと南のサウスボーンの方が仕事があるかもって話だったわよ」

「でも今回の土竜討伐でそれなりに儲かったし、しばらく仕事しないでもいいんじゃないか?」

「ダメダメ、次は航路を使って北に行くんだからお金かかるの。夏は涼しいところに行きたいでしょ? もう一稼ぎしないとねっ」

「あー、へいへい」


 テーブルの上には地図、コンパス、虫除けスプレー、日焼け止めが並べてある。

 持ち物チェックをしていたところを見ると、今日にでもここを出ることになりそうだ。

 

「また南か……」


 そのうちに、西の国方面に行ってみるのもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は印象的な濃緑の瞳をした、お人好しな男の顔を思い出していた。

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