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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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別れと葛藤の行く先

 一番最後まで残っていた私達は、報酬を受け取ってから城の外へ出た。

 飛那姫と雑談しながら、大通りを歩く。


「飛那姫は、これからどこへ?」

「あー、相棒待たせてるから、宿に行くわ」

「ああ、そうなのか……パートナーは討伐には参加しなかったのか?」

「紹介状が1通しかなかったからね」


 城から伸びる道を真っ直ぐに歩いていたら、市場に入った。

 青空食道は今日も多くの人で賑わっている。南の国の照りつける太陽も、この活気も嫌いじゃない。

 大通りを更に行けば城下門だから、馬か馬車を手に入れられるだろう。

 私もそろそろ、帰路につかなくてはいけない頃だ。


「じゃ、私こっちだから」

「あ……」


 ひらひらと手を振って立ち去ろうとする飛那姫に、思わず手が伸びた。

 彼女の手首を掴んでしまってから、予想していなかったその細さに少なからず驚く。

 飛那姫は、怪訝な顔をして振り返った。


「……何? 力比べでもしたい?」


 いや、それは勘弁してほしい。負けたら立ち直れなさそうだ。

 口にしなかったが、半ば本気でそう思う。しかしどうして引き留めてしまったのかは、自分でもよく分からなかった。


「あ、いや……そうじゃないんだ、すまない」


 名残惜しさを感じながら、私は掴んだ手を放した。

 何か、言わなくては。


「飛那姫は、またここを出て旅を……? 次は、どこへ向かうんだ?」


 口から出て来たのは、聞きたかったそんな問いだった。


「そりゃ、流れの傭兵だからね。あちこち行くよ。しばらくきっと南をウロウロすると思うけど、行き先なんて特に決まってない」

「そうか……」


 帰る家のない、流れの傭兵と連絡を取ることは難しい。

 ここで別れたら、次に顔を合わせる機会などないのではと思えた。

 とは言え、自分の家や身分を明かして「尋ねてきてくれないか」と提案することも、立場上難しかった。


 もう会えないかもしれないと思うと、不思議な焦りが胸の内に浮かんでくる。

 この気持ちに、説明がつかない。


(考えても仕方のないことを……)


 それ以上、私から何か言えることはなかった。

 また会いたいなど、私の勝手な感傷だ。会ったばかりの女性に言う言葉ではない。


 少し考えてから、私は右手を飛那姫に差し出した。


「じゃあ飛那姫……元気で。またどこかで会おう」


 差し出された手を見て、飛那姫は仕方なさそうに、それでも少しだけ笑った。

 剣士とは思えない白く細い手が、握手を返してくれる。


「そうだね。またどこかで」


 簡単な約束。

 今はそれだけでいいと思えた。

 きっとまたどこかで、必ず会えるはずだから。


 人混みに消えていく彼女の姿を、見えなくなるまで見送った。

 私は一つ息をつくと別の方向に歩き出した。

 ぽっかりと心に穴の開いた感じと、まだ彼女を見ていたかったという思い。

 それに追いかけたい衝動が残っている。


 この気持ちに、名前をつけることが出来ない。

 自分で自分が何を考えているのか分からないなんて、妙な気分だ。


「アレクシス様……」


 後ろからついてくるイーラスが、不安そうな声を出した。


「なんだ?」

「まさか……あの娘がいくら見目良くても……それは……」

「何の話だ?」

「いえ。その……また、彼女とお会いになりたいのですか?」

「ああ、彼女の剣は本当に見事だった。あの強さの秘密を知りたいな」


 そう答えて、そうか、と納得した。


 きっと私は、剣士として強い彼女に憧れているのだ。

 自分の気持ちにひとまずの名前がついて、なんとなくほっとする。


 そんな私の様子を見て、イーラスは深いため息を吐いたが。


 城下門について、砂漠馬を2頭と、水と食料を買う。

 次の国まで続く砂漠の道はそれなりの距離がありそうだった。

 4月とは思えないほど暑いこの国だが、西に帰れば季節はまだ春だろう。


 大国の王太子として色々とやらなくてはいけないことを思い出したら、少し気が重くなった。

 この沈んだ気持ちは多分、国での公務が山ほど溜まっているせいだ。


 そう自分に言い聞かせながら、私はイーラスとともにサンパチェンスの街を後にした。

土竜討伐のエピソードは、短編「私のご主人様2」にリンクしています。

苦労人、侍従イーラスの視点でその1、その2とあります。


https://ncode.syosetu.com/n5502fb/

https://ncode.syosetu.com/n5579fb/

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