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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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洞窟の奥を目指せ

 土竜が住んでいるという、洞窟の入口にはすぐにたどり着いた。

 今は目の前にぽっかりと黒い口を開けている。


 縦10M、横20Mくらいの入口は、すぐそこから光の届かない空間になっていて、見ていると吸い込まれそうだ。

 怖いものなんてさしてない私でさえ、ここに入っていくのは薄気味悪く感じる。


「土竜はこの奥だと聞いている。早いところ討伐を済ませて、負傷した人間を町に運ぼう」


 傭兵隊長のいうことはいちいちもっともだ。ラフビッツにやられた人間達は大した負傷じゃないけど、置いてきてしまっているから心配ではある。本当に、さっさと土竜討伐すませて帰るが吉だね。


 魔法士達が灯りを灯すと、みんなはぞろぞろと洞窟に入っていった。

 これ、本当に大丈夫なんかな? 固まって行って、洞窟崩されたら終わりじゃない?


 そう思いながらも、進まないという選択肢は私にない。

 攻撃色の強い黒魔法に思い切り偏っている私は、白魔法である光系魔法が使えないからな。置いていかれるのは困る。


(美威もいないし、こんな暗がりで自分の近くに灯りがないってのは勘弁だ)


 そう思ってたら、急に目の前に、ぽぅっと小さい光が灯った。

 光はふわふわと私の回りを飛んで、ついてくる。

 振り返ると、銀髪の男、アレクが自分と連れの周りにも光魔法の灯りをともすところだった。これ……使っていいってことか?

 連れの男はなにやらブツブツ不満そうだったけど。


「あんた、白魔法系なのか……?」

「ああ、黒魔法には適性がなくてね」


 私とは正反対だな。

 温和そうな感じに合ってるとは思うけど。


「……サンキュ」

「どういたしまして」


 ありがとう、とか、ごめんなさい、を口にするのは、どうも苦手だ。

 あと、見返りなく親切にされるのも。背中がむずがゆく感じる。

 でも正直、この灯りは助かった。


 足下の悪い洞窟内は、奥に進めば進むほどひんやりしてきて、ちょっと肌寒いからヤバ寒いくらいになってきた。

 私はショートパンツで来た自分を恨めしく思った。


 更に進むと、地下の空間は狭くなるどころかどんどん広くなっていって……

 とうとう、城のホールぐらいの広さがある場所に出た。


「少し休憩しよう」


 傭兵隊長がそうみんなに声をかける。私たちは立ち止まって腰を下ろした。

 見張りを3人立てて、交代で休憩する。


「誰か、この中で土竜と戦ったことのある者はいるか?」


 隊長の言葉に、みんなが口をつぐんだり、首を振ったりして答えた。

 私も土竜は見たことがない。火竜と水竜と風竜はあるけれどね。もちろん、強かったなんて言葉では表現出来ないくらいヤバかったよ。


「土竜の属性はもちろん土だろうが……竜である以上ブレスの攻撃があるだろう。まず出会ったら、魔法士2人は必ず灯りを確保してくれ。後は戦闘の補佐と攻撃。魔法は風属性のものを使ってみてくれ」


 隊長の作戦に、みんなが頷いていると、洞窟の奥から何か風の唸るような音が聞こえてきた。腹の底に響く、低い声だ。


「な、なんだ?」

「今のが竜の声か?」


 うろたえたような様子を見せる男が数名いたものの、大抵は落ち着いていた。城の紹介状経由だから、ちょっとはマシな傭兵が多いってことかな。


 以前に戦った火竜は、それは凄まじい火力を持っていた。

 100人くらいの兵があっという間にやられたのを覚えてる。水系魔法が使えない自分だって、美威がいなかったらきっと勝てなかった。

 土竜がどんな程度のものかは分からないが、この20名ちょっとの人数で、倒せる相手なんだろうか。


「……マント、貸そうか?」


 手のひらを擦り合わせて息を吹きかけていたら、アレクが横からそう気遣うように尋ねてきた。

 暖かい布にくるまりたい気分なのは確かだけど。


「いい。動きにくいの好きじゃないから」


 Tシャツショーパンで結構。

 健康優良児ですから問題ありません。


「じゃあ、気休め程度かもしれないが……」


 アレクはそう言って、懐から四角い大きい布を取り出すと、ふわりと私の首に巻き付けた。

 やたら肌触りのいい、随分と上等な布だ。そうだね、首を温めると全身が温まるっていうもんね。

 でも本当、気休めじゃないか?


「いや……本当いいってば」


 断ろうとしたら、布の上から首に手を当ててアレクが小声で呟いた。


表面防御膜(シェルターナル)


 声とともに全身に弱い電流が走ったような感覚があって、私は目を丸くした。

 美威の守護魔法に似ているけど……あれ? なんか少しあったかくないか?


「体の表面を保護する守護魔法だ。体温調整にどこまで効くか分からないが」

「いや、何もないよりずっとあったかいけど……」


 会ったばかりの傭兵にここまでしてもらう覚えは、ない。


「私なんかに魔力使ったらもったいないよ? 借りとか、作りたくないんだけど……」

「先ほどの、雷の礼だ」


 ああ、ラフビッツの……って、あれ、私が借りを返したつもりだったんだけど。

 これじゃお礼合戦じゃないか。


「別にいいのに……」


 私は言い淀んだまま、なんとなく視線をそらした。傭兵仕事に来て前線に駆り出されることには慣れているけど、こんな風に優しく気遣われるのには慣れていない。

 妙な居心地の悪さと、くすぐったさを感じて、アレクの顔が見れなくなる。


(うーん、もう早く暴れたい……)


 休憩が終わって、また私たちは歩き出した。

 土竜がいるところはまだ奥なんだろうか。今のところ何事もなく進んでるけど、罠とか敵とか、他に出てこないんだな。


 そう思ったのもつかの間。

 洞窟ホールの空間から数十メートル先に、それはあった。


「何だ、あれは……?」


 先頭の傭兵隊長と魔法士達がざわついてる。

 なんかいたか?


 それは黒い水たまりに見えた。かなりの広範囲に渡って道を塞いでいる。

 あの上を通らないと、奥には行けそうにないが……あれ、歩けるのか?

 うっすらと魔力を感じる妙な水だ。みんなが進むのを躊躇して足を止めていたら、それはにわかに動き始めた。

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