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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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土竜討伐隊 いざ出陣

 土竜討伐に向かう日の朝。討伐隊は朝食のために食堂に集まっていた。

 昨日の酒場より人数が少ないのは……まぁ予想の範囲内だろう。この分だと二日酔いで討伐に行けないヤツもいそうだ。


 食堂の入口をくぐったところで、人にぶつかる。渋滞しているとは思わなかったので結構思いきりぶつかってしまった。


「あ、ごめん……」


 よろけたのは私の方だったが、一応軽く謝っておく。

 大きな茶のマントに視界を遮られて一歩後退すると、私は障害物を見上げた。

 振り返った男と、目が合う。


「あ」

「……ああ、昨日の君か」


 昨日酒場で会った、あの銀髪のイケメンだった。

 これ、ドリンクコーナーに並んでいる列だったらしい。


「おはよう。よく眠れたかい?」


 銀髪の男は、朝っぱらからさわやかすぎる笑顔を振りまいてきた。

 傭兵にはあまりいないタイプだ。私はなんとなくげんなりして、無言で目をそらした。

 今まで生きてきた中で、男ってものにはろくな思い出がない。

 はっきり言って男は嫌いだ。出来れば関わり合いになりたくなかった。

 飲み物は欲しいから、仕方なく後ろには並ぶけどさ。


 こうして並んでみると、銀髪の男は170cm弱ある私の身長より10cm以上でかいことが分かった。

 斜め下から、まじまじとその横顔を眺めてみる。


(やっぱり、似てるかも……)


 死に別れたときの兄様は15歳くらいだったけど、こいつは20歳くらいかな。あのまま兄様が成長してたら、こんな雰囲気の大人になってたんだろうか。

 どうやら剣士らしいけど、あんまり筋肉マッチョに見えないところも兄様と似てる。

 兄様は本の虫で、筋肉とは無縁の人だったから。


 そんなことを考えていたら、視線に気付いて居心地が悪くなったのか、銀髪の男は首を回して苦笑いを浮かべた。


「その……何か、私の顔に付いてるかな?」


 それは遠回しに、見るなと言うことか?


「……知り合いに、似てたから」


 それだけ言うと、私は前を指さして「早く進め」と言った。

 飲み物の順番が来てるだろうが。


 銀髪の男はこの地方で採れる名物のお茶を頼んで、連れらしい男とテーブルに向かっていった。

 朝一番からしぶいお茶とか、ジジイかあいつ。

 私はオレンジジュースを頼んで、空いた席に着いた。


 傭兵達はめいめいに、テーブルの上のパンやらチーズやらを皿に取って食べていた。酒が抜けてるんだか抜けてないんだか、目の怪しい奴もいる。

 ぐるっと見回したところ、剣士が多いようだった。

 次に拳闘士、あとは魔法士が少し。城からも騎士団が出るんだろうか。


(どの程度の規模になるんだか……)


 土竜がどれほど強いのか分からなかったが、一般募集をかける位だ。人手が足りないのは事実だろう。

 このサンパチェンスは大国とは言えないまでも、そこそこ大きい小国だから、騎士団だって一応あるだろうに。

 それでもよそ者に頼らないと回らない防衛事情を思って「大変だなー……」と人ごとのように呟いた。


 食事の途中で、騎士団の部隊長とやらが前に出てきた。土竜討伐の場所なんかについて説明してる。

 一応近くまでは連れていってくれるそうだから、迷う心配はなさそうだ。


 土竜がいるという場所は、砂漠の真ん中にあるオアシス地帯の、更に洞窟の中らしい。

 土があるところにいるから、砂竜じゃなくて土竜なのか……


 敵がどの程度の強さだとか、城からは騎士団がどれ位出るとか、詳しいことは何も説明されないまま食事は終わってしまった。

 そしてそのまま、私たちは城門前に集合することになった。

 なんとなくその雑な感じが腑に落ちなかったが、まあ、どんなヤツが敵でも負ける気はしないので、長ったらしい説明とか省いてくれてむしろ感謝だ。そう思うことにした。


「そっちから8人、ここに乗り込んでくれ」


 馬車の後ろの荷台は超オープンだ。砂とかかぶりまくりそうだけど、それでも目的地まで連れて行ってくれるのはありがたかった。

 何しろ、私は筋金入りの方向音痴なので。自分で行けと言われても、たぶんその時点でアウトだろう。


 座席も何もない馬車の荷台に乗り込んで腰を下ろすと、目の前に知った顔が座った。


「……やあ」

「……」


 銀髪の前髪をかき上げたイケメンと、目が合う。

 他にも馬車はあるのに、なんで一緒になるかな……


「君も、本当に討伐に参加するんだな……」


 銀髪の男は、意外だと書いてある顔でそう言った。

 一緒に乗り込んだ他の傭兵からも、興味津々と言ったまなざしを向けられて気分悪い。

 こういう扱いには慣れてるけど、美威がいない分、自分に視線が集中するのが不愉快だ。


「参加するけど、何か?」


 軽く睨んでトゲのある含みで返したのに、銀髪の男は悪びれる風でもなく聞き返してきた。


「君は魔法士なのかい?」


 この質問、傭兵になって何回目だ?

 どうせ私は剣士には見えないよ。筋肉ないし。でも筋肉なくても、剣士にはなれるんだからな。それもとびきり強い剣士に。


「私は剣士だ」


 その一言で、ざわざわっと他の傭兵達までもが私を振り返った。

 冗談か? みたいな声まで聞こえてくる。


 ああ、うっとうしい……本当に剣が持てるのか? とか、どこに剣があるんだ? とか思ってるんだろう。余計なお世話だ。

 もうこいつら、全部まとめてこの荷台からたたき落としてやりたい。

 それ以上会話するのも面倒だったので、私は話しかけるなオーラを出したまま、そっぽを向くことにした。



 まもなく、馬車は城を出立した。

 サンパチェンスの街中を砂煙をあげながら駆けていく。


 一件の宿屋に近づいたとき、なじみの魔力を感じて私は顔を上げた。

 宿の2階から、美威が手を振っていた。

 口パクで「トラブル起こすな」と言っているのが分かった。


(へいへい……)


 軽く手を挙げて返したのも一瞬だ。馬車は大通りを抜けて、城下門を通過していく。

 砂漠馬は砂の上でも走れるから便利だな。馬車を引く足のでかい馬を見ていたら、なんだか眠くなってきた。


「この揺れで寝れるって……」


 うとうとし始めた私を見て、隣でどこぞのおっさんがそう言うのが聞こえたが、気にしない。起きてて会話を振られても面倒だから、こういう時は寝るに限る。

 Tシャツの上から着ていた薄いベストを顔にかけて、荷台の背に体を預けると、私は本格的に眠りだした。

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