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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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おせっかいな銀髪の男

 時計の針は午後9時を回った頃。

 城の地下酒場には、30人ほどの傭兵がひしめき合って騒いでいた。

 私は一人、カウンターに腰掛けてその様子をげんなりと見つめている。


 そう、どうしてか、私は一人でここにいる。

 なんでこうなった?

 それは美威が門前払いを食らったからだ。


 紹介状を持って、1時までに城にたどり着いたのは良かった。

 でも紹介状で入れるのは一人だけだった。

 じゃあどっちが行くかってなった時に、強そうな土竜と戦ってみたかった私が討伐に参加することになった。そういう経緯。


 食糧は何にも用意していなかったので、城が夕食の席を用意してくれたのはありがたかった。

 でもその後、「懇親会」と称して酒の席を強要する傭兵達に、本当に酒場を開放しなくても良かったんじゃないか?


(こいつら……明日の朝、本当に討伐になんか行けるのか?)


 荒くれ者が多い傭兵は飲みっぷりもすごい。開始20分で、すでに半数以上の人間が出来上がってる気がする。雇い主の城から誘われた手前、断る訳にもいかず、私も参加するだけはしたが一杯だけ飲んで帰るつもりだった。

 顔は出したし、もうそろそろ部屋に戻ってもいいだろう。

 そう思ってそっと立ち去ろうとしたとき、左右の席に、どかっと酒臭い男が二人座り込んだ。


「あ~? 女がいるじゃねえか。まさかお前も傭兵なのか?」

「マジか? おれらの相手しに来てくれたんと違うのか?」


 ああ……面倒くさいのが来た。

 もうさっさと部屋に帰って寝れば良かった。雇用中に傭兵同士でいざこざを起こすと、城ってやつはうるさいのだ。ここで厄介ごとを起こしてクビにでもなったら、美威がすごく怒るに違いない。


 私は無視を決めて、そのまま席を立った。

 酔っ払いなんか、相手してられるか。


「おーい、おいおいおい、待ってくれよ」

「まだ始まったばっかじゃんか。一緒に飲もうぜぇ」


 両方の手首を左右から同時に捕まれて、否応無しに足を止めた。

 本当に面倒くさい。


「……手ぇ離してくれる?」


 最高に不機嫌な声で言うと、私は酔っ払いを睨んだ。

 酔っ払い二人は、まったく聞いていない様子で、しきりにもう一度座るようにぐいぐい人を引っ張ってくる。

 さすがに手首が痛くなってきて、私はぽすん、と逆戻りで席に腰掛けた。


「そうそう、まだ夜は長いからな」

「姉ちゃん名前は? 何飲む?」


 いかん。殴りたい。

 いや、ちょっと待て。ここで追い出されるわけにはいかない。

 穏便に、穏便にね……あ、でももうだめだ。これ、絶対殴る。


 太ももの上に無遠慮に置かれた手が、さわさわっと動いたところで、私は両の手に魔力をこめた。

 自慢じゃないけど、私は剣士として誇れるような筋肉は持ち合わせていない。

 でもノープロブレム。持ち前の魔力ドーピングがあれば私は無敵だ。反則技と言われても結構。腕力でも脚力でも、男なんかに負ける気はしない。


 最低限の手加減を視野に入れつつも迎撃態勢に入った私が、二人組を叩きのめそうとした瞬間。

 男は奇声を上げて椅子から飛び上がった。

 いや、無理矢理立たされていた。


「さっきから見ていれば、恥ずかしいと思わないのか?」


 不愉快そうな顔で立った長身の男が、私の足を触った男の手をひねりあげていた。


 男にしては長めの銀髪に、少し日に焼けた肌。

 濃く深い緑色の瞳が、印象的だ。

 軽鎧に茶のマントを羽織って、装飾の凝った長剣をぶら下げてる。

 雰囲気は城の騎士みたいだけど、ここにいるんだから同じ討伐に行く傭兵仲間だろう。


 あと、男に興味のない私でも分かるレベルのイケメンだった。

 他人からの見た目評価が異常に高い私が言うのもなんだけど、何というか、個々のパーツが整いすぎている。

 これ、美威がいたら絶対に「きゃー」とか言って喜んでるな。


「なんだお前、横から出てきて偉そうに……やろうってのか?」


 二人組の男は舌打ちして、銀髪の男に突っかかった。

 でも銀髪の男は男達を無視すると、真剣な顔で私に向き直った。


「君、どうしてこんな場所に女性1人でいるんだ? 危ないじゃないか。もう部屋に帰りなさい」


 一瞬、きょとん、となって無言で男を見上げてしまった。

 え、なんだこれ。まさか説教か?

 よくある「助けてやったんだから言うこと聞け」パターンじゃないみたいだけど。


 善意だかおせっかいだか知らないけど、偉そうな態度にムカッときた。

 つーか、そもそも助けてくれなんて言ってないし。私に命令するなよ。

 なんだか頭に来たので、軽く睨んで言い返してやった。


「……余計なお世話だ。助けたなんて思うなよ」


 むしろ、助けられたのはこの二人組の方だろう。

 あと少しでボコボコにするところだった……危ない危ない。

 私は今度こそ席を立つと、目を丸くした銀髪の男と酔っ払い二人組を尻目に、酒場を後にした。



 用意された部屋へ続く廊下を歩きながら、私は考えていた。

 さっきのイケメン、誰かに似てる気がする。

 お節介なところといい、説教始めるところといい、いいとこの坊ちゃん風な雰囲気といい。


「……あ、分かった」


 兄様に似てるんだ。

 あの過保護な感じが特に。

 そう思ったら、イライラが少し消えていった。


 私の兄様はかなり昔に亡くなっている。

 当時の容姿を思えば、今生きていたとしてもあんなに背は高くないだろうし、ましてや銀髪でもないんだけど。


 頭に来ていたはずなのに、何故か私は少しだけ懐かしい、薙いだ気持ちになった。

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