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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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プロローグ ~夢の中の少女~

 いつの日の記憶か、夢を見た。

 子供の頃に父王に連れられて行った、異国の地の夢。


 明るい薄茶の瞳と髪をした6歳くらいの少女は、東の国でいう「桜色」の着物を着て、その姿に見合わない長い木刀を携えていた。

 かわいらしい笑顔で楽しそうに木刀を振り回すその姿は、僕にとってちょっと衝撃的で、異様でもあった。


「さあ! 早く手合わせしましょう!」


 そう言って、無邪気に木刀を構えた目の前の少女に、困り果てる。

 そう、僕は今、この少女に勝負を挑まれているのだ。

 何故こんなことになってしまったのか……


 彼女と僕は、さっきまで穏やかな庭園を散歩していたはずだ。

 東屋に着いて、腰の剣を見せて欲しいとねだられて、言われるがままに差し出したのだったか。

 目を輝かせた少女は、そこから剣の話しかしなくなった。

 庭園の横にある騎士団の演習場を指し示し、いつもそこで剣の稽古をしているという話になり、大人ばかり相手にしているからたまには子供と試合してみたい、手合わせしてくれないかというところまで、あっという間に話が進んだ。


 可憐な少女の言動だとも思えず、笑顔を貼り付けたままずっと頷いているしか出来なかった僕がいけなかったのか。

 これが第一王女だと言うのだから、紗里真王国は相当変わっているのかもしれない。

 結局、手を引かれて演習場にまで来てしまったが……


 自分の身長よりはるかに小さい女の子に木刀を向けるなんて、とんでもないことだ。だけどこんなに楽しそうにしているのに、付き合ってあげなければかわいそうだろうかとも思ってしまう。

 いや、大体どうしてお付きの侍女達は、そろいもそろってこの子を止めないのだろう。


 見ればみんな遠巻きに薄笑いで、僕に申し訳なさそうな視線を送っている。

 もしかして、これが日常茶飯事なのか……?

 少し恨みがましく思いながらも、ふと気づけば自分も木刀を握っていた。


(あれ? いつの間に……)


「もう始めますわよ!」


 僕が木刀を構える前に、少女は地面を蹴って向かってきた。


「いや、ちょっと待ってくれ……!」


 言い終わらないうちに横から剣閃が飛んでくる。

 心の準備も出来ないまま、僕は木刀を縦に構えて受け止めた。


 ガン! と鈍い音が響いて、予想より遙かに重い衝撃が手首を伝わり肩まで駆け上がってきた。

 ぐっと足を踏ん張ってなんとか堪える。


(え……? なんだこれ……!)


 子供の力じゃない。

 この体重の軽そうな少女が繰り出す斬撃とは、到底思えない。


 僕だって騎士団長を務める手練れの剣士に、毎日稽古をつけてもらっている。

 剣の稽古はちょっと面倒なこともあって、それほど励んでいるわけじゃないが、同じ年の子供には負けたことがない。

 それなのに。


「まだまだ続きますよっ!」


 はっと我に返って、木刀を握る手に力をこめると、次の2手、3手が流れるように降ってきた。


「くっ……!」


 受け流して後ろに飛び退くと、少女は間髪入れずに間合いに入り込んでくる。真下から振り上げられた剣先が、風切り音とともにあごの少し先をかすめていった。


(これ、おかしくないか……?)


 反撃しようと思ったが、体制を立て直す間も与えてくれない。速すぎる。

 大ぶりに振りかぶった少女の、一瞬の隙をついたつもりで左下から剣をなぎ払ったものの、そこに彼女の姿はなかった。


「スキありですわ」


 ふいに下から声がして、視線を落とす前にみぞおちに鈍い痛みが走った。

 木刀を返して、柄で小突かれたらしい。


「げほっ……」


 僕が膝をついたことで、勝負はついた。


「そんな大きく空回りしたら、スキだらけであぶないですよ、アレクシス様」


 小さい子供とは思えない不敵な笑みを浮かべて、少女は言った。


 負けた?

 こんな小さな女の子に、僕が?


 その事実に少なからず愕然として、ゆっくりと顔を上げる。

 視線の先、城のバルコニーには楽しそうに父王と歓談する少女の父、この国の王の姿があった。


 夢は、そこで途切れた。


少年の父も王様。少女の父も王様。


メインの章スタートです。

第1章から7年経ったところからのスタートですが……温度差あります。


視点は基本一人称で、人物が入れ代わります。

最初の数行で誰か分かるようにしているつもりですので、ご了承ください<(__)>

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