忌み子
その映像は幼い頃からの記憶だった。
順番も、季節も問わずにただぐるぐると。
(あいつだよ。母さんが近寄っちゃいけないって)
物心ついた頃から、村の中を歩いていると決まってそう誰かから指をさされた。
同じ年頃の子供たちが楽しそうに遊んでいるのを、いつも遠くから見るしか出来なかった。
仲間に入ることは許されていなかった。大人からも、子供からも。
確かその日は嵐の夜だったと聞いた。
恐ろしいまでの稲妻と、雨と、風と。
そして私は産まれた。
出産後間もなく、私は両親の手に余る子供になっていたという。
コントロールのきかない、魔力という名の嵐。
感情の高ぶりにあわせて周りのものを空高く吹き上げ、またいずこかへ飛ばし、破壊する。
村には魔法使いはおろか、剣士や学者もいなかったから、誰もそれに対処できなかった。
気がついた時には、「忌み子」の名で呼ばれるようになっていた。
みんなが私を避けるようになっていた。
それも仕方ないと思っていた。愛されなくても仕方のないことなのだと。
恐れられて、気味悪がられても。
そういう風に生まれてしまったからなのだと。
一人で本を読むことが多くて、同じ年頃の子供と話したくとも目を合わさずに。
いつも考え深げに下ばかりを向いていた。
それが更に拍車をかけたのかもしれない。
(お前はいらない子なんだよ)
生まれてこなければ良かったと、皆が口をそろえて言う。
(お前のせいでうちの子は死ぬところだったんだ!)
そんなこと、知らない。
傷つけるつもりはなかったのに。
そうしなきゃ私が死ぬところだったのに、それでも悪いのは私なのか。
「忌み子」だから? 「呪われた子」だから?
(出て行け!)
(死んじゃえ! 人殺し!!)
飛んで来た石は、体のあちこちに傷を作った。
ひと思いに殺されるより、よほど辛かった。
(本当に、産むんじゃなかったわよ。あんな子……)
そんな母親の一言を聞いてしまったら、もうここにはいられない。
たまの気まぐれに見せた、偽りの優しさを信じていた。心のどこかで本当は愛してくれているのじゃないかと、そう思っていた。
馬鹿だった。涙が止まらなかった。
ここを出よう。私の全てを否定する、この村を。
そして探そう、本当に自分が自分として生きていける場所を。
自分を必要としてくれる誰かを。
10歳のある日、私は食料ひとつ持つこともなく、一人ひっそりと村を出たのだった。
魔法も魔術も当たり前の世界ですが、扱える人間は圧倒的少数。
貴重な人材も、辺境の村へ行けばただの変人で厄介者です。