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没落の王女  作者: 津南 優希
第二章 没落王女と家出少女
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悪夢

 雪が降り続く真夜中のことだった。

 近くに聞こえる、何かが動く気配で美威は目を覚ました。


(……何?)


 暗闇の中、そっと体を起こしてその音に耳を澄ませる。

 意外にも、それは自分のすぐ隣から聞こえてきているものだった。


「ひなちゃ……」


 驚いて美威は飛那姫の肩に手をかけた。

 飛那姫が苦しげな表情に汗を浮かべて、何事か呟いているのだ。言葉の内容は聞き取れないが、この様子は尋常ではない。

 傷の具合が良くないのかもしれない。

 そう思って琴を起こそうと振り向いたら、琴は既にそこに起き上がっていた。


「おばさん、ひなちゃんが……」


 美威があわてて言うと、琴はうなされて歪んだ飛那姫の額に、そっと手のひらをおいた。


「大丈夫よ、この子……こうやってたまに、うなされるの」

「え……?」

「悪い夢を見てるんだろうけど、その理由も話してくれなくてねえ……」


 さみしげに呟いて、琴は飛那姫の髪を撫でた。


(おばさん……)


 子供のいない琴達にとって、飛那姫の存在はどれほどの慰めになっているのだろう。

 救いたくて手を伸ばしているのに、その手を取ってもらえないさみしさは、子供の美威にも分かる気がした。


「この子を始めて見つけたとき、ぼろぼろの体でなんて言ったと思う?」

「……」

「放っておいてくれ、って言ったのよ。それを、私達が勝手に連れ帰って手当てしたの」


 美威は、背中を寒いものが走ったような気がした。


(じゃあ……)


 じゃあひなちゃんは、そのまま死ぬつもりだったんだろうか。

 そんな風に助けを払いのけなければいけないほど、何に追い詰められていたのだろう?

 美威は、胸の奥が苦しくなるような気がした。


「きっと何か、辛いことがあったのよね。美威もそうなんでしょ?」


 全部分かってるのよ、と言いたげに笑って、琴はそっと飛那姫から手を離した。

 いつの間にか、飛那姫は静かに眠っていた。


「すぐに収まったり、ずっと続いたりするのよ……もう平気だから、美威も寝なさい」

「……はい」


 眠っている飛那姫の顔を見ながらもそもそと寝床に潜ると、上から琴が布団を掛けてくれた。


「おやすみなさい……」

「おやすみ」


 そう言ったものの、美威はそれからしばらくの間、眠ることが出来なかった。

 そしてやっと眠りについた時、自らも夢にうなされることになった。


もう終わったと言いながらも、悪夢はどこまでも追いかけてきます。

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