表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落の王女  作者: 津南 優希
第二章 没落王女と家出少女
55/251

夜明け前

 氷雨は夜更け過ぎに雪に変わり、大地を白く染めていった。


(寒い……)


 今年は冬の明けるのが酷く遅い。

 旅立ちに今この時は向かなかっただろうかと、今更ながらに少し後悔する。


(……でも、もうあそこにはいられない)


 美威(みい)は感覚のなくなった手のひらに息を吹きかけた。

 この峠を越えれば隣村のはずだ。なるべく早く、なるべく遠いところまで行かなければならない。

 お父さんもお母さんも、隣りのおばさんも、神社の神主さんも、村長さんも、いじめっ子達も、誰も、誰にも気付かれないところまで。


 吹きすさぶ雪の中、10歳の子供の足でもうどれくらいの距離を歩いてきたのだろう。

 震える足を気力だけで進めていると、登り坂が途切れた頃から村らしき灯りがちらほらと見えはじめてきた。

 その小さな灯りに、心にも少しばかりの希望が灯る。


(あぁ……あと、もう少し)


 もう少しで、灯りのある場所にたどり着ける。後はどこか(うまや)でもいいから、一晩泊めてくれる家さえあれば……

 そう思って安堵するのと同時に、不安が押し寄せてきた。 

 

 果たして、あの灯りのもとで暮らす人達は自分を受け入れてくれるだろうか。

 ここでもまた、同じように自分は忌み嫌われるのだろうか。


(ばれなければいい……)


 この呪われた、忌まわしい力のことを、知られなければいいのだ。


(普通にしていれば、いい……)


 自身に言い聞かせて、冷たい夜の空気を肺の奥に吸い込んだ。

 (かげ)りを帯びた灰色の感情を押し出すかのように、そのまま天に向けて白い息を吐き出す。

 透き通った冷たい空気は隅々にまでしみて、小さい体を中からも凍てつかせた。


 頭上の木々の合間からは、低く重たい雲ばかりが見てとれた。

 雲の切れ間からわずかに覗く金色の月を、素直に綺麗と思うことは出来なかった。


 その原因は心の中にあるということも、分かってはいた。

 全てを呪いたくなるような、自分の弱い心の中に。


「これからは、もっと……」


 自分が、自分であることを認められるところで、生きるのだ。

 もう誰にも、存在を否定されない場所へ……


 小さく呟くと、美威は町へと続く山道を、既に感覚の無くなった足でまた歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ