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没落の王女  作者: 津南 優希
第一章 滅びの王国備忘録
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哀悼の日/子供傭兵

 葬式の日は、みぞれ交じりの雨が降っていた。

 東岩の町から少し離れたところに、教会の墓地がある。

 風漸は、そこに埋葬されることになった。


 俺が余命宣告をしてから2年弱。

 よくも人の予想を裏切って、ここまでしぶとく生きたものだと感心する。

 最初の頃は、生きることに対してなんの気概もない、ただのフラフラした男だと思っていたが。

 そんな男に、生きる意味を与えた傍らの少女を、俺は静かに見下ろした。


 飛那姫は泣いていなかった。

 棺が閉じられる時も。

 墓穴に花が投げられ、土がかけられていく今も。

 ただ黙って、表に出すことを許さない激情をかみ殺しているように見えた。


「飛那姫」


 俺は傘を差しているのと反対の手を、飛那姫の小さな肩にそっと置いた。


「こんな時は、泣いてもいいんだ」


 俺の言葉に、瞳が揺れたように見えた。

 だが、やはり泣かなかった。


「師匠が、最後に……泣くな、笑えと言った。だから、泣かない」

「……そうか」


 俺は反対側に立つ杏里を見た。

 泣きはらした目が痛々しかった。


 血にまみれた服で帰ってきた飛那姫が、風漸の最期の言葉を伝えたときから、杏里はずっと泣いていた。

 いつか、近い未来に来るだろうその死を予想していたとは言え、覚悟などいくらしても足りなかったということなのだろう。


 冷たい雨が、身重の身体を冷やしそうで、気に掛かった。

 愛する男の死が、精神に相当な負担を与えそうで、それも心配に思えた。


(馬鹿な男だったが……)


「杏里、風漸はとうとう病に勝ったな」


 杏里は、言葉の意味が分からないと言うように、横から俺の顔を見上げた。

 

「あいつは、病には殺されなかった。病に立ち向かう意志を与えて、戦うように奮い立たせたのは、お前と、飛那姫だろう」

「……飛那姫と、あたしが?」

「風漸は、剣士として自分の護りたいものを護って死んだ。それがあいつの選んだ最期だったことを、誇らしく思っていいんだ」

「……っ」


 杏里はまた、うつむいて泣き始めた。

 飛那姫は、目を瞑って、唇を噛んでいた。


 墓穴は、すっかり埋まってしまった。

 綺麗に土がならされて、その上に墓標が立てられた。


 風漸、これで満足だったか?

 お前の残された時間は、存分に、残される者の幸せの為に使えたか?


 その答えは、傷のひどさからは考えられないほど穏やかだった、あいつの死に顔が語っている気がした。




-*-*-*-*-*-*-



「仕事が欲しい」


 そう言ってオレの前に立ったのは、一人の少女だった。

 やけに整った顔立ちの、触れたら切れてしまいそうな鋭さを持った子供だった。


 つい先日、一番頼りになる風漸という傭兵が亡くなっちまって、難しい仕事を頼める傭兵がほとんどいなくなっているのは事実だった。

 人手不足の今は、流れ者の傭兵でも歓迎だったが。


「お嬢ちゃんにあげられるような仕事は、ちょっと……」


 ギルドの情報屋として、何も分からない子供に仕事を渡すようなことは出来なかった。

 オレの返事を聞いて、子供は舌打ちすると、手を伸ばしてオレの胸ぐらを掴んできた。


「仕事の仕方は知っている。今一番、報酬のいい仕事をよこせ」


 子供とは思えない力だった。

 オレはこくこくと頷くと、強めの異形が出没している案件を引き出して見せた。


 子供は書類に目を通すと、サインをして、請負手付金を置いて去って行った。

 本当に、傭兵の仕事の仕方を知っているようで、オレは驚いた。

 もっと驚いたのは、その日の夕方に、もう仕事を終えて戻ってきたことだ。


 報酬を受け取ると、また新しい仕事を受け取って、子供は出て行った。

 3~4週間くらい、そんなことが続いた。

 すっかりお得意さんになってきたと思った頃、子供はギルドに姿を現さなくなった。


 今日もオレは情報屋の窓口に座っている。

 また強い傭兵が現れることを期待しながら。


 季節は、3月を超えて、4月になろうとしているところだった。


お話の中では3月が終わろうとしている頃。

飛那姫はバリバリ働いてます。

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