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没落の王女  作者: 津南 優希
第一章 滅びの王国備忘録
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さわやかな一日の始まり

 窓の外で小鳥が鳴く声と、カーテンの隙間から差し込む日差しに私は目を覚ました。

 一瞬、見慣れない部屋でちゃんとした布団に寝ていることにびっくりする。

 そうだ、東岩に着いて、杏里さんところに泊めてもらったんだっけ。


 昨日の夜、杏里さんが作ってくれたオムレツは、師匠の目玉焼きと同じ卵料理だとは思えないほどおいしかった。

 お腹いっぱい夕飯を食べて、お風呂にも入って、布団で寝たからか、今日の寝起きは最高だ。


 んー、とのびをして私は窓を開けた。

 しん、とした外の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 気持ちのいい朝だなあ。


「ん?」


 視線の下、魔道具屋の玄関を一人の男が出て行くのが見えた。

 短い赤茶の髪に白い肌。切れ長の目にはっきりした鼻立ちの顔がちらりと見えた。

 剣士には見えなかったが、なんとも言えない鋭さを感じる人だ。


(こんな朝早くに、誰だろう?)


 不思議に思って目で追ったけれど、男は大きめの黒いカバンを下げたまま、足早に通りの向こうへ消えていった。

 まだお客さんが来るには早すぎる時間だと思う。

 私は一人で首をかしげた。


 布団を整えて、部屋を出る。

 とん、とん、と階段を下りていくと、1階のキッチンから水の音が聞こえた。

 ガラリと引き戸を開けると、杏里さんが朝食の用意をしているところだった。


「杏里さん、おはよう」

「ああ飛那姫、おはよう。早いね」


 振り返った杏里さんの顔は、なんだか疲れているように見えた。

 私も朝食の用意を手伝ったほうがいいだろうな、と思って水場の隣に並ぶ。


「杏里さん、よく寝れなかった?」


 見上げて尋ねると、杏里はああ、と私の顔を見た。


「あんたは人の顔色がよく分かるんだね……昨日は風漸と飲んでたから、ちょっと寝不足なだけだよ」

「師匠はまだ寝てるの?」

「ああ、風漸も遅くに寝てるから、まだ寝かしておいてやってね」

「うん、分かった」


 朝稽古は自分ですればいいいだろう。

 師匠が朝起きてこない時は、たまにある。そんな時は自分だけで稽古をしている。


 私は杏里さんと並んで、コロイモの皮をむいた。

 この1年で、料理は大分上手になったと思う。もうまな板を割ったりしないし、目玉焼きだって焼けるようになった。

 杏里さんは私がむいたコロイモを小さく短冊状に切って炒めたあと、塩とチーズと青のりをかけてかまどの下に入れた。


 あ、これいい匂い……

 絶対おいしい。

 そう思ったらお腹が空いてきた。


 5月に入って採れるようになってきたサラダ系野菜をよく洗ったら、一口大にちぎってボウルに盛り付ける。

 そこに酸味と甘みがさわやかな赤いレッドシスコを彩りよく飾る。

 油であげたガーリッシュを散らして、サラダのできあがり。

 野菜のドレッシングも手作りだ。

 ああ、杏里さんと一緒にいたら色々おいしいものが食べられそう……


 いつもの朝食はフウセンキツツキの目玉焼きと果物が定番なんだよね。

 こんな見た目にも豪華な食事は久しぶりじゃないかな。

 私は食卓に並んでいく料理にうれしくなる。


「杏里さん、お腹空いた!」

「じゃあ風漸はおいといて、一緒に食べようか」


 師匠には悪いけれど、起きてこないのがいけないと思う。

 私はパンと、杏里さんと一緒に作った料理をお腹いっぱい食べた。


 朝食の後、しばらくしても師匠は起きてこなかった。

 久しぶりのまともな布団だし、火の番もしなくていいし、師匠もゆっくり寝るといい。

 私は一人、家の裏で剣の稽古をしていた。

 神楽を出すと色々目立つから、今日は木刀だ。


 2時間ほどそうして一人で基本的な型を復習していたけど、そろそろあきてきた。

 師匠、もう起きたかな。

 手合わせしてほしいんだけどな。


 思いついて窓に走って行くと、師匠が寝てるだろう部屋のカーテンは開いていた。

 あ、起きたんだ。

 そう思って隙間から覗いたら、師匠はまだベッドの上にいた。

 体は起こしてるけど、なんかしゃべってる。

 あれ? この人朝見た人だな。また来たんだ。


 切れ長の目の男が、師匠の前の椅子に座って何か話をしていた。

 何話してるんだろう?

 内容がちょっと気になったけど、ここからは聞こえない。


 お客さんが来てるならしょうがないか……

 私は仕方なく、また木刀を抱えて一人稽古に戻っていった。


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