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没落の王女  作者: 津南 優希
第一章 滅びの王国備忘録
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「かやく」は危険?

 東の大国、紗里真(しゃりま)

 それが父様の統治するこの国の名前だ。

 世界の東に細く伸びた真国(まこく)と呼ばれる島、そのちょうど中心に紗里真はある。


 この世界には、東・西・南・北に大きな国が一つずつあるんだけど。

 紗里真はその中でも二番目に、住んでいる人も騎士も多いんだって。


 そう。自慢じゃないけど、この国の騎士団はかなり大きい。

 騎士の階級は3つに分けられていて、一番上のクラスである「精鋭隊」はエリート部隊だ。

 その殆どが城に常駐している。多分、200人くらいいるのかな。

 他の騎士隊、騎兵隊は城下町や近隣小国に散らばっているから、全部合わせると6,000人位になるって、執事長の久米(くめ)が言ってた。



 そんな精鋭隊の騎士達は、今日も城の演習場で訓練にはげんでいるらしい。

 私は植木の陰から、こそっと訓練中の騎士達をのぞいてみた。

 集まってるのはごく一部の部隊みたいだった。令蘭が言っていた通り、いつもみたいに剣の型練習とか、手合わせとかしているわけじゃないみたいだ。

 それにやけに準備されてる荷物が多い。あれは樽? こっちは黒い筒みたいな……一体何に使うんだろう?


(そういえば……そもそも、かやくって何なのかしら?)


 武器? それともなんかの道具?

 どんなものなのか、想像がつかない。


 令蘭が言っていた「かやく」が見たくて、私はしばらく物陰から様子を覗っていた。

 前の方にいるのは、騎士団長の理堅(りけん)だ。もう結構おじいちゃんに近い歳で、最近は頭の白髪を気にしているのを知っている。

 理堅の隣には見慣れない服装の男が二人。


「昨日来たっていう、西の国のなんとかっていう技師かしら……」


 あの二人が「かやく」を持ってきたのだろうか。

 私は耳に魔力を集中して、聴力をあげた。少し離れた場所にいる騎士団長と男達の会話が聞こえてくる。


「なるほど、では取り扱いには細心の注意が必要ということですか」

「ええ、理堅殿。安全に製造し、保安・管理するためには正しい知識や技能が必須でして、我が国においては火薬類の責任者を定めて国家資格を与えております。使用する現場には必ずこの責任者を配置して、使う種類に合わせて管理・監督を行い、消費量のチェックを……」


 うわ、なんかむずかしい話してる。

 理堅は真剣な顔で聞いてるけど、本当に分かってるのかしら。


 話の中身にまるで興味が持てなかったので、私はとりあえずその「かやく」とやらを探してみようと考えた。

 ここまで来て、見ずに戻るという選択肢はないからね。


(あそこに置いてある黒い筒がそうなのかなぁ……? 武器っぽいと言えば武器っぽいし)


 私の身長くらいありそうな黒い鉄製の筒が、広場の隅に並べられている。一つ一つから、ひものようなものが出ていた。その向こうには、大きめな樽が5つほど。


(布袋もあるなぁ、あの袋の中身が怪しいんじゃないかな?)


 みんなは団長たちの方を向いていて話に集中しているし、後ろから近づいていけば気付かれないで中身が見れそう。

 でもこんな格好でコソコソしてる姿を令蘭が見たら、なんて言うだろう。

 また王女らしくないだの、嘆かわしいだの、この世の終わりみたいな顔して、小言並べるんだろうなぁ。


 げんなりとそんなことを思いながら、私はこっそり布袋に近づいた。

 開いている口を見つけてのぞき込むと、中には小さい紙筒のようなものがいくつも入っていた。

 でも、袋に入ったままだとよく見えない。


 私は袋の口から手を突っ込んで、それをひとつ取り出してみた。

 トイレットペーパーの芯を一回り細くしたくらい? 意外と軽かった。筒からは、たらりと長いひもが垂れてる。

 これが「かやく」かな? なんかの役に立つんだろうか、これ。


 頭をひねっていたら、ふいに広場の中央あたりがざわざわし始めた。

 見つかるとまずいので、みんなが振り向く前に私はさっさと植木の茂みに戻った。


(あ、しまった。持ってきちゃった)


 手に持ったままの紙筒に慌てたけれど、後の祭りだ。

 騎士が何人も布袋の前に走ってきて、道具を片付け始めたので出て行くに行けなくなってしまった。

 みんな急いで荷物を片付けようとしている。なんかあったのかな?

 布袋は手早く全て持って行かれてしまった。


 手の中の「かやく」らしきものが欲しかったわけじゃない。これをどうやって返したらいいか、悩むところだ。

 ちょっと見たかっただけ、とか正直に言っても絶対怒られるだろうし。


(そうだ!)


 袋から転がり出たことにすればいい。

 我ながら名案だ。

 私はすっかりきれいに片付けられた広場の、ほんの隅っこの方に紙筒を転がした。

 これでよし。


 さて、特に面白いこともないし、そろそろこの場を離れようかな……そう思った時。

 令蘭の声が聞こえてきた。


「理堅殿、こちらに飛那姫様は……」

「もちろんいらしておりませんよ。今日はそのようにお伝えしてあったかと」


 おろおろ私を探している令蘭の姿を見たら、ちょっぴり罪悪感が沸いてきた。

 具合悪いって言っちゃったし、もしかして心配かけちゃってる?

 このまま逃げようかどうしようか迷っている間に、別の方向から涼しげな声が聞こえてきた。


「姫様がいらっしゃらないのですか?」


 私は思わず息を止めて、茂みにうずくまった。

 まずい人が来た……

 庭園の小径の向こうから、すらりとした長身の男性が歩いてくる。


 肩下まで伸ばした艶のある黒髪を飾り紐でまとめたその見た目は、はっきり言って優男。

 筋肉マッチョの騎士達と違って、ぱっと見は全然剣士に見えない。

 白い肌に端整な顔立ちは、男の人なのに綺麗だと思う。

 私が物心ついた頃からあんな感じだから、若いのかおじさんなのかも分からないけれど。

 剣術の腕だけは超一流で、騎士団最強と謳われている人。


 私の、剣術の先生だ。


(うわぁ……まずい)


 いつもなんでもお見通しとばかりに、あの切れ長の黒い瞳で見られると、なんとなく嘘がつけず、姿勢が正されてしまう。

 強くて尊敬してるし大好きな先生だけど、叱られるのは一番苦手なのだ……


高絽(こうろ)先生! よいところにいらっしゃいました。飛那姫様がお部屋から抜け出されてしまって……」

「また逃げられましたか?」

「はい、少し目を離した隙に……一緒に探していただけませんか?」


 懇願するような令蘭に、先生は「もちろんですとも」と細い目をさらに細くして微笑むと、こちらを振り返った。


 バレてる。絶対、バレてる。

 先生は剣術の達人で、人の気配を読むことだって団長より長けている人だ。

 私がここに隠れてることくらい、最初から分かってるに決まってる。


「姫様の居場所でしたら、おおよそ検討がつきますから心配には及びませんよ……ところで、今日の騎士団は火薬の取り扱いの訓練と聞いておりましたが、予定が変わりましたか?」


 意味ありげにこちらを見ながら、先生が団長に尋ねる。


「うむ、その予定で進めておったのですが、火虫(ひむし)が出ましてな」

「火虫?」

「昼間でよく見えませんで、先ほどまで気づきませんでしたが」

「……なるほど。例年より早いですね……」


 みんなが宙を仰いでいるので、私も顔をあげて周囲を見渡してみた。

 本当だ。

 春の風物詩、火虫がちらほらふわりと、宙を舞っている。

 火虫というのは、蚊に似た小さい羽毛昆虫で、春が本格的になる前に短期間だけ集団で現れる、ちょっと迷惑な虫のことだ。


 お尻に火種を持っていて、興奮するとこれがよく燃える。

 この時期に火事が多くなったり、外で遊んでいる子供が火虫を刺激して、やけどしたりすることは知っている。

 でも私自身、こんなに間近で火虫を見たのは初めてかもしれない。

 目の前まで飛んできたこのフワフワしたちっぽけな虫が、そんなに怖い虫だとは思えないけれど。


 なんとなく眺めていたら、数匹がまとまって、私の近くを飛び始めた。

 むむ。ちょっとうっとうしい。

 あんまり鼻先をフワフワするもんだから、フッと息を吹きかけて吹き飛ばしてやった。


 途端、ポン! と音がして、火虫が膨らんだ。

 いや、膨らんだというより、燃え上がった。

 親指の先くらいの小さい火の塊だったけれど、確かに燃えている。

 それが目の前でゆらゆらされたら、大人だってちょっとひるむに違いない。


「やっ! あっち行って!」


 ばばっと手で振り払うと、私の周囲でポンポンポン! と小さな爆発音が続いた。

 ゆらゆらと揺れながら、怒ったような炎の塊がいくつも私の周りを飛び始める。

 ひとつひとつが、私の握りこぶしくらいの大きさにまで膨らんでいた。


(ちょ、ちょっと……何これ……)


 怖い。

 明らかに敵意を持った赤い火の球に囲まれて、恐怖が背中を走った。

 それはきっと本能的なものだ。


 逃げなくちゃ……!


 もう、怒られるとか言ってる場合ではない。

 私は慌てて茂みから飛び出すと、先生達の方に向かって走り出した。


「っ先生! 助けて!」


 自分でも冷静でなかったと思う。

 だって、ゆらゆら向かってくる火虫達は本当に怖かった。

 だから飛び出した瞬間に、石畳の隙間に足を取られて転んだのだって、仕方ない。


「いたっ!」


 前のめりになって派手に転んだ私を、団長や令蘭、技師のおじさん達、騎士団のみんなが振り返った。

 先生だけが、茂みを飛び出る瞬間から私を見ていた。


 火虫達が追ってくる。

 さっきより炎は大きくなっていて、こぶし大どころか頭大くらいの炎の球になっていた。


「きゃーっ!!」


 火虫を払おうと手を振り回した瞬間、さらに大きくなった塊のそばで、何かがチリッと燃えるのが、目に入った。


 それからは、よく覚えていない。

 すごい音がして、みんなや令蘭の叫び声が聞こえて、それから……


「おいたが過ぎますよ、姫様」


 薄れていく意識の中で、先生のそんな声を聞いた気がした。

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