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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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突然の訪問

 今日は寝過ごした。

 起きたらもう日はかなり昇っていて、時計は10時を回っていたという、見事な寝過ごしっぷり。


「……昨日はなかなか眠れなかったからなぁ」


 私は独りごちて、ぼんやりとした頭を起こした。

 昨晩はベッドに入ってからも、次から次へと嫌なことばかりが浮かんできて、なかなか寝付けなかった。


 紗里真城の近くにアパートを借りて一人暮らしするようになって、早数ヶ月。

 大分この暮らしにも慣れてきた。最初は寂しくて心細くなるんじゃないかと思っていたけれど、ほとんど毎日のように飛那ちゃんに襲撃を受けていたから、あまり一人でいる気分にはならなかった。

 でもそれも、1ヶ月くらい前までの話。


 今はそんな風に訪ねてくる人もいない。完全に一人だ。

 一人で起きて、一人で寝る。ここにいる限り一人でご飯を食べて、話す人もいない。

 そろそろ貯金も底を尽きそうだし、働かなくてはいけないけれど、なんだか何にもする気が起きなかった。

 とはいえ、このままでは生活に困る。今日こそは仕事を探しに行かなくては。

 寝ている間にかいた汗をシャワーで流して、さっぱりしたところでギルドに行ってみるかという気になった。


(お城に行く前に、何か一つでも仕事見つけて、それから……)


 すっきりしない頭で、今日のスケジュールを考えた。

 午前中に紗里真城へ行くと自動的にお昼ご飯が出されるようになってしまったので、この1週間くらいは遠慮して午後から訪問するようにしている。

 とりあえずの予定を立てて出かける支度をしていると、ふいに玄関がノックされた。

 一瞬空耳かと思ったけれど、少し経ったらまたコンコン、と確かに聞こえる。

 誰か来たみたいだ……珍しい。


「は~い、今出ます……」


 心当たりがないままドアを開けた。


「えっ……?」


 ここにいるはずもない人物が、何故か目の前に立っていた。


「……久しぶりだな」


 低くて無愛想な声。

 長い紺色の髪に、グレーの瞳。

 ずっと会いたいと思っていたから、夢でも見ているんだろうか。

 一瞬、そんな考えが頭をよぎったけれど、すぐに現実のことだと気付く。


「え?! レブラス?! どうしてここに?!」

「住所を教えてもらったからだろう?」


 西の大国の大店店主。魔道具士で薬師の変わり者。

 ぽかーんとしていると、薄グレーの学士風マントを掴んで、横から亜麻色の髪の毛がぴょこんと顔を出した。


「美威さん、お久しぶりです! 突然訪ねて来てしまってすみません。レブラス様がどうしてもご自分で行くと聞いて下さらなくて……」

「ルーベル!」

「ルーベル、余計なことは言わなくていい」


 そこにいるのは間違いなく、西の大国にいるはずのレブラスとルーベルの二人だった。


「びっくりした……でも来てくれてうれしい。何にもないけど入って!」


 私はここ最近で一番の笑顔を浮かべると、二人を招き入れた。

 狭い一人暮らしだから、何にももてなせるようなものは無いんだけれど。

 とりあえず先日、お城からもらったお茶の缶を開けて、煎れてみる。


「いつ来たのよ? 来るなら来るで前もって言ってくれればいいのに」

「急ぎ出て来たからな。それに、今度はこちらが突然の訪問で驚かせてやるかと思っていた」

「はあ、迷惑な人ね」

「お前がそれを言うのか……?」


 呆れた口調でそう言ったレブラスは、私の顔をじっと見てから面白くなさそうに眉をよせた。


「……痩せたな」

「えっ、本当? ありがとう」

「馬鹿か、褒めていない」


 涼しげな造りの顔立ちに、相変わらずの無愛想な表情を乗せてレブラスが言う。


「今回来たのは、飛那姫の件だ。少し心当たりがあったからな……役に立てるかもしれないと持ってきたものがある」

「飛那ちゃんの、役に……?」


 レブラスがそう言うと、隣に座っていたルーベルが携帯していたカバンを開けた。

 そこからガラス細工の小瓶をひとつ取り出す。

 小瓶を手渡されたレブラスは、それを丸テーブルの上に、コトリ、と静かに置いた。


「……何これ?」

「俺の知る限り、パナーシアでしか製造していない魔法薬だ。面影草の根を主成分に、西の薬草をいくつか配合して作ってある」

「魔法薬……これが、飛那ちゃんに効くの?」


 身を乗り出す勢いで、小瓶を手にする。

 ひんやりと冷たい感触の中に、ピンク色の液体が揺れた。


「効く、というのが正しい言い方かどうか分からん。直接的な回復作用などはないものだ。だが、今回の症状にはこれが有効かもしれないと思ってな」

「どういうこと?」

「肉体にも魔力にも問題がないのに、目覚めないのだろう? 著しく魔力が低下して死にかけると、体が回復しているのにも関わらず起きてこない、そういう症例は稀だが、聞いたことがある」

「……本当?! レブラス、どうしたらいいか分かるの?!」

「期待しすぎるなよ。何も出来ないでいるよりは、思い当たったことを試してみる方がいいだろうと思って来たんだ」


 そう言って、レブラスは私の手の中の小瓶を指さした。


「それは、潜在的に眠っている記憶を引き出させる魔法薬だ。一度死にかけて、この世との縁が薄くなってしまった人間は、精神が肉体から離れてしまっていることがある。そういう場合に、忘れてしまった大切な記憶、約束、そういったものを強制的に思い出させて、この世との結びつきを取り戻すんだ」

「この世との結びつき……」

「要するに、どこかを彷徨っている意識に、重要な記憶を呼び起こさせるショック療法、とでも言っておくか」

「……へえ」


 なんだか分かったような、分からないような。

 でもそれなら、今日はちょうどタイミングがいいかもしれない。


 昨日、帰り際に蒼嵐さんと話をしたのだ。今日、飛那ちゃんの周りに設置してある魔道具を外してみようかと思う、ということを。

 覚醒の兆しがあればいつでも外せるようにしてあると言っていた、医療用の魔道具。

 もしかしたらそれが肉体の時間を遅くしているために目覚めないのかもしれないと、蒼嵐さんは考えているみたいだった。


「可能性は低いかもしれないけれど、このまま待っていてもいずれ肉体の方も衰弱してしまうから……魔力も体力もある今のうちに、外から呼びかけて起こしてみたいんだ」


 少し緊張した面持ちで、蒼嵐さんはそう言った。

 怖いのだろうと思った。それでもし、何か良くない変化があったらと思うと、私も怖かった。

 でも、何日も考えて決めたようだったから、私も頷くしかなかった。


「……レブラス、これから私と一緒にお城に行ってくれない? 飛那ちゃんのお兄さんに、今の話を説明して欲しいの」

「……紗里真の国王か」


 ややひるんだ様子で、レブラスが答えた。

 大国の王に謁見する機会なんて普通はないから、無理もないと思うけど。


「飛那姫の兄だろう? 下手な言動をしたら斬られそうだな」

「大丈夫よ、剣士じゃないし。全然国王に見えない怖くない人よ。飛那ちゃんとは似ても似つかない、穏やかな人だから」

「……分かった、元々助けになるつもりで来たのだから、付き合おう」

「ありがとう!」


 ずっと暗いトンネルの中を歩いていたような私にとって、手の中の小瓶は一筋の光に思えた。


(飛那ちゃん、待ってて……)


 祈るような気持ちで、私はそれを握りしめた。

そういえば、Raiotの方の人物紹介にレブラスが入っていなかった。と気付きました。

……今更?


残りの話を全部切って投げ込んでみたところ、残り4話+オマケ2話になることが判明。

でもどう構成するか最終的に判断出来ていないので、多少前後するかもしれません。


次回、レブラスと蒼嵐のリレー語りで。ちょっと長くなるかな?

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