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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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会えない

 驚いた。

 普通に考えて、たかが出迎えに王族自らがこんな外にまで出てくるとは思わなかった。

 せいぜい玄関ホール辺りで一言二言挨拶があるくらいだろうと思い、それでも気が引けていたと言うのに……


 よくよく考えれば、常識では量れない彼女のことだ。どんな行動に出ても不思議ではない。

 隠れるつもりもなかったのだが、出るタイミングを逃したというか……顔を合わせてあの表情が曇ってしまったらと思うと……

 インターセプターが走り出て行った後は、更に出づらくなってしまった。

 結局、彼女が去ってしまうまで馬車を降りられなかった私を、イーラスは前の座席から気の毒そうな顔で眺めていた。


 やっと重い腰をあげて馬車から降りてみれば、まだそこにいたイゴール殿に怪訝な顔をされるし。

「馬車に酔ったみたいだ」と言い訳した私を、さも愉快そうに見ているし。

 まだはっきりと縁談を断り切れていないイザベラ姫は、私を見つけてあれこれ聞いてくるし……到着早々、気が重い。


 この後に、どう飛那姫と顔を合わせて、自然に挨拶などすればいいというのだろうか。


 部屋に案内されたところで、ずっと何か言いたそうだったエトックが口を開いた。


「兄上、インターセプターは行かせてしまって良かったのですか?」


 まだ成人前の弟は、年が離れてはいるものの、私をよく慕ってくれている。

 今回もついていきたいというので連れてきたのだが、まだ世間知らずなところがあるので、言動には注意が必要だ。

 周囲に人がいなくなるまで、あれこれ言わないでおけたのは、まあ褒めてもいいところだろう。


「大丈夫だ」

「私も思わずかまわないと言ってしまいましたが、イゴールのやつ、インターセプターを斬ろうとしたんですよ? またあんなことがあったら……」

「飛那姫が、なんとかするだろう」

「兄上はあの王女を知ってるんですね? インターセプターがやたらに懐いているからおかしいと思ったんです。私に先に行けと言って、馬車からなかなか降りてこなかったのも、彼女に関係があるんですか?」


 不可解そうに、エトックが言う。


「一目見て、すごく綺麗な方だと思いましたよ……でも、あの剣にはもっとびっくりしました。女性の細腕であんなに簡単に男の剣を止められるなんて、どうなってるんでしょうね?」

「……そうだな」


 あまり説明する気がないのが伝わったのか、ソファーに沈み込んだ私を見て、弟は不満そうに眉を寄せた。


「兄上、説明が足りないです。私にもちゃんと教えてください。兄上はこの復国祭に来るか来ないかでも散々迷ってたみたいじゃないですか。何なのですか? この国に何かあるんですか?」

「……何もないと言えば、ない方がいいかな」

「子供のなぞなぞやってるんじゃないですよ! ぼくだけ知らないみたいで嫌です!」

「ぼく、に戻ってるぞ。エトック」

「兄上相手ならもうどっちでもいいですよっ」


 精一杯大人の仲間入りをしようとしている弟が、一人称を改めようと頑張っているのを見ると、少しだけ和む。

 私に愛称で呼ばれるのは未だに嫌ではないようだが。


「お話中失礼いたします。エトックワール様、先ほど案内係に『城内のどこでも、ご覧になりたいところをご案内します』と言われたのですが……如何いたしましょうか。紗里真にも全天候型の鍛錬場があるようですので、今ならまだ見学に行けるかもしれませんが、お断りしておきましょうか」


 私の専属侍従であるイーラスが、そう進言したことでエトックはくるりと向きを変えた。

 この弟も、私に負けず劣らず、剣が好きなのだ。


「行きます! 待って、すぐ出ます!」


 パタパタと出て行ってしまった弟と、侍従達の背中を見送って、私はひとつ息をついた。


「助かったイーラス」

「いえ、私自身あれこれお聞きしたいこともありますが」

「……ああ、後で話すよ」

「出来ましたら、早急にお話していただきたいですね。遅くとも夕食の歓待式までには。そしてエトックワール様よりも先に。私が対応出来ることも出来なくなりますから」

「……分かった。今話す」


 イーラスに、飛那姫と別れた時のことはお茶を濁すようにしか伝えていなかった。今回、馬車の中から彼女を見て、ものも言えないほど驚いていた顔を思い出す。


「助かります。アレクシス様は秘密主義でございますからね」


 ちょっとふくれたようにイーラスが答える。


「……私は臆病なだけだよ。根本的に」

「いいえ、自戒がお好きのようにしか見えません。行き過ぎた我慢は体に毒です」

「それも続けていると、普通のこととして受け入れられるようになるものだよ」

「何故そこで開き直るんですか……」

「開き直るというか、苦し紛れと言った方がいいかもしれないな」


 もうそれ以上息が吐けないのではと思うほど大げさにため息をついて、イーラスは他の侍従達に部屋を出るように言った。

 人払いして、聞きたいことを全部聞き出すつもりなのだろう。


「さあ、お話しください。全て」


 妙に意気込んだ顔で直立の姿勢をとったイーラスに、私は苦笑いで了承した。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


「……っどうしてここにいるの?!」


 アパートの2階の窓を開けた美威が、素っ頓狂な声で叫んだ。

 インターセプターの背に乗せてきてもらった私は、返事もせずに部屋の中に滑り込んだ。

 時計を振り返れば、夕食の時間帯をとうに過ぎた頃だと確認出来る。

 小型犬サイズになったインターセプターの入ってきた窓を、美威がバタン、と閉めた。


「今日はゲストが来て夜も忙しいって……歓待式とやらはもう終わったの?!」

「ボイコット」

「はあ?!」


 夕食時の歓待式は、言ってしまえばただの会食なんだけど。

 当然参加予定だった私は、持病が出たことにして部屋から出ないことにした。

 自室の前では今頃、空っぽの部屋を守るために護衛兵が立って、侍女が控えていることだろう。

 ちょっぴり罪悪感はあるけれど……

 兄様は兄様で「僕がなんとかするから、飛那姫は寝てていいよ」と全て分かったような顔で言ってくれたし。甘えることにしたのだ。


「顔合わせるとか、やっぱり無理なんだよ! あいつだってそう思ってるって!」

「ああ……アレクさん、来たのね。良かったじゃない」


 理解したように、美威がそう言った。


「良くない! あいつ私が迎えに出たのに、馬車から降りても来なかったんだぞ! 絶対もう顔も合わせたくないとか思ってるに違いない!」

「顔も合わせたくないなら、そもそも来ないと思うけどね……」


 美威は呆れた声で言うと、ベッドでゴロゴロバタバタする私のお尻をはたいた。

 ぺちん、という音に恨みがましい目をあげる。


「今すぐ帰んなさい」

「……やだっ」

「くすぐるわよ?」

「……それでもやだっ!」

「もうっ! ちゃんと話してきなさい! 謝りたいなら謝って、それでもダメだったらあきらめればいいじゃない! 何にもしないでここ来てジタバタしててどうなるのよ?!」


 引きはがそうと引っ張る美威に抵抗して、私はベッドにしがみついた。


「無理無理無理! 最初はそうも思ってたけど心が折れたの!!」

「あああ~……」


 眉間にしわを寄せた顔で私を睨むと、美威はバン! ともう一度窓を開け放った。


「インターセプター」


 凄みの効いた声にぴくり、と耳を立てて、インターセプターが窓の外に飛び出していく。


「とにかく、帰りなさい……縛縄(ぐるぐる)

「……え、おい、こら美威。ちょっと待て……」

「マルコにやり方教えてもらったのよね、魔力のロープ。私のオリジナルに変えてみたの。光魔法が使えれば簡単に解呪出来るみたいよ。飛那ちゃんが使えれば、の話だけど」


 ぐるぐると巻き付いてきた光るロープに、私は抗議の声を上げた。


「暴力反対! お前、親友を裏切るのかっ?!」

「あら、裏切るだなんて心外ね。正しい協力の姿勢よ」


 すまき状態でフワフワと窓から出されると、インターセプターの背中にぽすん、と乗っけられた。


「縛っておくけど、落とさないでちゃんと運んでね」

「ワン(この人怖い)」

「美威!」

「じゃあね飛那ちゃん、明日の剣舞楽しみにしてるからね」


 そう言う笑顔が、眼下に遠ざかった。

実力行使なところは飛那姫に学んだ美威。


次回は、歓待式の様子と城の庭園から。

ちょっと文字数の調整に困って……うーん、半分にするか。明日更新出来ます。

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