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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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美威の部屋

「……は?! どういうことだ?!」


 午後9時。城にほど近い城下町の一画に、美威の部屋はあった。

 2階の窓から侵入していた私は、寝そべっていた簡素なベッドからけたたましい声とともに体を起こした。

 シンプルな木造りの3階建てアパートはどの階も静かで、美威が指を立てて「シーッ」と言う。


「兄様が王になるって言ったのは、私が王に向いてないとか、美威と会えなくなったらかわいそうとか、大変だからとか、そういうことを考えてくれたからじゃなかったのか?!」

「え? 飛那ちゃんそんな風に思ってたの?」


 話の発端は、私が「紗里真も無事に復活したし、そろそろレブラスのところに行ってみたらどうだ?」と発言したことに始まる。

 美威はきょとんとした顔で「行く時は飛那ちゃんも一緒に行くでしょ?」と、思わぬセリフを返してきた。


 なんのハナシだ? と反問を繰り返した結果、どうして兄様が「自分が王になる」と言い出したのか、その経緯を説明されて……

 アレクとの一件に尾ヒレがついて、盛大に勘違いされてるってことを今理解したのだ。


「なんかおかしいとは思ってたんだ……兄様、いくら理由を聞いても『いいんだ、ちゃんと分かってるから』としか言わないし」


 確かに、このバングル見て変なことはブツブツ言ってたけど……

 まさか私が、恋人と別れて後悔のあまり泣いているなんて思われているとは。

 早とちりにも程がある。


「だからね、あの蒼嵐さんが交際を認めてくれたんだから、飛那ちゃんもちゃんと自分の気持ちをアレクさんに伝えないとダメじゃない?」

「交さ……はあ?」

「大嫌いって言ったこと、後悔してるんじゃないの?」

「何、バカ言ってんだ……」


 後悔なんてしてない。断じて。

 だって、あの時はそう言うしかなかったんだから。


「あのね、一体全体なんのために蒼嵐さんに王様になってもらったと思ってるの? せっかく釣り合う身分に戻ったんだから、仕切り直せばいいのよ」

「……なんのためにって……お前、もしかして裏で何かしてたか?」

「あら、お礼なんていいのよ」


 笑顔の美威に、私の知らないところで何かが画策されていたことを確信した。

 ここに兄様より恐ろしい策士がいたよ。早とちり、仕組まれた罠だった……

 まあ、兄様が王になったことに間違いはないから、結果それで良いんだけどさ。


「あのな、私は『関わるな』って、捨て台詞残してきたんだぞ? 今更顔なんて合わせられるか。アレクのことは、もういいんだ」

「へえ? じゃあそのバングル、もういらないわよね?」

「……なに?」

「見たところ、細工も凝ってるし、魔道具としての価値も十分ありそうだし、高く売れそうだと思ってたのよ。もういいなら、それ、売ってもいいでしょ?」

「……」

「プリーズ」


 目の前に出された手のひらを眺める。

 くそ、分かってやってやがる。


「……人からもらったものは、粗末にしちゃいけないんだ」

「あら、そう」


 ペちっと叩くと、美威はニヤニヤ笑いながら手を引っ込めた。


「本当に、もういいんだよ……紗里真は復国したけど、まだやることは山ほどあるだろ。これからは兄様を支えて、私に出来ることをここで頑張るんだ」

「じゃあ私も、その頑張る飛那ちゃんを支えていこうかしら」

「だから、私はもう大丈夫だから! お前はとっとと、あのでかい魔道具屋に戻ればいいんだよ!」

「毎日毎日、ここへこうして来ていて、何がどう大丈夫なんだか……」


 うっ、と唸った私を一瞥して、美威はテーブルからとりあげたコーヒーを涼しい顔ですすった。


「統治者が健全な精神でいてこそ、健全な政治があるってものよね。現状2人しかいない王族の1人が、そんなんでどうするのよ。それともまだ、私以外に大事な人はいらないとか言うつもり?」

「んなこと言ったって、理屈じゃないんだから、今更変えろったって急には無理だろ……そんな風にしちまったんだから、私が」

「違うわよ、バカね。そういう飛那ちゃんにしたのよ、私が」


 まるでニワトリが先か、卵が先かみたいな話だな。そんな風に思う。

 美威は、私がちゃんと1人で立てるようになるまで、側にいるつもりなんだろうか。それとも……

 私が他に「特別」を作らなければ、安心して離れられないんだろうか。


「……ごめんな」


 思わず謝ってしまったら、沈黙した。


「あのね、飛那ちゃん。誰に向かって気を遣ってるんだか知らないけど……」

「気を遣ってるわけじゃない。ただの罪悪感だ」

「お互い様よ」

「違うよ。美威は、私がいなくなっても大丈夫だろ」


 言った瞬間、ひやりとした空気が伝わってきた。


「……本気?」


 どうやらまた、怒らせたらしい。


「悪ぃ。違うんだ、今日はそういうことを言いたかったんじゃなくて……その、とにかく近いうちに一度西に行ってこいよ、って言いたかったんだ」

「あー、私脅されてるから、生半可な覚悟じゃ行けそうにないのよね」

「脅されてる? 誰に?」

「レブラスに。次にあそこに行ったら魔道具マスターになるまで返してもらえなさそうなのよ」

「……なんだそれ」

「まあ、だから。今はまだいいわ」


 そうぽつりと言った美威は、視線を上に向けて思案する表情を作った。


「それはそうと……復国祭の準備は順調なの? 5日後でしょ?」

「ああ、みんなよく動いてくれてる。なんとかなってるみたいだ」

「飛那ちゃん自身は?」

「……練習不足、かもな」


 兄様が「飛那姫には、復国祭で剣舞を舞って欲しいんだ」と言ってきたことで、私はメインイベントに駆り出されることが決まっている。

 神楽の剣舞は、紗里真王国の名物とも言える伝統行事で。

 実は責任重大だったりする。


「私も見れるかしら、飛那ちゃんの剣舞」

「見に来なくていい」

「えー……いや、いいわ。蒼嵐さんに許可もらって勝手に見に行くから」


 美威がそう言った時、窓の外にコツンと小さな音が聞こえた。

 腰を上げて窓を開けると、パタパタと鳩よりちょっと大きい紺色の鳥が入ってきた。羽と似た色のキラキラした目がかわいい。

 美威のメンハトだ。


「お前のメンハト、小さくてかわいいよな」

「これでも普通のよりは大きいみたいだけど……飛那ちゃんや蒼嵐さんのハトが大きすぎるのよ」


 鳥は美威の指に留まると、薄青い綺麗な封筒になった。

 裏には最近目にすることが増えてきた、紗里真の国印。

 つまみ上げて開封すると、美威は中からカードを一枚取り出した。


「さすが蒼嵐さん」


 ご機嫌な声でそれを眺める。


「何?」

「復国祭、ご招待状~」

「……ああ……良かったな」


 パタパタと振られたカードに、ため息がもれた。

 こうやって、私の知らないところでやり取りしてるわけか……

 兄様と美威って、同じ目的に向かわせたら、ある意味強力なタッグになるんじゃないだろうか。なんとなくそう思う。


 しかし5日後の復国祭に向けて、今は目が回るほど忙しいはずの兄様だ。こんなところにまで気を回している場合じゃないだろうに。

 私も、明日からはまた更に忙しくなる。


(しばらく、ここにはこれないかもな……)


 ご機嫌な相棒の顔を眺めて、少し不満に思いながら。

 ゴロン、とベッドに転がって、私はしばしの休息に浸ることにした。

閑話のようなお話。更新出来ました……

現在色々重なってしまい、毎日更新が難しい状況なのです。

2日に1回はいけると思いますが、「あれ? 更新どうした?」という際には、活動報告に足を運んでいただけると幸いです。多分、「無理!」とか叫んでます。

ココ→(https://mypage.syosetu.com/1122811/)


次回、復国祭にまつわる話を……誰語りだろう。

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