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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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本当は

 無理に予定を空けて、会いに行こうと思えば時間を捻出することは出来た。

 だが見えない足枷が付いてしまったように、私は城を出ることが出来なくなっていた。


 身分を偽っていたことを告げれば、彼女を傷つけることになるかもしれない……

 始めて出会った時。王族であることを隠していたのは、傭兵として討伐に参加している以上、それが必要だったからだ。

 そもそも、旅先でおいそれと自分の身元を明かすような危険なことはしない。

 だから、そのことで彼女に引け目は感じていない。


 だが、再会した後も、その後もずっと口をつぐんでいたのは事実だ。

 飛那姫が、私の身分が分かったところで、害なす人間ではないと分かっていたのにも関わらず。友人だと口では言いながら、本当のことを話さずにきたのは私の意志だ。


 あの盗賊の青年が言うように、私は彼女を騙している。

 その引け目が、どうしようもなく飛那姫に会いに行くことを妨げていた。

 そして望まない形で、彼女にそれが伝わることになってしまった。

 私の口以外から真実を知るという、最悪なパターンで。


 民家の屋根を飛び越えた彼女を追って、インターセプターを降下させた。

 今日は風が強い。彼女の長い髪が、振り向きざまにあおられて大きくなびいた。


「……許してもらえるとは思っていないが、まず、謝らせてくれないだろうか」


 春がくれば気持ちの良い田畑になるだろう、農耕地の一角。

 私と飛那姫は少し距離を取って向き合った。


「何に対して? 身分詐称のこと? それなら謝る必要なんてない。単に私が信用するに足らない人間だった。それだけの話だろう。ちゃんとそう理解してる。そんな人間相手に謝罪も弁明も要らないと思うけれど?」


 いつもの口の悪さに輪がかかったような刺々しさで、飛那姫が答えた。

 にじみ出るのは怒りだけじゃないだろう。彼女を傷つけた私は、面と向かって弾劾されなくてはならない。


「身分を偽っていてすまなかった……本当は、何度も言いたかった。騙したかった訳ではないんだ」

「何、言ってんだよ。じゃあ、言えば良かったじゃんか! お前の正体を知っても、私がお前を害したり、利用したり、そんな風に考えることはない。私は……そんなに信用ならなかったか?」

「違う」


 それは、違う。

 言えなかったのは、明かせなかったのは、隣に立っていたかったからだ。

 住む世界が違うと、拒絶されるのが怖かったのだ。

 それがたとえ杞憂だったとしても、言い出せなかった。


「違うんだ。信用していなかったのじゃない。私はただ、君との関係を壊したくなかったんだ。王太子という立場を明かしてしまえば、みんな一歩引いて私を見るようになる。身分を知られたら、きっと壁を作られてしまう……もう、同じ目線でものを見れなくなってしまうかもしれない。そう思うと、怖くて言い出せなかった」

「……な、んだよ、それ……」


 正直に伝えた内容は、彼女にとって思ってもみなかったものだったらしい。

 続ける言葉にためらったように口をつぐむと、小さく首を振った。


「こんなことで君を傷つけてしまって、本当にすまない……」

「……馬鹿っ! なんだよそれ……人を見くびりすぎだよ! 本当は一発ぐらいひっぱたいてやろうと思ってたのに、そんなこと言われたら叩けないだろっ! 卑怯だぞっ……」


 私が大国の王太子だと分かっても、叩くという発想がでてくるところがあまりにも彼女らしい。

 ああ、一体何に怯えていたのだろう。こうして彼女が態度を変えることがないことくらい、分かっていたはずなのに。

 申し訳ないやらうれしいやらで、歩を進めると彼女の前に立った。


「気が済むのなら、叩いてもかまわないが……?」

「だから! もう叩く気が失せたって言ってんの!」

「すまない……他に、どう謝罪すればいい?」

「もう、いいよ。アレクが意外に馬鹿で、思い込みの激しい消極的選択が好きな臆病者だって分かったから!」

「それは、許してもらえた、ということかな……? 君はたまに解釈の難しいことを言うな」

「私より傷ついた顔されてたら、許さないわけにいかないだろ?!」


 飛那姫の私を真っ直ぐに見る目と、取り繕うことのない言動はいつもと変わらなかった。

 彼女の前に立つと、上手く立ち回ろうと思うことすら滑稽に思えてくる。


「まだ、私を見捨てないでいてくれるか?」

「ばーか。見捨ててたら、もう口も聞かないよ」

「そうか……ありがとう、飛那姫」

「……お前も難儀な性格してるよな」


 そう言った後、少し視線をそらした飛那姫は唇の端をあげた。


「でもさ、結果的に良かったよ。私もアレクの悩みのために役に立てるんだって、分かったから」

「? 私の悩み?」

「政略結婚。モントペリオルの毒姫だろ? 色んな人から聞いたから、知ってるよ」

「……ああ」


 なんで、イザベラ姫との縁談に、飛那姫が役に立てる話が出てくるのだろう。

 口から出任せという風には見えないが、不可解だった。


「北とのその話は、引き延ばせるだけ延ばして、最終的に破談にするといいよ。はっきり言ってやればいいんだ。お前みたいなヤツはごめんだって」

「飛那姫、事情が分かっているのなら、自分が何を言っているのか……」

「分かってるよ。大丈夫、戦争にはならない」

「……どういうことだ?」


 何か確信した答えを持っているかのような口ぶりで、彼女は私を見上げた。

 口調とは裏腹に、瞳の中には何か迷いのような揺らぎが見えた。


「南のグラナセアにも、北のモントペリオルにも、プロントウィーグルを狙わせたりしない。大国の三竦みを、なるべく早く復活させるんだ。それで、半永久的に大きな戦争はなくなる」

「ちょっと待ってくれ、飛那姫。何を言ってる……? 大国の三竦みは、成立していない。それに南のグラナセアがプロントウィーグルを狙うというのは……?」

「南は、北と手を組んで西を潰しに来る可能性が高い」


 あまりにも唐突な、彼女の言葉に愕然とした。

 南が北と手を組んでいる?


「……何故、君がそれを知っているんだ?」


 彼女の話が不可解なことはこれまでにもあったが、今回のこれは、今までとは種類が違う。

 言いようのない違和感を感じた。


「んー、まあ、色々あってね……とにかく心配ないよ。何とかするから」

「何とかするって、君がか?」

「うん。だから心配いらないよ。もうアレクが、嫌々結婚する必要もない」

「……すまない。やはり君の言葉は、解釈が難しいところがある。私に分かるように説明してくれないか?」


 風にさらわれそうな髪を押さえて、飛那姫が視線を落とした。

 表情は見えなくとも一種の緊張感のようなものが、伝わってきた。

 何か、大事なことを言おうとしているのかもしれない。そう思った。


「アレク……私の剣を覚えてるか?」

「もちろんだ」

「私の魔法剣、『神楽』にはいくつかの通り名があるんだ」

「通り名?」

「現存する魔法剣の中ではおそらく、最上の剣だ。それゆえに、奇跡の『聖剣』と呼ばれ……東の真国においては、正統な王位継承者だけが受け継ぐ剣として、『王の剣』と呼ばれていた」

「……王の、剣?」


 何故その剣を君が、という疑問を口に出すことはためらわれて、続く彼女の言葉を待った。

 少しの沈黙の後、飛那姫が面を上げないまま呟いた。


「私の本当の名前は、紗里真、飛那姫。お前と同じ……王族だ」

色々暴露回でした。恋愛要素の強い回が続いていますね……

お話のストックがなくなりかけてきたので、執筆せねば。次回更新は2日以内時間不定のお約束で。

恋愛回、もうちょい続きます。

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