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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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騎士じゃない

「そこの門兵、下がって良い。私の知り合いだ。娘……やはり騎士団に入る気になったのか?」


 興奮冷めやらぬ馬の首を回しながら、騎士団長のシャダールが馬上から声を投げた。

 私を取り押さえようと出て来た兵士達が、驚いたように顔を見合わせると退いていく。


「その節はお誘いどうもありがとう。でも職に困って来たわけじゃないんだな。ちょっと、人を捜しててね。爺さ……シャダールさんなら知ってるんじゃないかと思って」


 周囲の兵士達の視線が痛すぎたので、呼び方だけは訂正しておくことにする。


「人捜し? 私が知っているとは?」

「ああ、ここの騎士団にいる人間のはずなんだ」

「騎士団に……?」


 意外そうに眉をあげると、シャダールは「そうか。まあ、いいだろう」と頷いた。


「しかし私も全員の顔と名前を覚えているわけではない。騎士団の中から捜すのなら、名簿を見るのが早いだろうな。ついて来るといい」

「悪いね」


 跳ね橋の上を、馬が常歩(なみあし)で進み始める。その後を着いていく私を、兵士達が異様なものを見るような顔で見送っていた。



-*-*-*-*-*-*-*-*-


 ここは兵士の詰め所……の隣にある資料室だ。

 分厚い名簿をテーブルに置いた兵士が、人払いの仕草を受けて部屋の外に出ていった。


 部屋の中には私と、騎士を捜しているという傭兵の娘だけになった。

 整いすぎた容姿のせいか人より目立って見えるというのに、一般民の軽装は城にはそぐわない出で立ちだ。それを私が連れて歩いているのだから、なおさら目立つ。ここにたどり着くまでにも相当衆目を集めた。

 だと言うのに、この娘は人の視線など全く意に介さない様子だ。

 私の身分を知ってなお無礼な態度を改めようともしないし、気後れるわけでもない。

 だが不思議なことにふてぶてしい感じはしないのだ。あまりにも自然に、そう振る舞うことが当然のように、堂々としすぎている。益々不可解な娘だと思わざるを得ない。

 そして、捜しているという人物の名前がもっと不可解だ。


「もう一度、捜し人の名前を聞いても良いか……?」


 私は、先ほど歩きながら聞いた、捜し人の名前を再度尋ねた。

 聞き間違いなどではないだろうという予感はした。だが、事実は確認しなくてはならない。


「だから、フルネーム分からないんだって。アレクシスって名前しか知らないの」

「お前を知らぬ頃の私であったのなら、一笑に付しただろうが……」


 もしそのような名前の騎士がこのプロントウィーグルの騎士団にいれば、私の耳に入らないことはない。騎士団の中にいないことだけは断言できた。

 そして、思い当たる節もあったのだ。 


「そうか……ならば、あの時の言葉にも納得がいく」

「はい?」


 傭兵の娘を少し放ったまま、私は思案した。

 騎士隊の襲撃現場で会ったこの娘の話をした時、王子はこう言ったのだ。

「彼女はどこへ行くと言っていましたか」と。

 私はそれまで一言も性別の話をしていなかった。ただ、青い魔法剣の持ち主という説明だけで。

 普通に考えれば傭兵の話をしていて、それが女性だとは思うまい。

 おそらく、王子はこの娘を知っている。


「しかしこれを、私の口から話して良いものなのか……」

「もしもし? ええと、シャダールさん? 私に分かるように話してもらえると、ありがたいんだけど?」


 コツコツ、と妙なノックの音がした。

 何も声かけがないまま、扉が半分ほど開かれる。城の中を自由に歩き回る特権を持つ存在が、音もなくするりと部屋に入ってきた。


「あれ? インターセプターじゃないか」


 私が何かを言う前に、白い聖獣は「ワン!」と応えるように鳴いて、娘の足下に擦り寄った。

 一瞬目を疑った。いつも周りを寄せ付けないような、神聖で高貴な雰囲気を醸し出している存在だ。この聖獣が王子以外にそんな行動を取るところを見たのは初めてだった。


「お前、どこでも現れるなあ」


 普通の犬のように甘える聖獣を、娘の手が撫でている。


「その聖獣は、アレクシス様以外にはまず触らせないのだが……」

「え? 嘘。最初っからすごく懐いてくれてるよ。な、インターセプター……って、ちょっと待って。やっぱり爺さん、アレクのこと知ってるわけ?!」

「娘、お前は一体、何者なんだ……?」


 青い魔法剣を持ち、王子の名を親しく呼び、その聖獣が心を許しているように見える不思議な娘。


「いや、私の質問に答えてくれる? アレクはここにいるのか? 会わなきゃいけない用があるんだよ」

「アレクシス様は多忙な方だからな。会おうと思って会えるような存在ではない」

「騎士団長のあんたが、様付けって……アレク、もしかして一介の騎士じゃないのか?」

「その質問に私が答えて良いかどうかは、判断に困るところだな……」

「はあ? もったいつけなくてもいいんじゃないか?」

「もったいつける、つけないという問題ではない。とにかく、悪いな。これ以上、お前の人捜しには協力できそうにない。だが……言伝は受けられるぞ。何か伝えておくことはあるか?」


 私の返答に不満そうな色を隠そうともせず、傭兵の娘は「なんなんだよ……」と呟いた。


「じゃあさ、お言葉に甘えて言伝頼むよ。私、東に帰るから、そしたら、もう一生会うこともないだろうからサヨナラ! ってね」

「東に……?」

「ちゃんと伝えてよね。本当は自分の口から言いたかったんだけど……なんか、もういいや」

「待て、娘。まだ名を聞いていない」

「飛那姫だ」

「こういう時はフルネームで答えるものだ」

「……名字(それ)は、答えられない」


 クーン、と聖獣が甘えるような声を出して娘を見上げた。

 ポンポン、とその頭を優しく撫でて、娘は「じゃあね」と部屋を出て行った。 



-*-*-*-*-*-*-*-*-


「もう、よく分からないな……」


 城門をくぐり跳ね橋を抜ける途中、少しだけ後ろを振り返った。

 アレクはプロントウィーグルの騎士じゃないのか? あれは嘘なのか?

 友達だと思ってたのに、どこかで心を許していたのに、よく考えたらお互いフルネームすら知らない仲だったんだな。

 政略結婚で悩んでるとか、あの話も全部嘘なんだろうか。

 騎士団のことを尋ねたときに、「この話はやめよう」って言ったのは、後ろめたいところがあったから?


 イライラしてた。

 チクチク尖った何かが心を刺しているようで、胸が痛かった。

 アレクは、何のために自分は騎士だなんて嘘ついたんだろう。

 話せないような事情があったのだろうか。家のために結婚するとか言ってるようなヤツだ。何か理由はあるのかもしれない。

 それでもやっぱり、悔しかった。

 腹が立つ以上に、裏切られた気持ちになってしまって、悲しかった。


 後ろから追いかけて来たインターセプターが、足下で「ワン」と気遣うように小さく鳴いた。

 ひとつため息をついて、しゃがんで頭を撫でてやる。

 その様子を、先ほどの門兵の何人かが見ていた。


「ねえ」


 声をかけると、兵士達はびくっとしたように、直立になった。


「な、何でしょう?!」

「この子さ、飼い主は一体誰なの?」

「え? この子……白い聖獣のことでしょうか?」

「うん、そう」

「飼い主という言葉が正しいかどうか……聖獣を所有されていらっしゃるのは、アレクシス第一王子かと……」


 その言葉に、インターセプターを撫でる私の手が止まった。


「……悪いけど、もう一度、言ってくれるか?」

「はい、聖獣の所有者は、アレクシス第一王子であらせられます」


 第一王子? と呟いた私の頬を、ペロリとインターセプターの舌が舐めた。


正体がバレました。「?」がいっぱいの飛那姫ですが、人のことは言えません。


更新は明日難しいかもなので、2日以内ということで。

野暮用と仕事に追われてますので……ごめんなさい。

※後書きで次回予告(という名のネタバレやめて!)と言われ……あ、確かに。

仕事で頭疲れて半分寝ていたようです。色々見直さないとですね。申し訳ないです……

他に何かお気づきの方がいらっしゃいましたら、遠慮無くメッセージください。

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