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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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親友の変化

 西の大国に着いて、4日が経った。

 アレクは忙しいのか、あれから姿を現さない。


(昼間に、手合わせしようって約束したのに……)


 私はと言えば、相変わらずフラフラ悩んでいた。

 でも、もう西の大国の内情も何となく分かったし、いい加減に帰らなきゃな。

 アレクじゃないけど、選択肢は最初から無いんだから……


「ルーベル、マルコ、美威を見なかったか?」


 1階にいた二人に相棒の居所を尋ねたら、マルコが階下を指差した。


「さっきレブラスさんと二人で工房に下りていったよ。また魔道具講義じゃないかな」

「ああ……そうか。買い物行くかって聞こうと思ったんだけど」

「行こうって言ってくればいいんじゃ?」

「いや、いいんだ。多分、美威は工房で魔道具作ってる方が楽しいから。出かけるって、声だけかけてくる」


 私はマルコ達の隣を抜けて、地下へ続く階段を下った。

 工房の扉が半分開いていて、中で作業台の本をにらめっこしている美威とレブラスの姿が見えた。


「……み」


 声をかけようとして、なんとなく口をつぐんだ。

 2人はこっちに気が付いていない。話す声が聞こえてきた。


「この先の作業を進める前に、もっと基礎からやり直す必要があるかもしれんな」

「うう……どうしてうまくいかないのかしらっ、レブラスがやるとすんなりいくのに!」

「経験値の違いに決まっているだろう。この工程までは巧く出来ているのだから、じきに出来るようになる。もう一度見せるから、手順を確認しながらゆっくりやってみろ」


 ハイドロ号の時もそうだったけど、魔道具の話をしているあの2人は、何となく間に入って行きづらい。作業に集中しているからか、こっちが暗いからか、私のことも全然目に入っていないみたいだ。


「こうして、こちらに返してここに……」

「待って! 分かった! やってみるから貸して!」


 美威は丸いボールみたいなのに、透明な糸を通すような作業をしていた。

 眉間にしわを寄せてごちょごちょやっていたかと思ったら、ぱあっとうれしそうな顔になる。


「出来た! レブラス、出来た! 見て見て!!」

「6度目の正直だったな。それでいい」


 大喜びする姿を見て少しだけ唇の端を上げたレブラスが、ポンポン、と美威の頭の上で手のひらを弾ませた。

 態度が悪い、口も悪いと思っていたレブラスの行動とは思えなかった。まるで兄様が私にするような、ちゃんと愛情のこもった手つきで。


 なんだ、あんな風に褒めてやれるんじゃんか……

 意外だったのは美威も同じようだった。次の作業の準備を始めたレブラスを、驚いたようにぼけっと見ながら撫でられたらしい頭に手をやった。


(……ん?)


 なんか、美威、顔赤くないか?

 その表情を見た瞬間、なぜだかモヤッとするものを感じた。

 見てはいけないものを見てしまった気がする……私は無言で二人に背を向けた。そうっと足音も立てずに、階段を上る。


「飛那姫ちゃん、買い物お付き合いしますよ~」

「……ああ」


 マルコがニコニコ寄ってきたのに、適当な相づちを返す。

 なんだろう。もしかして私、結構ショック受けてるんじゃないだろうか。


「あれっ? 付いてくるなって言わないの?」

「……ああ」

「じゃあお昼ご飯、一緒に食べよう?」

「……ああ」

「飛那姫ちゃん、聞いてる?」

「……ああ」

「本当は、俺のこと大好きなんでしょう?」

「……ああ」

「……聞いてないみたいだね」


 ルーベルが苦笑いで送り出してくれたけど、なんだか足下がフワフワしてた。

 隣でマルコが何か言ってるのも、全然頭に入ってこない。

 美威、もしかしてレブラスが好きなのかな?

 魔道具屋だから? 金持ちだから? 顔はイケメンでもタイプじゃないって言ってたよな?


(……いや、そんなことどうでもいいか)


 流れの傭兵として、出会いがないと嘆いていた美威に、本当に好きな男が出来たのだとしたら、喜ばしいことだと思う。

 でも、なんでだろう、素直に喜べないのは。


「このタイミングかよ……」

「え? なんか言った?」


 思わずもれた呟きに、マルコが何? 何? と聞いてくる。

 ああ、そう言えばいたんだっけか、コイツ。

 私は勝手口を出たところの、店の裏口で足を止めた。ここなら人気も無いし、聞いてもいいかな……


「なあマルコ、美威は……もしかして、レブラスのことが好きなのかな」

「え?! 飛那姫ちゃんがそういうことに気付く?!」


 突然の私の質問に、マルコはすごく驚いた顔で聞き返してきた。

 その反応は、私の予想を肯定するものだった。


「気付くよ、美威のことだから……そうか、やっぱりそうなんだな」

「ちょっと待って。飛那姫ちゃんショックなの? 自分以外に大事な人が出来た美威ちゃんを見て、もしかしてショックなの?!」

「ああそうみたい……って、何言ってんだお前」

「俺への冷たい仕打ちはやっぱり美威ちゃんラブだったからなの?! 本当は男じゃなくて女の子に興味が……いだだだだだっ!!」

「脳ミソ腐ってんのか……?」


 どこまでアホなんだ、このコソ泥は。

 私は涙目で「ギブ!」と叫んでいるマルコの頬から、指を放した。


「ちょっとショックだけど、良かったよ。私がいなくなっても、美威は1人にならないで済みそうだ」

「……何の話ですか?」

「レブラスは悪い奴じゃない。この国は東から遠いけど……美威を任せても大丈夫なヤツだよ。これで安心して、帰れる」

「だから、何の話……飛那姫ちゃん、泣いてる?」

「泣くか、馬鹿」

「でも、泣きそうだよね? ここに来たら悩みが解決するのかと思ってたけど、あんまり良くなってないみたいだし、そろそろ俺にも少しくらい話してくれてもいいんじゃない?」


 悩んでいたのをバレていたか。

 もともとコイツは私のことばっかり見てるから、気付きやすいのかもしれないけど……


「話すだけでもスッキリするかもよ? どうしても話したくないなら、抱きしめて慰めてあげるけど、どっちがいい?」

「……アホ」

「俺本気だよ。好きな子がそんな顔してたらギュッとしたくなるじゃないか」

「お断りだ。お前に慰められるほど、零落(おちぶ)れてない」


 マルコはがっくりと大げさにうなだれて「ひどいわ~」と泣き真似をはじめた。

 いつものおかしな反応は、落ち込んだ私を気遣ってのポーズだろう。そう思うと、少しだけ憂鬱な気分が薄れた。


「マルコ、一歩離れて歩くならついてきてもいいぞ」


 私は気まぐれに譲歩する気になって、そんな言葉をかけた。

 一瞬目を丸くしたマルコが、うれしそうにひょいひょい後についてくる。犬みたいだな。


「北と西が、戦争しそうって話、聞いたろ……?」


 ぽつりと、そう話し出す。


「うん、蒼嵐さんと話してたグラナセアがらみの件でしょ?」

「あれな、実は戦争を止める方法があるんだ」

「え? なにそれ?」

「私が、紗里真を再建して王になるんだよ」


 言った後にちらと振り向いたら、マルコは目をぱちぱちさせて「は?」と変な声をあげた。


「飛那姫ちゃんが? 紗里真の、王に??」

「兄様が言うのには、復興は可能なんだって。それで、元のように大国の三竦みの状態を作ってやれば、少なくとも半永久的に大きな戦争は防げるだろうって」


 三国の軍事力が均衡を保つような状態を維持できれば、理想だってことだな。そう説明する私の声は、自分でも驚くほど淡々としていた。


「い、いくらなんでも突然すぎない? 王になるって……じゃあ、美威ちゃんとの旅はどうなる……あ、だから安心して帰れるなんて……」

「そーゆーこと。西の国の事情も大体分かったし、もしかしたら戦争にならない可能性もあるみたいだけど、準備もあるし。そろそろ東へ帰るかと思ってたんだ。今度帰ったら、もう……きっとこんな風に、旅は出来なくなる」


 だから、マルコともここで本当におさらばだな。

 前を歩いていた私は、そう言おうと思って足を止めた。


「マルコ、だからお前ももう……」


 振り向いたら、ひどい顔のマルコと目が合った。

 男のくせに、なんでそんな泣きそうな情けない顔してんだよ。

 そう言おうと思ったのに、伝わってくる気持ちが痛くて、軽口が叩けなかった。


「飛那姫ちゃんは、本当にそれでいいの……?」


 どこかで聞いたような台詞が、マルコの口からもれた。

それでいいと思いつつも、心は複雑。


次回、飛那姫の置かれた現状を知ったマルコと、ちょっと真面目な話。

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