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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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宣戦布告?

「あのクソ犬……!」


 人を3時間以上くわえてあちこち歩き回ったあげく、こんな国の外れに捨てていくなんて……

 拷問か! 飼い主同様、ムカつく!!


 俺は、放り出された林の中からやっと道に這い出てくると、飛那姫ちゃんの気配を追った。

 ちょっと遠いけど、多分あっちの方だな……

 でも今追いたいのは、飛那姫ちゃんじゃない。あのクソ犬の飼い主の方だ。

 魔力の匂いはもう覚えた。かなり大きい気配だから、この広い国の中でも大体分かる。あの犬の気配を追っていけばなおさら早くたどり着くだろう。

 どうやら飛那姫ちゃんとはもう別れたみたいで、そのことだけは俺をほっとさせた。


 しかし! どうあっても一言、物申したい!

 この大国の王子が、何の目的で彼女にちょっかい出してるのか知らないけど、胡散臭いったらないぞ!

 飛那姫ちゃんはあいつの身分を知らないっぽいし、なんかうまいこと騙されてるんじゃないか?


 そう、俺はあのいけ好かないイケメンに面と向かって言ってやらねばならないのだ。身分隠してコソコソ会ったりして、怪しいぞ、お前! ってね。

 あの王子もこっちに向かって来てるみたいだから、この道を行けばちょうどぶつかるはず。

 俺はもうほとんど人通りのなくなった、真夜中の大通りを走っていた。


(……いた!)


 クソ犬と一緒だ……一般民と同じ格好してても、浮いてるぞ!

 いわゆる王族オーラが隠し切れてない。あんなのに無頓着なのは、飛那姫ちゃんくらいなもんだ。


「おい! ちょっとそこのアンタ!」


 俺は例の王子の進行方向に立ちふさがると、そう声をかけた。通りがかりの人間も俺に目を向けてきたけど、目立ったって構うもんか。コイツはともかく、俺は困らない。

 王子はいぶかしげに濃緑の目を細めると、「ああ」と思い出したように呟いた。


「君は……さっきの、飛那姫の友人か」

「呼び捨て禁止! さんとかちゃんとか付けろ!」

「私に何か用か?」


 今さらりと無視したな!


「用? 大ありだね。まずそのしつけの悪い犬! ちゃんと管理してくれ! ひどい目にあった!」

「ああ……それはすまなかった。彼は私の言うことはあまり聞いてくれなくてね」


 あまり悪いと思ってなさそうな笑顔で、王子は言った。


「あと、こっちが本題! 単刀直入に聞くけど、アンタ飛那姫ちゃんのこと狙ってるでしょ?」

「……何の話だ?」

「えっ、まさかのとぼけかよ?! 俺わざわざ宣戦布告に来たんだから、そういう態度やめてくれる?」

「そう言われても……狙っているというのは、どういう意味だ?」


 この男、本気っぽいぞ。


「もしかして俗っぽい言い回しは通じませんか? それとも天然なの? 飛那姫ちゃんの周りにちょろちょろ出現するのは、あわよくば彼女を手に入れようと思ってるからでしょ、って言ってんの!」


 親切な俺は、分かりやすく説明してやった。

 ちょっと考えれば分かりそうなもんだ、なんで俺がこうして現れたかなんて。


「ああ、そういうことか……だとすれば、そんなことはないと言っておくよ。彼女とは剣を通しての友人なんだ」

「ほー? 認めないつもり? それならそれでもいいけど……これだけは言わせてもらうよ。俺はね、飛那姫ちゃんが好きなの。誰にも渡したくない。相手が盗賊だろうと……王族だろうとね」


 俺の台詞に、王子は少しだけ顔色を変えた。

 そう、王族だろうがイケメンだろうが、治外法権に生きている俺にとって身分なんて関係ない。


「……君は、何を知っているんだ?」

「ぜ~んぶ知ってるよ、アンタの正体。騙せると思ってた? 盗賊ナメてもらっちゃ困るね」


 王子は黙って立ったまま、俺が次に何を言うのか様子を窺っているようだった。

 もっと慌てるかと思ってたけど、意外と普通だな。つまらん。


「西の大国の王太子ともあろう方が、国の外までフラフラ出かけたあげく、身分隠して近付くとか、怪しさしかないよね? 何のつもりなわけ?」


 俺は一番聞きたかったことを口にした。王族が本当に本気で、傭兵の彼女にアプローチなんてするわけないからだ。涼しい顔して、美女好きな悪人とかに決まってる。


「飛那姫に……言わないのか?」

「言ったら傷つくかもでしょ?! 飛那姫ちゃん、アンタのこと信用してるんだから、身分詐称されてるとか1ミリも思ってないんだよ! 遊びだか気まぐれだか知らないけど、単なる興味とかで彼女に近付くんなら、金輪際止めてもらいたい!」


 本当のことを言ったら飛那姫ちゃんは傷つくかもしれない。俺が彼女に言わない理由はそれだけだ。

 辛い顔も泣き顔も、全部飲み込んだ無表情もまっぴら御免だ。ライバルの信用を地に堕とせるかもしれなくったって、俺からは言わない。


「私は……どこにでもいる一人の人間として、彼女に接したいだけなんだ。身分を偽りたい訳じゃない」


 コイツ、マジだな……

 つーか、それが答えかよ。まさか本気でピュアなの?

 でも、どこにでもいる人間を装って傭兵にちょっかい出すとか、間違ってるぞ。昔だったら飛那姫ちゃんもコイツに釣り合うような身分だったろうけど、今となっては全く違う世界の人間なんだから。


「それを偽ってるって言わないでなんて言うわけ? 偽りたくないなら言えばいいじゃん、実は大国の王子でしたってね! 所詮俺らとアンタじゃ住む世界が違うだろ? うろちょろされるとメイワクなんだよ」

「確かに、そうかもしれないな……」


 本気でそう思ってるような小さい返答に、俺はなんだか毒気を抜かれるような気がした。

 大丈夫かコイツ? 何言われてるか本当に分かってるのか?


「アンタさ、何なの? ひとまず悪意はなさそうだってことは分かったけど、飛那姫ちゃんのこと好きなんじゃないの?」


 あまりに俺ばかりが敵意を持ってしゃべってることに違和感を覚えたので、試しに聞いてみた。

 もしかして、色々俺の勘違いなのか?


「剣士としても、女性としても、好ましく思っているよ」


 あ、認めやがった。


「だから! それを俺に言ってどうするわけ?!」

「君が聞いたからだ」

「くわーっ! 俺、アンタみたいなタイプ、マジで嫌い! 何でも持ってるくせに、好きな女に対して手の伸ばし方ひとつ知らない馬鹿!」

「私にそんな物言いをする泥棒は君が初めてだよ……」


 感心したように言ってる場合か!


「知るか! 身分なんか関係ない! とにかく、俺と戦う気もない腰抜けに飛那姫ちゃんはやらん!」

「心配しなくても、君の邪魔はしないよ。いや、出来ないというべきかな……」

「はあ?」

「正直、君のことはあまり好きじゃないが、そこまで彼女に対して素直に行動できるのは羨ましくもある。そんなに想っているのに、交際を申し込んだりはしないのかい?」

「……49戦49敗目を更新中ですが、何か?」

「……あきらめが悪すぎないか?」


 そうなんだよな、そもそもどんなタイミングで言っても、ハナから全く聞いてくれないからあきらめられないんだよな。

 ちゃんと俺の気持ちを受け止めた上で、ごめん、と言われるのなら引っ込みもつくのかもしれないけど……いや、今はそれを考えている場合じゃない。


「往生際が悪いのは盗賊の特徴だよ。押せるだけ押して、最後にYesって返事をもらうまで押すのみだ」

「それは、飛那姫も大変そうだな……」

「玉砕を恐れて告白が出来るか! アンタみたいにウジウジしてるよかずっといいだろ! あー……もういい。アンタが無害だってことは分かった。じゃあなっ! 俺、飛那姫ちゃん探すからっ」


 どうやら悪意はないらしいし、宣戦布告もすませた。これ以上は時間の無駄だ。

 俺は哀れむような視線を振り切って、王子の前から走り去った。


(チクショー。なんか、勝った気がしねぇ……)


 威勢のいいことを言ったけど、実のところ俺の方が分が悪いってことは分かってた。

 飛那姫ちゃんがアイツを見る目を見たら、そんなことくらい、とっくに分かってたんだ。

 それでも側に居られればいいと思えるくらい、好きになりすぎてるんだ。


(結局、完膚なきまでに叩きのめされないと、あきらめは付きそうにないな……)


 恋に対してはいつでも強気のはずの俺が、珍しくそんなことを思ったのは、きっと弱気が伝染したからだ。

 俺はそうやって、モヤモヤする不快な気持ちを全部、あの王子のせいにしておいた。

アレクシスは寡黙なタイプでもないのですが、マルコがうるさすぎてすごく静かな人に見えます。


次回は、飛那姫にマイクを戻します。

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