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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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思い出の魔道具制作

 私が初めて魔道具に出会ったのは10歳の時だった。


 小さいコミカルな鳥の形をした、世界地図にくっついていた学習用魔道具。

 たった30個の国の名前しか記憶していないチープなおもちゃ。国の名前を言うとその場所を指し示してくれるという、いたってシンプルな魔道具だった。


「世界地図を広げた上を、ちょこちょこ歩くのが可愛かったなあ~。壊れても大事に持ってたんだけど、泥棒に荷物ごと取られて無くしちゃって」


 ルーベルの煎れてくれたお茶とお菓子をつまみながら、私はそんな昔話を聞かせていた。

 どこで魔道具に興味を持ったんだってところから、最初に手にした魔道具の話になったんだけど。

 前に座ったレブラスは、「ふむ」と言うと、少し考えた風を作った。飲みかけのカップをお皿に戻して、じっと私を見る。


「作ってみるか?」

「え?」

地図鳥(クロッパー)だろう? 簡単な魔道具だ。1時間もあれば出来る」

「え? 私が? 作れるの?」

「簡単だと言ったろう。やるのか? やらないのか?」


 突然の言葉に驚いたものの、それはとても魅力的な提案だった。

 何しろ今まで魔道具関連の書物を読みあさってはいたものの、実際にはひとつも作ったことがなかったので……


「やる!」


 もちろん、答えはYesだ!


「よし、ついでに俺の工房を見せてやろう、ついてこい」


 席を立ったレブラスの後をついて、階段を下りる。1階の下には、なんと地下まであった。

 少し薄暗い照明の階段の先。重そうな扉をくぐると、壁伝いに所狭しと色んな材料の並ぶ不思議空間に出た。

 魔道具の核を精製する際の、いつもの匂いが鼻をくすぐる。レブラスの匂いだ。


「右の棚は魔法薬用の劇物が入っているから触れるなよ。作業台の奥に手袋があるから使え。ビーカーを二つと、ピンセット、世界地図はこれでいいだろう」


 レブラスは材料や道具を手際よく台の上に並べて行くと、小さい世界地図を取り出して広げた。

 いいけど、この手袋指が余りすぎるんですけど……


「レブラス……」


 でろんとした手袋を見たレブラスは、「次回までに小さいサイズを用意しておく」と言った。


「いいか、核にも純度や濃度、属性があることは知ってるな?」

「うん、単純な造りのものには属性がいらないのよね?」

「そうだ、地図鳥には属性は要らない。大きさも最小で、シンプルな核でいい。逆にお前の相棒が持っているような剣は、属性が4つも共存するような非常識な核が必要になる」

「へえ~」


 魔道具講義は地図鳥をどうやって作っていくかの説明が終わるまで続いた。

 なんだろうこれ。ちょっと楽しい。


 実際に核を精製するところを見せてもらって、地図鳥の元をナイフで削って、国名の一覧を作ったのを組み込んで……一通り作業が終わって、それらしき形のものが出来上がった。

 手のひらにちょこんと乗っている小さな地図鳥は、私が小さい頃に持っていたものを真似て色づけてみた。職人さんが作ったものとは比べものにならない出来だけど、なんだか懐かしさで胸がいっぱいになる。


「すごーい……出来たかも」

「置いて、起動してみろ」


 ただ眺めていたら、レブラスが地図を前に出してそう促した。

 私はドキドキしながら、地図の真ん中に二本足で立つ地図鳥をそっと置いた。


「む、起動(ムーブ)。『紗里真』っ」


 地図鳥はその場でくるりと向きを変えると、ちょこちょこと地図の上を歩き出した。東の大国の場所まで来ると、コツン、とおじぎをしてクチバシでその場所を指してみせる。

 成功だ!


「うわぁ……」

「なんでわざわざ滅んだ国の名前を入れたんだ? 相変わらず行動が不可解だ」


 いや、滅んだけど近々復活するかもしれないからね、紗里真……

 そんなことよりちゃんと動いたよ!

 え、これ私が作ったの? 本当に??


「動いた! 動いたよレブラス!」

「当たり前だ、俺が教えたんだからな」

「すごい……!」 


 地図鳥をもう一度手に取って、目の前に掲げてみた。

 まだ幼い頃に私がはじめて手に取ったものとは違うけれど、もう一度同じような感動をくれた小さな魔道具に、うれしすぎて視界がにじんだ。


 あれ? おかしいな。

 うれしいはずなのに、なんかうれしいだけじゃすまない気がする。

 このところずっと、気が張ってる飛那ちゃんを見てたからかな?

 うれしいことがうれしすぎて、なんか頭が変だ。


「そんなに、嬉しかったのか……?」


 隣で私の顔を見下ろしたレブラスが、らしくなくうろたえたようにそう言った。


「うれしい、はずなんだけど……あれ?」


 感情が昂ぶって、抑えてた他の色んなものが出てきてしまったんだろうか。

 もしかしたら、飛那ちゃんとはもうこういう小さい幸せを共有出来なくなるかもしれないとか、飛那ちゃんが王様になっていなくなっちゃったら私、どうすればいいんだろうとか、見ないフリしながらもずっと抱えてた不安が、堰を切って溢れ出てしまったようだった。

 

 ポロポロこぼれる涙が、頬を伝っていくのが分かった。


「嬉しいだけには、見えないぞ……」


 大きな手が頬に触れて、私の涙を拭っていった。

 飛那ちゃんの手と違って、骨張ったもっと固い指だった。でも不器用な仕草の中に、気遣うような優しさだけは同じように伝わってきた。


「泣くな。怒っている方がまだいい」


 見上げたら、しかめっ面で困り果てた顔のレブラスがそこにいた。

 なんか、すごく珍しいものを見た気がする。


「今言うべき事ではないかもしれないが……次にお前に会ったら、言おうと思っていたことがあるんだ」


 少しの後、ためらいがちにレブラスはそんな言葉を口にした。

 え? 何? と言った私の返事が、声になっていたかどうかは疑わしい。


「ここで、魔道具を作るための勉強をしてみないか……?」


 私はまるで夢から覚めたばかりのように、ぼんやりとした頭で、レブラスの言葉を反芻していた。

美威は美威で気苦労があったと言う話。

手先は器用でも性格が壊滅的に不器用なレブラス。


次回は、甘くないデート。

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