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没落の王女  作者: 津南 優希
第一章 滅びの王国備忘録
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魔法剣の行方

 絶命した王の手から、魔法剣はかき消えるように姿を消した。


「まだ息のある者がいるかもしれん。後始末は念入りにな」


 ビヴォルザークが、配下の兵達に細々と指示を出しているのを横目で見やる。

 腹黒く醜い男だが、紗里真を滅ぼす企てにはよく働いてくれた。この先も私の計画には役に立つだろう。


 だがしかし、悔やまれるのは聖剣のことだ。

 念入りに計画を組んで今日を迎えたというのに、手に入らなかった。

 その事実に、私はきつく拳を握りしめた。

 ふつふつとこみあげる怒りを堪えようとは思わない。私は足下に転がる兵士の骸を、硬い靴の先で蹴り飛ばした。


「くそっ! 何故消えた! もう少しで手に入るところだったのに!」


 王たる証の聖剣。継承者であろう王子もあらかじめ始末してあった。

 思い通りにならないことがこれほどまでに腹立たしいのは、私が大国を滅ぼしてもあの剣を手に入れたいと渇望していたからだ。

 何故消えた? 何がいけなかったというのか……


「おそらく……姫様に継承されたのでは」

「……何?」


 ビヴォルザークの言葉にいぶかしく思って、私は首を回した。


「あんな子供がか? ましてや女ではないか」

「姫様は確かに女で子供ですが、剣術の才能は王子より遙かに秀でておりました。ですから、先にあちらを始末した方が良いと申し上げましたのに」


 分かりきった道理を諭すような態度が気には障ったが、私は先刻までこの場にいた幼い王女の姿を思い出してみた。

 強い意志の光る大きな瞳。人形かと思うほど整った見た目は人間離れしていると言っても良かっただろう。

 あんな可憐な見た目の王女が、聖剣の継承者だと?


「そのようなことは信じがたいが……」

「信じがたくとも、神楽は今、姫様の元にあることでしょう」


 元々聖剣は、ビヴォルザークにとってどうでもいいものなのだろう。

 この男は何かにつけて自分を軽んじることの多かった、いけ好かない大臣二人を始末してやりたかっただけなのだ。

 そしてどんな悪辣(あくらつ)な手段を使っても、(まつりごと)を自分の思うがままに動かしたいだけ。その為に私に跪いた醜い男だ。


「うまいこと逃げられましたな」

「ううむ……いや、まだそう遠くへは行っておらぬだろう。所詮子供の足だ」

「そうですな。動ける気力があるかどうかも怪しいですから、追えば間に合うかもしれません」


 ビヴォルザークの言葉は「まだあきらめるには早い」、そう聞こえた。

 なるほど、もっともだ。在処さえ分かれば、また奪えば良いだけのこと。

 私は途端に愉快な気持ちになって、唇の端をあげた。


「手の空いている者は、即刻逃げた王女の後を追え! 草の根を分けても探し出し、見つけ次第殺せ! 聖剣を私の前に持ってきた者には、多大な褒美を取らせるぞ!」


 これは王令だ。私が大国の王になって初めての。

 ビヴォルザークは玉座の間に倒れたままの賢唱と礼峰、二人の大臣の亡骸を満足そうなまなざしで眺めていた。


 必ず、聖剣は手に入れてやる。何と引き替えにしても、あの完璧な魔道具を手にするのだ。

 そのためには、あの王女を始末する必要がある。


(相手は子供1人。時間の問題か……)


 次の標的に狙いが定まったことで、私の心は少し薙いでいった。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


 私は腹心の侍従を2人連れ、倒れている兵士達の合間を縫い、玉座の間を出た。


 隣国の王をそそのかし、裏で画策し、架空の宗教団体に暴動を起こさせてまで、国を混乱に陥れたこの半年あまり。

 苦労して策略を練ったかいがあった。

 王女が生き延び、魔法剣が手に入らなかったのは予定外だったが、それは私にとって大したことではない。


 むしろあの小さくて美しい姫は、干渉するには気に入っていたのだ。

 手に入らなくて残念というのなら、聖剣よりも姫が手に入らなかったことが心残りと言える。

 もちろん観賞用なので、手に入りさえすれば、生死は問わなかったのだが。

 実に残念だ。


(まあいいでしょう……)


 後は、新しくなるこの国で政治のトップに立ち、采配をふるえればいいだけのことだ。

 金も名誉も手に入れた結果は上々と言えよう。


 目論みの成功した私は、部下を従えて廊下を進んだ。勝利の祝杯をあげるために向かうのは、私専用となった大臣用のバンケットルームが良いか。

 思わず、笑みがこぼれる。


 いつも思うように動かない杖の足が、今日ばかりは軽やかに感じられた。

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