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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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奴隷商の館

「奴隷狩り?」


 元々グラナセアに潜入していたっていう、情報収集部隊のおじさんが、マルコに頷いてみせた。


「そうです若、サウスホールドのはずれに人工的にオアシスを作るって話で、こっちからも密かに強制労働の奴隷を集めてやがるんです。俺らその経路をずっと追ってました」

「強制労働……男手が必要だってことか」

「俺らみたいなロクでもない職業の人間は、体力がある上にいなくなっても一般民みたいに騒がれることもないから、ちょうどよかったんでしょうな」

「じゃあ、うちの奴らも、ソレルのとこの奴らも、その奴隷狩りにあったってことか?」

「ええ、どの奴隷商が関わっているのか……9割方間違いない店も見つけました。行きますか?」

「当然。もうこうなったら親父には事後報告でいいや」


 合流した情報収集部隊は、行方不明の人達の足取りを掴んでいた。

 マルコを追っかけてきたっていう、エアーズ盗賊団の人達と情報収集部隊の2人が合流して、早速その奴隷商に乗り込もうって話になってるみたいなんだけど……


(私達、苦手なのよね……)


 つい昨日も、奴隷の子達を見つけて余計なことをしてしまったばかりだ。

 行方不明の人達を探しに行くのはいいんだけど、他に出会いたくないものに出会うことにならないだろうか。

 飛那ちゃんも、同じ事を考えていそうだと思った。


 私は、話しているマルコの脇腹に目をやった。

 さっき刺されたばかりの傷は完璧に塞いだけど、大きな血管やら内臓やらが傷ついてそこそこ出血したから、あんまり動き回らない方がいいと思う。

 でも諸々考えて、「じゃあもう帰りましょうか」なんてことには、ならないわよねぇ……


「飛那ちゃん、私達も行く?」

「知ってる顔が行方不明だしな……行かないわけにはいかないだろ」


 気が向かなさそうな声で、飛那ちゃんは答えた。


「ちょっと待て! エアーズの!」


 先頭を行こうとするマルコを呼び止めたのは、ソレルだった。

 魔力のロープはまだ健在で、相変わらず地面に転がってる。


「奴隷狩りにあったって……本当に、うちの奴らもそれにやられたのか?!」

「うちの情報収集力、ナメてもらったら困るよ、ソレルの兄さん」


 マルコは立ち止まってソレルを振り返った。


「俺らも……連れて行ってくれ!」

「はい?」

「エアーズのせいにして悪かった……! お前らがやったって、密告してきたヤツを信じた俺らが馬鹿だった! 腹いせにお前らの商品を奪ったりもしたけど……荷は返すから、許してくれ! もうエアーズに手を出したりしない! 俺らも仲間を助けたいんだ……一緒に連れて行ってくれ! 頼む!!」


 いや、あなたさっきマルコのこと刺したわよねえ?

 そんな簡単に拘束解くわけ……


「分かった。いいよ」


 あ、解いちゃうんだ。

 しゅるしゅるっと消えた魔法のロープを見て、私はちょっと複雑だ。


「ちょっとマルコ、いいの? また刺されるかもよ?」


 たまに油断しすぎてる緊張感のない人に、一応忠告しておいてあげようと思う。


「大丈夫だよ美威ちゃん、あいつそんなに悪い奴じゃないと思うし。あと、戦力が増えるのはうれしいなっていう、打算もある」


 ニコニコして言うマルコに、私も飛那ちゃんも呆れずにはいられない。

 打算ねぇ……ついさっき自分を殺そうとした相手を「悪い奴じゃない」って……意味が分からないわ。

 もっと慎重になればいいのに。どこまで軽いのかしら、この人。


 闇市場の通りを歩いていくエアーズ盗賊団の男達に、ソレル盗賊団の行進が加わって、なんかちょっと異様な光景だ。

 通りがかりの人も、何事かって顔で見てるし……


 私達はちょっと離れたところから集団についていった。

 なんとなく嫌な予感がしていたんだけど、案の定、たどり着いたのは昨日の奴隷市場だった。奴隷商の建物が併設してる、かなり規模の大きそうなところだと思ったのよね。

 今日はもう営業終了していて、店の方は静まりかえってたけど、隣の3階建ての建物には煌々と明かりが付いてた。


「正面から奇襲でいいか?」


 マルコが仲間達に尋ねると、みんなそれぞれの武器を手に頷いた。


「じゃあ、入口はぶち壊すってことで……誰か、あそこの扉、風魔法とかで吹き飛ばしてくれる人~?」


 誰も手をあげないけど、魔法士一人もいないのかしら……ていうか、最初っから私を頼ってるわよね、これ。


「マルコ、私を指名するなら指名料もらうわよ」

「え?! 指名はしてません! 有志を募っただけです!」


 指名1回につき、3,000ダーツで手を打とうと思う。

 私の魔力は安くなくってよ。


「エアーズの……お前らの若頭ってのは、いつもこんななのか?」

「ああ、いつもこんなんだ。いいだろう?」


 エアーズのおじさんに尋ねながら、ソレルがなんとも言えない顔でマルコを見ていた。

 盗賊団のカラーが違いすぎるもんね……無理もないわ。


 ドゴオオン! と派手な爆発音を立てて入口の扉を吹き飛ばした私は、なんだか一仕事終えた気分になった。

 うん、あとはみんなに任せて私は救護係にでも徹しよう。


「突っ込めー!」

「黒幕を押さえろ!」

「エアーズ盗賊団に手を出すとどうなるか、思い知らせてやれ!!」

「あ-、人死には出さないでねー」


 最後の台詞はマルコだと思う。

 男達は全員、建物内になだれ込んで行ってしまった。すぐにあちこちで戦闘の音と悲鳴のようなものが聞こえてくる。

 見れば飛那ちゃんは私の隣りに立ったまま、かったるそうにしてた。


「行かないの?」

「どうせ小物で、相手は人間だろ? つまらん」


 まあ多分、私と同じでこの建物に入りたくもないんだろうけど。

 私達はしばらくの間、そこで立ってた。

 そうしたら、2階の窓ガラスが音を立てて割れて、そこから勢いよく男が飛び出してきた。いや、飛び出して来たっていうか、放り出されたっていうか……


 飛那ちゃんは地面を蹴ると、空中でその人の首の後ろを掴んで回収した。

 着地と同時にやや乱暴に、その体を地面に投げ出す。まあ……あそこから落ちて地面に激突するよかマシだと思うけど。もう少し優しく扱ってあげればいいのに。


 そう思ったけど、倒れてる顔を見たら昨日の人攫い男だった。

 うん、同情の余地なし!


「? おい、今何か……変な気配が……」


 飛那ちゃんがそう言って首を回した瞬間、割れて穴の開いた窓から、2つの黒い影が飛び出して来た。


 愛剣を手にした飛那ちゃんが、一歩前に出る。黒い影は降りたった地面を即座に蹴って、私達に飛びかかってきた。

 肉を切り裂く音が聞こえたと思ったら、犬っぽい動物が2頭、砂煙をあげてその場に落ちてくる。


「ヘルゲル……砂漠の狼ね。番犬代わりに飼ってたのかしら?」

「おかしいな……こんなヤツの気配じゃなかったんだけど……美威、お前はここで待ってろ。こんなの飼ってるなら、私は中を手伝いに……」


 飛那ちゃんがそこまで言いかけた時、ガシャン! と奴隷市場の建物の方で、何かがシャッターにぶつかるような音がした。

 あれ? そっちには、誰も入っていってないよね?


 ガシャン! ガシャン!


 音はなおも立て続けに聞こえてくる。市場正面のシャッターが外側に向けて、妙な形にへこんでいくのが見えた。

 何かが、中から体当たりしてるみたい……


「な、何なの?」


 ベコベコになったシャッターが、大きな音を立てて壁から剥がれ落ちる。

 それを踏み越えて中から出て来たのは、見たことのある形だった。


「リザードマン……よね?」


 砂漠に住む生き物としてはかなり大きい部類に入る、異形とは違うれっきとした、生き物。

 唾液と爪に毒があって、とにかく力が強くてすばしっこい厄介な相手だ。

 見た目はタダのでかごっついトカゲなんだけど……私はこのグロテスクなフォルムが苦手だ。特に唾液のしたたる紫の口からは目を背けたくなる。


「なんでこんなのが町中にいるんだ?」

「町中っていうか……今明らかに、この建物の中から出て来たわよね?」

「まさか、こいつも商品だとか言わないよな……?」


 首に鉄製の首輪をつけたリザードマンは、ギラギラした赤い目を私達に向けた。

 げげっ、私はおいしくないからね……!


 飛那ちゃんの攻撃に巻き込まれないように、私は走って後ろに逃げた。

 普通の人ならリザードマンはかなり危ない敵だけど、私の相棒にとってはなんら問題のない相手なので、任せておけばいい。


「……ちょうどいい、振り上げた剣をどこに下ろそうかと思ってたとこだ」


 飛那ちゃんは青く光る長剣を構えると、綺麗な笑みを浮かべた。

何かにつけて金にあこぎな美威。マルコからは基本搾取です。

盗賊団編、ちょっと長くなってますが、残すところ後4話の予定です。どうぞおつきあいください。


次回、「真の敵は……」。

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