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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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盗賊一騎討ち

「あれ? ちょっと待って……なんか、怒ってらっしゃる?」


 目の前で剣を構えたソレルを見て、マルコは「怒りたいのはこっちなんだけど」と、首をかしげた。

 お前、そんな場合じゃないだろう……


「抜剣しろよ。殺されるぞ」

「いや、俺、話し合いに来たはず……じゃなかった?」

「無理だろ、最初から」


 なんか知らないけど、向こうも怒ってるっぽいし。今更だ。


「お前、一騎討ち挑まれてるみたいだけど、どうするんだ?」

「どうするって……これ、マジなやつですか?」

「マジなやつだな。負けたら死ぬぞ」


 私が表情を変えずに言うと、美威も横でこくこくと頷いた。

 マルコは仕方なさそうな顔で頭をかくと、両腰にぶら下げていた短刀を抜いた。はじめて知ったけど、マルコって二刀流だったんだな。


「代わってやってもいいぞ。護衛だから」

「……いや」


 マルコは私の申し出を、軽く首を振って断った。


「飛那姫ちゃんは手を出さないで。俺をご指名のようなので……ね? ソレルの兄さん」

「緊張感のない奴だな……女どもと別れの挨拶は済んだか?」


 相手の技量は分からなかったけど、マルコが一騎討ちを受けると言った以上、私に手伝えることはないだろう。

 後ろから美威が、マルコの肩にポン、と手を乗せた。


「じゃ、頑張ってね。マルコ」


 防御系の魔法をかけたみたいだ。まあこれで、即死の確率は大幅に減ったな。

 マルコがちょっとだけ唇の端をあげて、「ラジャー」と言った。


「くたばれエアーズ!」


 空を斬る高い笛のような音とともに、ソレルの湾刀がマルコに襲いかかる。

 私は美威を掴んで、後ろに飛び退いた。


 マルコの短刀が受けた攻撃は、高く鋭い金属の音を響かせた。

 ソレルの攻撃は、剣の形のせいで距離感が分かりづらそうだ。それに、一見めちゃくちゃに振り回しているようにも見えるけど、速い。

 マルコの得物の方がぐっと短いし、あれを上回る動きで間合いに入り込むのは大変だろう。

 打ち込まれる斬撃を短刀の刃で受け流しながら、マルコは隙を狙ってるように見えた。


「へぇ、マルコって戦えたのね……」


 美威がもの珍しいものを見るような顔で言った。

 確かに、こいつのガチの戦闘なんて、初かも……でも本当に、性格的に人刺したり出来るのかどうか怪しいんだよな、マルコって……


 私の想像通り、マルコは牽制以外でなかなか自分から手を出さなかった。あ、今そこで突いておけば致命傷与えられたのに、みたいな場面がいくつかあった。

 そう見える時点でおそらく、ソレルの頭よりマルコの方が数段強い。


(意外だ……)


 無理矢理手合わせに付き合わせてる時も、すばしっこいし、結構いい動きしてるとは思ってたけど。いつでも本気で向かってこないから、正直実力はよく分からなかったんだよな。


「この、くそ……!」


 攻撃が当たらないことにイラついて、ソレルが大ぶりに薙ぎ払った剣を、マルコは見逃さなかった。

 受けるんじゃなくて、避けた上で、相手の刃を両側から短剣で挟み込む。

 ぐりん、と回転させるようにねじったら、ソレルの手からもぎ取られる形で、妙な形の剣は宙を舞った。


「なっ……!」


 くるくる回転して地面に突き刺さった剣を、ソレルの目が追った。


「……おっと、動かないで」


 その喉元にぴたりと、マルコが短剣を突きつけた。

 勝負あったな。


「このまま質問に答えてもらおうかな……俺の仲間、どこやった?」

「何……?!」


 ソレルは動きを止めたまま、いぶかしげに表情を歪めた。


「ボス!」

「てめえ、エアーズ!」


 周りで戦いの行方を見守っていた盗賊団の男達が、それぞれに武器を構えて殺気立った。

 それを横目に見た私も、軽く身構える。


「往生際が悪いぞ、ソレル。もうとぼけるなよ……男二人、女二人、攫ったのお前らだろ?!」


 語気荒く問いかけたマルコの言葉に、ソレルは明らかに驚いた表情を作った。

 しかしすぐに、怒りのこもった目でマルコを睨み返す。


「ふざけるな……! それはこっちの台詞だ! てめえらが……エアーズがやったって、見た人間がいるんだぞ?!」

「……何?」

「俺らの仲間5人、攫ったのてめえらだろうが!」


 逆に叫ばれて、今度はマルコが目を丸くした。

 なんか、変な話になってきたな。


「ちょっと待て……え? なんの話だ?」

「先月から5人! 闇市まで入り込んで来て、てめえんとこの人間があいつらを消したって……知ってるんだぞ!」

「いや待てよ、だからなんの話だ? 俺らが、お前んとこの人間を攫ったってことか?」

「しらばっくれる気か?! 許さねえぞてめえ!」

「ばっくれてねえよ!!」


 訳が分からないという顔で、マルコが少しだけ、短剣を握る手を緩めたように見えた。

 馬鹿、油断するな、そう言おうと思った瞬間。

 耳に鈍い音が聞こえた気がした。


「うっ……!」

「仲間を返しやがれ!」


 いつの間にか、ソレルの手には小さい短剣が握られていた。

 短い刀身に赤い色が飛んだのと同時に、マルコの体がぐらりと横に揺れる。


「マルコ!」


 馬鹿! まともに食らうヤツがあるか……!

 マルコはよろけながらも、二撃目が来る前にソレルの腹に膝蹴りを食らわせた。

 蹴られた勢いで転がると、ソレルは背中を地面に打ち付けた。


「エアーズっ! くたばれっ!」

「殺せ!」

「やっちまえ!!」


 周囲で観戦していただけの男達が、その場に片膝をついたマルコに一斉に武器を振り上げる。


 キン! という硬質な音とともに神楽を顕現した私は、一足で攻撃の前に躍り出た。

 飛びかかってきた男達の攻撃を、長剣の刃で一度に受けて、はじき返す。


「うわっ!」

「ぐあっ!」


 打ち込んできたはずの男達はきれいにのけぞって、全員その場に倒れ込んだ。

 私は剣気を放つ長剣を一振りして、うずくまっているマルコの隣に立った。


「……生きたまま斬り刻まれたいヤツは、かかってこい」


 青く光らせた神楽は、満月近い月明かりの下で幻想的に揺らめいている。

 更に襲いかかろうとしていた男達は、全員、息を飲んで足を止めた。


「マルコ、生きてるか?」

「うわぁ、最強の護衛が登場だあ……」


 苦い笑いで振り返ったマルコは「いてて……」とうめきながら立ち上がった。


「美威ちゃんのおかげで、なんとか、死なずに済みそうです……」

「馬鹿かお前、油断しすぎなんだよ」


 美威は戦闘の輪から離脱してたけど、心配そうにこっちを見てた。

 まったく……このコソ泥、世話が焼けるやつだよな。

 こいつらはこいつらで、完全にマルコを殺す気らしいし。


(じゃあ少し位、自分たちの血が飛んでも文句はないよな?)


 ちょっと頭に来た私は、この場の全員相手に物騒な愛剣を使うことを決めた。


「若ーっ!!!」


 その時、通りの向こうからそんな叫び声が聞こえてきた。

 血相変えた男達が、武器を片手に走り込んでくる。このうるささはどう考えても、エアーズ盗賊団の人間だろう。


「若! 助太刀します!」

「お前ら、うちの若頭に何しやがった?!」


 私が剣を振るうまでもなく、ドタバタ周りで戦闘が始まった。

 15対9くらいか……エアーズの方が数が少ないけど、それでもソレルの若い男達より腕っ節の強い猛者揃いみたいだ。

 マルコの腕を引っ張って乱闘から少し離れた私は、エアーズの男達がソレル盗賊団を制圧していくのをげんなりした気分で見ていた。

 私の出番、もう無さそうだな……


「おいマルコ、大丈夫か?」


 引っ張ってたマルコが肩にもたれかかってきたところで、私は美威の居る場所までたどり着いた。


「俺……もうダメかも」

「何言ってんだ、しっかりしろよ。おい美威、こいつ治してやってくれ」

「死ぬなら、せめて飛那姫ちゃんの胸の中で死にたい……あ、やっぱり膝枕のがいいかな……」

「いや、もう治さなくていいやコイツ。転がしとけ」


 後ろからしがみついてきたマルコを引きはがすと、私は足払いしてニヤけた顔をその場に転がした。


「いだーっ!」

「飛那ちゃん……さすがにちょっとひどいと思う」


 美威が困り顔で軽く睨んできたけど、知ったことか。

 目の前に最強の移動救急箱がいるんだ。どうせ死にゃあしない。


 マルコはすぐさま、美威の回復魔法で傷をふさがれた。そこそこ出血したみたいで、脇腹から太もものあたりまで流血が服を赤く染めていた。

 痛そうだけど、同情なんかしないからなっ。


「結局、こうなっちゃったな……やべぇ、親父になんて言おう……」


 周囲で始まっている乱闘を見て、マルコが頭を抱えた。

 もう考えるだけ無駄じゃないか?


「ひとまず、これ、終わらせよう」


 マルコは力なくそう言うと、ドタバタやってる男達に手のひらを向けた。

 そこからしゅるしゅるっと白いロープが伸びたように見えたら、数秒後には一人残らず、マルコの魔力で作ったロープでクルクル巻きになっていた。


「なんだこれっ?!」

「エアーズのヤツの能力かっ?!」


 みの虫みたいに転がったソレル盗賊団の男達が、殺気立った目で怒鳴ってる。

 マルコはぽりぽり頭をかきながら辺りを見回して、ほっと息をついた。


「オーケー、まだ誰も死んでないね?」

「こういう時便利だよな、お前の特殊能力」


 魔力で編んだロープ。規模としては美威の鳥カゴの方がもっとすごいけど、どっちも私にはマネ出来ない。

 魔力操作系って、地味だけど役に立つ能力だと思う。


 他の男達と同じように簀巻(すま)き状態になったソレルに近寄って、マルコはしゃがみ込んだ。


「ソレル……俺ら、もしかしたら、どっかで間違ってるかもしれない」

「何だと?」

「俺らはおたくの人間を攫ったりしてないし、そんなことがあったなんて話も知らないよ」

「……ふざけたこと言いやがって。お前んとこの奴がやったって、見た人間がいるんだぞ?」

「それ、おたくの人間?」

「……いや」

「じゃあ多分、騙されてるよ」


 目を瞠ったソレルに苦く笑ってみせると、マルコは立ち上がって闇市の奥まった方角に首を回した。


「お互い、真犯人を見つけないとね」


性格的に戦闘に向かない、マルコソ泥。一応の勝利の後、新事実発覚。

親父に怒られそうな事態になり、内心ビクビクしてます。


次回、盗賊団編も終盤に入ります。今度こそ、最初から殴り込みです。

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