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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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ソレル盗賊団に行こう

 グラナセアのあたりは、夜になっても極端に冷え込むことがない。

 それでも日中と比べればやっぱり肌寒く感じる。流行りの服飾店を出たところで、私は買ったばかりの上着を肩から羽織った。


「砂漠って、なんで夜になると寒くなるんだろうなー」

「まず水が少ないし、一年中晴れてて雲がないし、太陽の光がなくなると地表の熱が逃げていきやすいのよね。放射冷却よ。分かる?」

「いや、難しいことはいい……」


 何気なく呟いた言葉に、美威がよく分からないことを説明してくれようとし始めたので、断っておくことにする。

 もうすっかり暗いし、そろそろ買い物も終わりにして、夕メシでも食べて帰るかな……

 アジトの場所は、美威がレブラスからもらった高性能なコンパスに記録されているから、夜になっても帰れるって話だ。


 街灯が灯った通りでおいしい店を探し歩いていた私は、向こうから走ってくる一人の男に気がついた。

 あのツンツンした金髪、もしかしてマルコじゃないか?


「飛那姫ちゃん! 美威ちゃん!」

「あら、マルコじゃない」


 やっぱり。

 私は息を切らして駆け寄ってきたマルコに、いつものヘラヘラした笑顔がないことに気がついた。

 それに左右の腰に珍しく、短刀を帯剣してる。


「なんか、あったのか?」

「……リザが」


 肩で息をしながら、マルコが答えた。こいつ、一体どこからそんな全力で走って来たんだ?


「リザが、いなくなったんだ……! 飛那姫ちゃん達、どっかで見かけなかった……?!」

「えっ? リザちゃんが?」

「見かけなかったかって……この城下町にいるってことか?」

「そう、みたいなんだ……!」


 マルコの話では、リザは今日、買い出しのためにファミリーの男達と大国に来る予定だったらしい。

 でも今は心配な時期だし、危ないからとマルコはそれを止めたそうだ。リザは楽しみにしてた買い物をあきらめきれなかったらしく、こっそり馬車の荷台に隠れて、城下町に入ったんじゃないかってことなんだけど……


「荷台にって……検問で見つかるだろ?」

「俺ら、基本スルーなんだ。貴族相手に運び屋とかやってるから……」

「もう夜なのに、大丈夫かしら。帰りどうするつもりだったのかしらね」

「分からない……」

「お前、得意の魔力追跡で追えばいいんじゃないのか?」

「ダメなんだ、リザのヤツ魔力なしで……こんな人の多いところであんなに小さい気配、追えるわけがない」


 私の言葉に、マルコは苦く答えた。

 今朝、談話室で楽しそうに笑っていた赤髪の女の子の顔を思い出したら、なんだか心配になってきた。

 今日この町を歩いていた時も、物騒な輩がちらほらいた。なにかトラブルに巻き込まれてなきゃいいけど……


「今日はソレルの奴らが、かなりうろついてたらしいんだ。リザは俺にくっついて何度かここに来てるから、もしかしたら、顔を覚えられてるんじゃないかって思って……」

「攫われたりって、ことか?」

「……可能性の話だけどね」


 余裕のない顔を見て、私は少し考えた。

 他にも行方不明になってる仲間がいるって話だし、小さい頃から知ってるリザがいなくなって、マルコは大分切羽詰まってるように見える。 

 ソレル盗賊団て、このグラナセアにいるんだよな? そいつらが一番、怪しいってことなんだよな??


「……行ってみるか? その、盗賊団とやらに」


 私はそう、提案した。


「私達が護衛としてついて行ってやるから、様子だけ見に行くってどうだ?」

「え? ソレルに? 俺が顔とか出したらタダじゃすまないと思うんですけど……」

「だから、護衛」

「飛那ちゃん、護衛としては最強だと思うけど……様子見だけですまなさそうなのは気のせいかしら?」


 私の言葉に、美威が渋い顔で口を挟んできた。

 そうか、確かシルビオが「ソレルにはまだ手を出すな」って言ってたもんな。


「でもまあ、思い当たるのって、そこくらいなんだろ? どうする?」

「そりゃ、今すぐにでも殴り込みに行きたい気持ちはあるけど……でも俺、飛那姫ちゃん達に怪我とかされても困るよ??」

「怪我? 誰に向かって言ってるんだ?」


 鼻で笑ってみせると、マルコは少しだけいつものニヤけ顔に戻った。

 うん、それでよし。そうやってヘラヘラ余裕かましててくれないと、こっちも調子狂うからな。


「ありがとう飛那姫ちゃん、うん、様子見に行くだけ。いわゆる話し合いだねっ」

「そうそう、話し合い」

「……それ絶対ウソよね、飛那ちゃん」


 額に手をやって、わざとらしくため息をつく美威を見ないフリで、私はポン、とマルコの背中を叩いた。


「大丈夫だよ、きっと無事でいる」

「飛那姫ちゃん……優しい。抱きしめてもいいですか?」

「いいわけないだろう。三枚に(おろ)すぞ? さっさと案内しろ」


 私は今度は力を込めて、マルコの背中をバシンと叩いた。

 痛たたた、と言いながら、うれしそうにマルコが早足で歩き出す。

 私と美威は、その後を小走りで追いかけた。


 マルコは富裕民達の住む北側に向かっているのかと思ったら、アーケードをくぐって、陰気な場所に入り込んでいった。

 ここは確か、昨日の奴隷市場があったところの近くだ。


(盗賊団の住処も、闇市場にあるってことか……)


 最近知り合いになった盗賊団が、あまりにも明るい雰囲気のところなんで忘れてたけど、盗賊って元々闇家業だしな。本来はこういう場所が似合いなやつらだろう。


 美威は早々に息が切れたらしく、後ろから私の肩に掴まって浮遊しながらくっついてきた。

 推進力私持ちか。どんだけ省エネだよ……せめて自分で飛べ。


 前を走ってるマルコのスピードがだんだん落ちて歩き始めた頃、酒場のような、金貸しのような、一軒の店の前にたどり着いた。

 入口の横に、黒服の若い男が二人、座り込んでる。


 男達は、近づいてくるマルコの姿を見つけるなり、人相のよくない顔をゆがめて立ち上がった。


「どうもこんばんは。えー、ソレル盗賊団さんのお宅はこちらで間違いないですか?」


 いつもののんきな声で尋ねるマルコに男二人は顔を見合わせると、さっと一人が中に入っていった。

 もう一人は、腰から剣を抜いた。


「お前、エアーズのとこのせがれじゃねえか? いきなり何の用だ?」

「ちょっとお尋ねしたいことがあって来たんですけど、うちの子がお邪魔してたり、しませんかね?」

「は? 何言ってんだか分かんねえな……死にに来たのか?」


 店の前の階段を下りてきた男は、マルコの顔に向かって剣を突きだした。

 後ろの入口が勢いよく開いて、バラバラと男達が出てくる。全員、手に得物を握っていた。


「話し合い……に、来たんだけどなー?」


 殺気立つ男達に少し顔をひきつらせたマルコが、やけくそっぽく笑った。

 いやー……この感じだと、たぶん、無理じゃね?

 美威のため息がすぐ後ろから聞こえた。


「エアーズのとこの、若頭だって?」


 入口の扉を開けて、中からまた男が一人出て来た。

 ひょろっとした盗賊っぽい体つきに浅黒い肌、ちょっと中性的な感じのする、若い男だ。


「正気かよお前、一人で俺のシマに何の用だ?」


 ソレルの頭だよ、とマルコが私に耳打ちした。

 こいつが? 随分と若いな……マルコとあんまり変わらないんじゃないか?

 ていうか、「一人で」って、私と美威が完全に頭数に入ってないじゃないか。腹立つな……


「別に殴り込みに来たんじゃないよ。ちょっと聞きたいことがあって来た」

「聞きたいこと? なんだ?」

「うちのヤツが……おたくんとこにお邪魔してるんじゃないかと思って、確認に」

「お前のとこの人間が? なんの話だ……」


 眉をひそめて答えるソレルの若い頭は、本当に何も知らなさそうに見えた。

 でも相手は盗賊。嘘八百も商売のうちだもんな。


「俺はソレルだ、お前は、確かマルコとか言ったか」

「ああ」

「マルコ、俺もお前らエアーズに聞きたいことがある」

「?」


 ソレルと名乗った男は少し目を細めて、険しい表情になった。


「5人は……もう始末済みだってことで、いいのか?」

「……何?」

「命があるのか、ないのかだけ答えろ」

「いや、ちょっと待ってくれる? おたくが何言ってんだか、俺にはよく分かんないんだけど……」

「しらばっくれるつもりなら、それでもいい……だが、命はここに置いていってもらうぞ」


 そう言うと、ソレルは背後から一振りの曲がった剣を取り出した。

 刃身が極端に湾曲してる、鎌のような形をした湾刀だ。


「お前達は手を出すな。こいつの首は俺が獲る」


 月明かりに光る妙な形の剣を手に、若い盗賊団の頭は静かに怒った目で、マルコに狙いを定めていた。


無理に理由付けて敵対する盗賊団にやってきましたが、話し合いとか無理でした。

最強の護衛付きなので、たぶん何とかなるでしょう。


次回は、マルコソ泥が初(?)戦闘。

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