表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
145/251

行方不明の幼なじみ

 ムカつく話し合いの翌日、目覚めも悪く階段を下りた俺は、2階にある談話室の入口をくぐった。

 そこに飛那姫ちゃんがいる、と感じたからなんだけど……


「マルコ! おはよう!」


 正面のソファーには、ご機嫌なリザの顔があった。隣にはなんと、飛那姫ちゃんと美威ちゃんが座ってる。

 これ、どういう構図だ?


「飛那姫ちゃん、なんでリザと一緒にいるの……?」


 思わず嫌そうな声が出てしまった。

 リザはちょっとむっとして、俺を睨んできた。


「あんたがいない間、どこで何してたのか、旅の話を聞かせてもらってたんだよ。悪い?」

「悪いっていうか……お前、飛那姫ちゃんになんか変なことしてないだろうな?」

「なにそれ? するわけないじゃん!」


 俺がちょっと見ない間に、なぜだか3人は仲良くなっていた。

 経緯は分からないけど、飛那姫ちゃんが思い込みの激しいリザに嫌がらせとかされてないみたいで良かった。


「マルコ、顔色が良くないな。寝れなかったのか?」


 飛那姫ちゃんが俺の顔を見て、そう尋ねてきた。

 寝れなかったのは事実なんだけど、途端にフワフワした気分になる。


「飛那姫ちゃん、俺のこと心配してくれてるの?!」

「いや、全然」

「そ、即答?」


 絶対心配してくれたはずなのに、素直じゃないなあ……


「俺、朝メシまだなんだ。また後でね」


 俺は遅い朝食を取るために、談話室を出た。なぜだか、後ろからリザがついてくる。


「リザ、なんか用か?」

「べっつにー」


 リザは、半年経ったのに全然変わってないように見えた。

 適当に肩の力を抜いて生きてる俺と違って、何に付けても手を抜くことと無縁なリザは、はっきり言って不器用な子だ。

 いつでも何事にも全力って、疲れそうだなぁと感じる反面、そんなリザに感心させられることもある。

 小さい頃から知ってるし、かわいい妹分ではあるんだけど……何故か、ずっと俺の嫁になるとか言ってるんだよなぁ。

 そういう台詞は、せめてもうちょっと女性らしい凹凸がついてからにして欲しい。


「マルコ、今日は何するの?」

「そうだなぁ、久しぶりに引きこもってゲームするって気分でもないし。東側の見張り台を建て直すって言ってたの、手伝うつもりだよ」

「ふーん、あたしはグラナセアに行くよ。いいでしょう?」

「え?」


 いつもうるさくてチョロチョロしてて、隠密行動に全く向かないリザは、大国へ行くことなんて滅多にない。なんで今日に限って?

 

「ほら、買い出し部隊が行方不明だろ? みんな仕事があるから、手の空いてるあたしがお手伝いで一緒に行くんだー」


 ちょっと得意げなリザを見て、俺はなんとなく嫌な予感がした。

 こんなうるさいヤツを連れて行ったら、普通の買い出しはともかくとして、極秘の仕入れなんて出来るわけがない。

 それに、騒いで目をつけられたりしたら困る。特に今は。


「ソレルの奴らの件、聞いてるだろ? お前みたいな弱っちいのがついてって、なんかあったら足手まといになるぞ。やめておけ」

「ええ?! やだよ! 久しぶりに自分の服とかも見てきたいもん!」

「服なんてどうでもいいじゃんか。どうせ育ってないんだから……」

「どうでもよくないよ! そ、育ってないとか言うな! これでも少しは成長してるんだからな!」


 どの辺りが成長したんだ。

 思わず呆れた目になってしまった俺を、リザは悔しそうに睨んだ。


「服もみんなの食料も、あたしが買いに行くよ!」

「ダメだ。俺、ウーゴに言ってくる、お前を行かせるのやめろって」


 そうだ、そうしよう。多分、それがいい。


「何それひどいよ!」

「とにかく、今日はやめとけ」

「やだっ!」

「リザ、俺イジワルで言ってるんじゃないぞ?」

「でも、やだっ! やだやだやだ!」

「リザ!」


 朝からイライラしてる俺は、思わず声が荒くなってしまった。

 ちょっとびくっとしたリザを見て、すぐに反省する。なるべく静かな声で、俺は続けた。


「俺が、やめとけって言ってるんだ。行くのは腕に覚えのあるやつらだけでいい」

「……」

「ウーゴに言っておく。今日は、ここでおとなしくしてなよ」

「……」

「返事は?」

「……分かった」

「いい子だ」


 うつむいたまま呟いたリザの頭を撫でてやってから、俺はもう一度上の階にいるはずのウーゴのところへ戻っていった。


 ソレル盗賊団はこの何年かで勢力を拡大してきた、寄せ集めの盗賊団だ。

 グラナセアや近隣の小国で仕事をしているらしいけど、今まで大きなトラブルはなかった。


 エアーズ盗賊団の稼ぎは、基本的に密輸が6割、ハンター業が2割の比重だ。

 ソレルと違って、純粋な盗賊行為は1~2割。運んでる商品を奪われるのは、本来ならかなり痛手になるので、そこを突いてくるってことは、やつらも本気で俺らの邪魔をしたいってことだろう。


 グラナセアに近いここで、俺らが長年盗賊稼業なんてことをやってられるのは、大国とつながりがあるせいだ。貴族や、時に王族近辺からも依頼される危ない荷物の運び人なんかもやっているから、目こぼしされているって訳なんだけど……

 ソレル盗賊団は、そんな古株の俺らが気に入らないらしい。

 以前から町で顔を合わせる度、小さい諍いはあった。

 あっちの頭も仲間もみんな若いし、血の気が多いんだろうぐらいにしか思ってなかったのに……


(仲間を攫ったのは、さすがに許せないよな)


 大国に買い出しに行ったまま行方知らずの3人は、俺だってよく知ってるやつらだ。

 早く見つかって欲しいし、今すぐにでも捜しに行きたい。

 なのに親父のヤロウは……くそっ、本当腹が立つ。


 仕事部屋にいたウーゴに、リザの件を手短に伝えて、俺は食堂にまた戻った。

 リザはもうそこにも談話室にもいなかった。


「あら、もう朝ご飯食べ終わったの? マルコ」


 美威ちゃんが、飲み終わったお茶の紙コップを片付けているところだった。

 飛那姫ちゃんはもう部屋に帰っていて、いないみたいだ。


「今日は仕事もないみたいだし、私達これからグラナセアに行ってくるね」

「え? 美威ちゃん達も?」

「うん、魔道具屋に行きたいの。マルコも行く?」

「俺は今日はここで仕事するつもりだけど……グラナセアは闇市が結構栄えてるから、あんまり変なとこに迷い込まないでね。特に飛那姫ちゃんが」

「あー……そうね、気をつける」


 なんとなく歯切れ悪く、美威ちゃんが答えた。

 まさかもう、なんかあったとか?


 

 エアーズ盗賊団のアジトを囲む岩山には、見張り台や見張り小屋がいくつかある。

 紫外線や砂風に晒されて痛むから、定期的に作り替える必要があるんだけど、昨日そのうちの一つを解体したとこらしい。

 新しく見張り台を建てる場所に向かったら、下っ端で木工が得意な見習いが、頑丈な骨組みを作り始めているところだった。


「おーい、俺も手伝うよ」

「若、来てくれたんスね! 助かる!」


 声をかけたら、若い盗賊見習いはうれしそうに手を振った。手先が器用な俺は、こういうことには重宝されてるんだよね。


 二人で作業すれば、一人よりずっと早い。いい感じに作業は進んでいった。


「若、なんか大工仕事上達してませんか?」

「……うーん、そうかも」


 気付かないうちに、本業とは関係の無い技術が向上してた。

 紗里真で色々やらされてたからだな……


 高さが20メートル以上ある高い見張り台は、日が沈む頃には完成した。

 行方不明の仲間を思うとモヤモヤしたけど、これ作ってたおかげでちょっと気が紛れた。


 俺たちは満足して見張り台を下りると、お互いをねぎらいながらアジトの中心部に戻った。

 ん? なんか、厩舎の前に人だかりが出来てるな。


「なんかあったの?」


 人だかりから少し離れたところにいた、リザの友達二人を見つけて、俺は声をかけた。


「あっ、若」

「買い出しの男達が帰ってきたんだけど……」


 大国に買い出しに行ったやつらは、無事に仕事を終えて戻ってきたらしい。


「そっか、帰ってきたか。良かった」

「リザが、どこにもいないの」

「……え?」


 意味が分からない。


「リザは、買い出しに行かなかったよね? 俺、行かなくていいって言ったんだけど……」

「それ、私達知らなかったの……でも、きっとついて行ったんだと思う」

「何だって?」

「買い出し部隊が出て行った後、リザもいなくなったから……たぶん」


 心配そうにしてるリザよりまだ小さい女の子二人を置いて、俺は人だかりの中に入っていった。


「ウーゴ、どういうことだ? 買い出しにリザがついて行ったって……!」

「若か」


 帰ってきた買い出しの男達2人と一緒にいるウーゴが、俺を振り返った。


「確かじゃないが、荷台に潜り込んでついて行っちまったらしい。こいつらの一人が、グラナセアでリザらしい娘を見かけたって言ってる」

「……マジか」

「見間違いかと思ったんだけど、あれは確かにリザだったと思う」


 買い出しの男達が頷きながら俺に言った。


「今日は、ソレルのやつらが町のあちこちにいやがったから……何事もなけりゃいいんだが」


 ここでおとなしくしてろって……分かったって言ったのに、あいつ……

 俺は小さく舌打ちした。


「すぐ捜しに行こう! 俺が行く!」

「マルコ、行くのはかまわねえが……先走って厄介ごとを起こすなよ」


 ウーゴが釘を刺すように言った。


「分かってるよ!」


 俺は1頭だけ鞍がついたままになっていた砂漠馬に飛び乗ると、手綱を取った。


「若! 俺たちも行きます!」


 馬車から荷物を下ろし終わった男達が、馬に鞍を付け始めた。


「俺先に行くから! みんなは後から来て!!」


 それだけ言って、俺は馬の腹を蹴った。

 そう言えば、飛那姫ちゃん達は帰っていないみたいだった……まだグラナセアにいるんだろうか。


 魔力なしで気配の薄いリザを見つけるのは、飛那姫ちゃんを見つけるのと違って骨が折れるはずだ。

 行方不明、の文字が頭に浮かんで、俺はかぶりを振った。


(何かある前に、絶対見つけてやる……!)


 日が落ちて肌寒くなってきた風にさらされながら、俺は大国を目指して馬を走らせていった。


行方不明者が増えました。言うことを聞かなかったリザに、胃の痛いマルコです。

飛那姫と美威はまだお買い物中。


次回は、ふたたびグラナセアの町からお届けします。

明日火曜日は、所用のためお休みをいただきますので、更新は明後日以降になります。

いつもご愛読、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ