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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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盗賊団会議

 夕食の後、私と美威はマルコの父、シルビオに呼ばれた。

 仲間内の話し合いの場に、参加して欲しいってことらしい。


 外にある集会場、大きいテントの中には円卓がひとつあった。今はシルビオ、ウーゴ、マルコと私達の5人が座っている。

 その周りを10人くらいの男達が取り囲んで、絶賛会議中だ。


 もうかれこれ20分ほどしゃべってるので、ここまでのみんなの話を整理しようと思う。

 話し合いは、グラナセアの貧民街を拠点とした、ソレル盗賊団とのトラブルに焦点がおかれていた。


 大国に買い出しに行ったファミリーの男2人と、女1人が行方不明になっている件。

 港から運搬中の商品(ブツ)(闇商品だな)が、2度襲撃にあって奪われている件。

 この2つが、どうやらソレル盗賊団の仕業らしい。

 

「ソレルのやつら、つい先日の2度目は馬車ごと強奪していきやがったんだ」

「行方不明のやつらだって、あいつらが攫ったに違いないんだ。頭、やっぱりこっちから殴りこみに行くべきだと思うんですよ」

「血の気の多い若いもんがうるさいんです、早く潰しちまえって」


 みんなの話を聞きながら、シルビオは目を閉じて黙ったまま座っていた。

 参謀のウーゴが、それを横目で見てから口を開く。


「ブツの強奪はソレルの仕業で間違いないが、行方不明の件はまだそうと決まったわけじゃない。そもそも奪うのも俺たちの仕事なら、奪われないようにするのも仕事のうちだろう? 奇襲とはいえ、2度も積み荷を持って行かれたふがいないバカ共は誰だ?」

「そ、それは……」

「次に襲ってきたら返り討ちにすればいいだけの話だ。幸いにも奪われた被害額は大したことない。てめえらの落ち度を余所に転嫁するな。しっかり反省して、改善しろ。行方知れずになった奴らの件は、まだグラナセアに送り込んでる部隊が調べてる。現時点でソレルが関わってるかどうかはグレーだ。調べが終わるまではいらん火種を増やすな」


 ウーゴの言葉に、周りの男達は何か言いたそうにしながらも黙ってしまった。

 代わりに、それまで黙っていたマルコが口を開いた。


「……行方不明になってる買い出し部隊3人は、戦闘力なんてほとんどないやつらじゃないか」

「そうだが?」

 

 それがどうした、とウーゴがマルコに向き直った。


「早く、助けに行かなくていいのか? いや、そもそも捕まってるのか、もうやられちまったのかすら分からないってことなのか?」

「残念だが、攫われたり殺されたりの形跡が見つかってねえ……殴りこみをかけたところで、そこに助けるべき人間がいなかったら笑えないだろ?」

「そりゃまあ、そうだろうけど。もし……明日になっても、明後日になってもソレルの奴らがやったかどうかはっきりしないってなったら、こっちから仕掛けるのか?」


 マルコはそう、シルビオの方を向いて問いかけた。

 黙っていたシルビオが瞼をあけて、伏せ目がちのまま「さあな」と答えた。


「今の時点では、まだ分からん」

「分からんてどういうことだよ? 親父いつからそんな腑抜けになったんだ? 仲間が敵対する盗賊団に攫われたかもしれないんだろ? なんでそんな悠長に構えてるんだよ?!」

「うるせえぞマルコ、わめくなら出て行け。話し合いの出来ない奴はこの場にはいらん」


 シルビオはそう言うと、鋭い目で正面に座るマルコを睨み付けた。

 マルコはぐっと悔しそうな顔になったけど、それでもひるまずに続けた。


「クソ親父こそ、さっきっからほとんどだんまりじゃねえか……これ、なんの為の話し合いなんだよ?!」

「野郎共の言いたいことを聞く為と、まだ何か動くことはねえから、おとなしくしてろって釘指す為だが?」

「何言ってやがんだ……こうしてる間に、もし、ソレルに攫われた奴らに何かあったら、どうするつもりなんだ?!」


 周囲に立っている男達の顔を見るに、彼らの心境はマルコと同じようだった。

 マルコの言っていることはもっともだと思うんだけど、まだ動かないというシルビオとウーゴにも何か考えがありそうだと思った。


「まだ、奴らに攫われたと決まったわけじゃない」

「他に何があるんだよ?! 3人も消えてて! 少しは怒れよ!」

「口を慎め馬鹿野郎!!」


 ものすごい音量で、シルビオがマルコを怒鳴りつけた。

 勢いで腰を浮かしかけていたマルコは、びくりとその場で固まった。


「感情ばかりでものを言うんじゃねえ、状況をよく見ろ。お前は今ここで全面戦争して、怪我人死人を増やしてえのか?」

「そんなわけじゃない……だけど!」

「出て行けマルコ」


 静かだけど、有無を言わせない口調でシルビオが言った。


「少しはマシになったかと思ったが、クソの役にも立たねえ半人前のままだったな。話にならん、この場にいること自体が間違いだ。部屋で引きこもるなり、どこか出て行くなり好きにしろ。だが……俺の邪魔はするな」

「……言われなくても、出て行ってやるよ」


 唇を噛んでそれだけ言うと、マルコはガタンと椅子を鳴らしてテントを出て行ってしまった。

 あいつがあんなに怒るなんて……今まで見たことないな。

 シーンとなった空間に、ウーゴがため息をついたのが聞こえた。


「頭、もうちょっと伝え方ってものがあるのでは?」

「いい、あいつのことは放っておけ」


 これで話し合いは終わりなんだろうか。

 結局のところ、シルビオの言うとおり、今の状況確認とまだ号令を出さないってことを周知したかっただけみたいだな。


「聞いてもいいか?」


 私は二人に向かって尋ねた。

 ウーゴが振り向いて、「どうぞ」と微笑んだ。


「行方不明の奴らを、すぐに助けに行かない理由はなんなんだ?」

「さっきも言った通りですよ。まだソレルがやったと決まったわけじゃない。俺らが捜索して、跡形もないんだ……プロの仕業の可能性がある」

「プロ?」

「ソレルの仕事の可能性も十分にあるが、それ以外の闇の仕事の可能性もあるってことです。積み荷を奪われたくらいだと、全面戦争の理由にはちょっと薄いんでね……結果が出るのにもう少し、時間がかかりそうなんですよ」

「その盗賊団がやったって、はっきり分かったら、どうするんだ?」

「その時はもちろん……」


 ウーゴはそう言って、ちらりとシルビオの方を見た。

 シルビオが顔をあげて、低い、静かな声で言った。


「全面戦争だ」


予告詐欺してしまいました……すみません。

マルコの婚約者(?)がうるさい回までたどり着けませんでした。

まぁ、区切りも良いので。次話分めいっぱい、リザに使います。


次回は、盗賊団の大浴場からお届けします。

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